刑法 問題4

 甲は、 一人暮らしのAを殺害しようと考え、致死量の数倍に当たる毒薬を混入 した高級ウイスキーをその情を知らない知人Bに渡し、これをA方へ届けてくれ るよう依頼した。 ところが、 Bは間違ってC方に右ウイスキーを届けたため、 C の長男である大学生DがCあてのウイスキーであると誤信してこれを友人E、 F と共に飲み全員中毒死した。
 甲の罪責を論ぜよ。


第1 甲が、毒薬入りのウイスキーをBを介してC方に届けさせた行為に殺人罪(199条)が成立するか。
1 まず、甲は、自分自身で毒入りウイスキーを運ぶことなく、Bに頼んで届けさせている。そこで、このように他人を介した行為でも実行行為性が認められるか。
 実行行為とは結果発生の現実的危険が有する行為をいうところ、他人を介してでも、利用者が正犯意思を有し、他人の行為を道具として一方的に支配・利用したような場合には、結果発生の現実的危険が認められるため、実行行為性が認められる解する。
 本件でも、甲はBを利用して自己の犯罪として実現する意思があるため、正犯意思が認められる。また、Bはウイスキーの毒が入っていることを知らずただ届けるだけの認識であったため、甲がBを道具として利用・支配していたと言える。
 したがって、上記行為に実行行為性が認められる。
2 そして、DEFが死亡しているので、結果も発生している。
3 さらに、因果関係の有無は、行為の有する危険性が結果に現実化したか否かで判断すべきところ、甲がBに届けさせた毒入りウイスキーを飲んだため死の結果発生がしていることから、因果関係も認められる。
4 もっとも、甲は、A方に毒入りウイスキー届け、Aを殺すつもりであった。このように客体に錯誤がある場合でも故意(38条1項)が認められるか。
 そもそも、故意責任の本質は、規範に直面したにもかかわらずあえて行為に出た点にある。そして規範は構成要件の形で与えられているところ、構成要件内で符合する限り、規範に直面し得たといえ、故意は認められると解する。
 本件では、Aという「人」を殺そうとして、DEFら「人」を殺している。したがって、「人」という点で構成要件内で符合するため故意は認められると解する。
 なお、故意の個数が問題となるも、構成要件の範囲内で故意を抽象化する以上、故意の個数は問題にならないと解する。
 よって、DEFら全員に対しての故意が認められる。
5 以上により、甲の上記行為に殺人罪が成立する。
第2 では、甲の上記行為にAに対しての殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。
1 そもそも、未遂犯の処罰根拠は、構成要件的結果発生の現実的危険を惹起した点にある。そこで、かかる危険が惹起された時点で実行の着手を認めることができると解する。
2 本件では、甲はA方に毒入りウイスキーを届けさせようとしたものの、結果的にA方には届いていない。だとすると、Aに対しては、結果発生の現実的危険を惹起したとはいない。
3 したがって、Aに対しての殺人未遂罪は成立しない。
4 もっとも、Aを殺すために毒入りウイスキーを「準備」したといえるため、殺人予備罪(201条、199条)が成立する。
第3 以上により、甲の行為に、DEFに対する殺人罪と、A対する殺人予備罪が成立し、甲はこれら二罪の罪責を負う。これらは客体が異なるため、併合罪(45条前段)となる。
以上


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