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旅のしおり

8月某日に否かと言え場で思い浮かべるようなところを旅をしていて、もうだいぶ日も落ちてきたので休む場所を探していたんです。
蝉の声が強く響く中、山のふもとに集落が見えてきたのでちょっとそこにお邪魔になろうかとでも思ったんですよ。
ある程度近づいた時点で集落の人たちが数人出てきているのが見えたんで軽く挨拶でもしようと思って近づいたら
「何の用でこんなところに来たんだ」って鬼気迫る表情で聞かれたんです。
「旅をしていて暗くなってきそうなので休めそうな場所を探していました」
とそんなことを言うと青ざめたような顔をして
「何か他の目的でここに来たことにしておけ」
「積極的な意欲で来たことにした方がいい」
なんてことを言ってまして。
よく分からないけどさほど気にするようなことでもないかと思ってその人たちの案内で集落に入ったんです。
運が良かったのかXXさんが「うちに来るかい?」と声をかけてくれたので有り難くXXさんの家で一晩を過ごすことになりました。
夜ご飯の時に会話の中で
「そういえばOO(私の姓)くんは何しにこんなところに来たんだい?」
と問われて集落に来る際のことを思い出してとっさに
「この近くの自然を絵に描いて見たくて」
と最悪の場合にヒッチハイクで移動するために鞄に入れておいたスケッチブックを取り出して言ったんです。
XXさんがこちらに異様な視線を送ってきたような気はしたんですけど特にそれ以上何かをされるということもなく夜は明けて集落を出ました。

少し引っかかることがあったので旅のあとにその集落について調べたんです。
検索結果がさほど多くはなかったので思っていたよりも早い段階でその集落出身者のものであろう文章を見つけました。
その中でも後半の部分に気になることが書かれていて
『(前略)私の住んでいた集落では何の目的も持っていない人を神様の贄にするんだけどそれによって目的をもっているひとの目的が達成しやすくなる。それはなんかの間違いでそんなとこにたどり着いたひとにも当てはまるものだったりもする。(後略)』
これに書かれていることが正しいのであれば集落の人はなんで旅をしている私にこれを教えたのでしょうか。
教えなければ自分たちの利益になるはずだったでしょうに。

一人で抱え込んでいても何の解決も見せないだろうと
こんなことがあったんだなんて友達に話してみたら
「神様ってやつがそんな小さいスケールの存在なわけがあるか」
なんてことを言ってのけた。
「ちょっと話の筋が見えてこない」
と先ほどまで話をしていた側が言うことになるとは思っていなかった。
その友達が言うことには
「たとえ集落でしか祀られていない神だろうがそんなちょっとした人間の行動にいちいち反応するほど暇じゃあないだろう。そういえば神様がいたのであれば神社とか祠とかを見かけたりはしなかったのか?」
確かに一晩しかいなかったとはいえ小さな集落だったしそういったものがあったら何か記憶に残っていてもおかしくはないんですが全くと言っていいほどそうしたものについての記憶はないんです。
そんなことを言って話を進めようとしていると
「やっぱり神様とは言えないんだろうな。ただ生贄を要求しているのが気になるか。」
なんて言っていたので
「神でも妖怪や化物のたぐいでもなきゃ生贄なんて確かに手間がかかるだけだよな」
と返すと何かわかったようにうなずきだして変なことしてるなあなんて見てるとすぐに
「一つ何となく筋の通った話が見えてきた」
とか言って語り出した
「要するに神様だけど神様じゃなくなったと言っても良い。神様が何の気まぐれか人間の体を求めた。ちょっと話はそれるけど類感呪術って知ってるか?いや知らなくても構わないさ。要するに何かのある部分に影響をおよぼすとそれに対応する位置に同じ影響が届くというものなんだけどその神様とやらは直接人の体を乗っ取ったりとりついたりするわけでなく人間の体を食らうことで自分の体を構成しようとしたんじゃないかな。まずは頭から食らってその部位を構成していってどんどん末端を埋めていくことにしたんだろう。であれば集落の外で話をしていたとしても聞こえないという異常事態にも説明がつく。人間の耳をしていれば集落の少し外側くらい聞こえないこともあるだろう。」
「だとして村人がそれを妨害したのは理解できないだろう」
「いやそれがそうでもなかったりするのかもしれないよ。
その神様とやらは集落の人に利益をもたらす存在なんだろう?それが人間になってしまえば利益をもたらすという効果が消えてしまうかもしれない。そうなってしまうと考えた人たちは完成形にさせないようにしていたなんて考えたら筋が通るだろう。」

結局どこまでが真実でどこまでがそうでないのかということは全くわかってはいない。
分かり切っている真実なんてものはまだ私の絵がうまくなっていないということくらいだ。

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