民事訴訟法 問題5

 Yは,Xに対し,次の各事由を主張してそれぞれの確定判決の効力を争うことができるか。
1 XのYに対する売買代金請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後,YがXに対し,その売買契約はXにだまされて締結したものであるとして,取消しの意思表示をしたこと
2 XのYに対する賃金返還請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後,YがXに対し,事実審口頭弁論終結前より相殺適状にあった金銭債権をもってXの賃金返還請求権と対当額で相殺するとの意思表示をしたこと
3 賃貸人Xの賃借人Yに対する建物収去土地明渡請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後、YがXに対し,事実審口頭弁論終結前から存在する建物買取請求権を行使したこと

※旧司法試験 平成10年度 第2問


1 設問1 
 XのYに対する売買代金請求訴訟においてX勝訴の判決が確定しており、既判力(114条1項)が生じている。そこで、判決確定後に、Yが詐欺取消し(民法96条1項)を理由として確定判決の効力を争うのは、既判力との関係で許されないのではないか。
(1) 既判力とは、「主文に包含するもの」(114条1項)すなわち訴訟物たる権利法律関係の存否についての判断に生じる。そのため、本件では、XのYに対する売買代金請求権の存在について既判力が生じることとなる。
 そして、既判力の正当化根拠が、手続保障充足を前提とする自己責任にあるため、当時者が攻撃防御を提出することができる最終時点である事実審の口頭弁論終結時における権利関係の存否について既判力が生じると解する。そのため、当事者は同時点より前の事情をもって既判力ある判断を争うことはできず、また、裁判所も後の訴訟において同時点における権利関係の存否を前提として審理しなければならない。
(2) 本件では、詐欺取消しに基づく取消しの意思表示は判決確定後になされていることから、それ自体は事実審の口頭弁論終結時より後の事情である。
 しかし、詐欺による意思表示は、訴訟物たる売買契約に基づく代金支払請求権の請求原因となる売買契約締結の事実に関する瑕疵であり、詐欺取消しの抗弁を前訴において行使することが期待できないような事情はなく、事実審の口頭弁論終結前に取消権を行使することは十分可能であったといえる。
 そうだとすれば、詐欺取消しの抗弁は、事実審の口頭弁論終結前の事情であるといえるから、これを判決確定後に行使して売買代金請求権を免れることはできないというべきである。
(3) したがって、Yは、詐欺取消しを主張して確定判決の効力を争うことはできない。
2 設問2
 XのYに対する貸金返還請求訴訟においてX勝訴の判決が確定していることから、同訴訟の事実審の口頭弁論終結時におけるXのYに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の存在について既判力が生じる。
 そして、事実審の口頭弁論終結前に相殺適状にあった金銭債権との相殺を主張することで、貸金返還請求権を免れることは、基準時前の事情をもって確定判決の効力を争うものとして、既判力により遮断されるとも思える。
 もっとも、詐欺取消しの抗弁とは異なり、相殺の抗弁は、訴訟物たる権利法律関係とは独立した債権の行使の一環である。また、相殺により自働債権が消滅することとなる点で、被告の実質敗訴をもたらす主張でもある。そうだとすれば、事実審の口頭弁論終結前に相殺適状にあったとしても、相殺の抗弁の提出を期待することはできないというべきである。
 したがって、相殺の抗弁は既判力によって遮断されず、これにより確定判決の効力を争うことができる。
3 設問3
 XのYに対する建物収去土地明渡請求訴訟においてX勝訴の判決が確定しており、事実審の口頭弁論終結時点における、XのYに対する賃貸借契約終了に基づく土地明渡請求権の存在につき既判力が生じている。そのため、事実審の口頭弁論終結前から存在する建物買取請求権を行使して建物収去土地明渡請求を免れるとの主張は、既判力により遮断されるとも思える。
 もっとも、建物買取請求権の行使は、賃貸人の明渡請求権の存在を前提とする主張であるから、賃貸借契約の更新を望むような賃借人にとっては実質敗訴をもたらす主張となる点で、相殺の抗弁と同様であるといえる。また、建物買取請求権は、賃借人保護のために、借地借家法が特に借地権者にのみ認めた法定の権利であって、賃貸借契約とは別個独立の権利であるということができる。そのため、建物買取請求権の行使は、賃貸借契約に基づく土地明渡請求権に付着していた抗弁とまではいえず、しかも事実審の口頭弁論終結前に提出を期待することもできな性質の抗弁である。
 したがって、前訴判決の既判力より遮断されないと解すべきである。
 よって、Yは、建物買取請求権を行使して、確定判決の効力を争うことができる。
以上


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