刑法 45


問題

 甲は、かねてより目を付けていた資産家乙宅に深夜忍び込み、金品を物色していたところ、乙の娘丙女に発見された。そこで、甲は所携の包丁を丙女に突き付け、「騒げば殺すぞ。」と吾し、さらに劣情を催して同女を姦淫した後、口封じのためこれを刺殺したが、急に怖くなり金品を何も取らずに逃走した。
 甲の罪責を論ぜよ。

答案

1 甲が、乙宅に忍び込んだ行為は、乙の意思に反する立ち入りといえ「侵入」にあたり、住居侵入罪(130条前段)が成立する。
2 次に、甲が、包丁を突きつけた行為に事後強盗罪(238条)が成立するか。
(1) まず、甲が「窃盗」にあたるか。
 甲は、深夜という通常人が寝静まっている時間に金品を物色していることから、財物の占有移転の現実的危険を生じさせているといえ、窃盗罪(235条)の実行の着手(43条本文)が認められる。
 そうだとしても、何ら金品をとっていないことから、窃盗未遂であっても「窃盗」にあたるか。
ア この点について、事後強盗罪で規定されている目的のうち、財物の取返しを防ぐ目的以外は、窃盗未遂犯でも有し得るため、同罪の「窃盗」は窃盗未遂犯も含むと解する。
イ したがって、窃盗未遂犯にとどまる甲も「窃盗」にあたる。
(2) 次に、丙に包丁を突きつける行為は相手の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であるため、「暴行」にあたる。
(3) また、甲は逮捕を免れるために上記暴行を加えていると考えられる。
(4) そして、甲は、上記事実を認識・認容しているといえ故意(38条1項)も認められる。
(5) したがって、上記行為に事後強盗未遂罪が成立する。
3 さらに、事後「強盗・・・未遂罪を犯した」甲は、丙を「性交」し、その後刺殺しているため、強盗・不同意性交等殺人罪(241条3項)が成立する。なお、同罪に、先に成立した事後強盗罪は吸収される。
4 以上により、甲は住居侵入罪及び強盗・不同意性交等殺人罪の罪責を負う。両者は目的手段の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)となる。
以上

論点

事後強盗罪
強盗・不同意性交等殺人罪

条文

238条 241条 235条

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