『「統計学」のマージャン戦術』のあとがき
ふと、私が書いた本のあとがきを公開したくなった。
そこには、戦術から離れた私の本音が書かれているからである。
まずは、『「統計学」のマージャン戦術』から。
『統計で勝つ麻雀』のあとがきは明日公開する予定である。
では、どうぞ。
(以下、あとがき、なお、誤植は訂正してある)
~データの使い方の補足〜
本書では様々な戦術に関してデータから語ってみました。最後までお読みいただきありがとうございました。
ところで、本書の戦術論を見て、「新しい戦術がない」と思われた方もいるかもしれません。しかし、使い古された戦術についてデータによる裏付けが得られたことにより、戦術自体に納得でき、自信を持ってその戦術を行使できるようになると思います。できる範囲でいいので「こうすべきである。何故なら~」の「何故なら~」の部分に目を通していただければ幸いです。
また、本書では、戦術論を導くために使用した牌譜解析結果(数値)を出来る限り列挙しました。例えば、押し引きを判断する場合、押した場合と引いた場合の局収支の差が分かれば一方を選択できるので、それさえあれば必要最小限度の数値を示したことになります。しかし、本書では局収支それ自体や局収支を求めるために必要な数値(和了率・放銃率その他)も列挙
しました。「正解さえ教えてくれればいい」と思われた方々には余計だったかもしれません。ただ、本書の結論と読んだ方の直感がずれた場合、局収支の大小関係しか書かれていなければ「本の記載と自分の直感のずれはどこから生じているのだろう、どっちを取ればいいのだろう」と悩むことになるでしょう。他方、色々なデータがあれば、例えば、「『攻めた場合の和了率は
30 %である』と書いてあるが、自分は 20 %しかないと思っていた。そのデータを考慮すれば、 自分の直感の方が間違っている可能性が高いから自分の直感の方を修正しよう」とか、「『攻めた場合の放銃率が 20 %である』と書いてあるが、自分は 30 %あると思っている。そして、この 本のデータはなんかおかしい。だから自分の直感を信じよう」などと検証しながら判断することができます。本書で細かい数値を述べているのはそのためです。是非、本書のデータを使って検証していって下さい。
一方、「何故なら~」の部分やデータを見て、「データから戦術論を導く推論過程がおかしい。よって、本書とは逆の結論を選ぶべきだ」と思った部分もあるかもしれません。その場合は局収支それ自体を見て御自身で判断基準を作っていきましょう。
また、本書においてはベタオリした場合の状況設定について「完全にベタオリした場合」としていますが、これについて疑問に思うこともあるでしょう。仮に、ベタオリに失敗する確率を5%とした場合、ベタオリ失敗を考慮した場合の局収支は完全にベタオリした場合と比較して、200~300点下がります。ベタオリに失敗することを考慮した場合の押し引きの基準を作りたい場合はこの数値を参考にしてください。ただ、この場合のベタオリはメンツ中抜きを繰り返してベタオリするような状況を想定しており、ベタオリしているうちに聴牌しなおした、という状況は想定していないのでそのことは頭の片隅に置いておいたほうがいいでしょう。
また、本書で用いている数値は基本的に平均値ですが、平均値を使うことそのものに疑問を抱くことがあるかもしれません。例えば、「本書のデータにおいて立直時に放銃したときの失点が5300点になっているが、自手がドラ0であれば、放銃素点は平均よりも1000点増える。よって、この部分の結論はひっくり返る」と思うかもしれません。この点、放銃素点が1000点上昇した場合における押したときの局収支の減少分は「1000点×(放銃率)」です。そして、1家立直に対して押した場合、放銃素点が1000点上昇しても局収支は200~300点しか減少しません。押した場合とベタオリした場合の局収支の差が400点以上あれば、これだけでその差を引っくり返すのは難しいでしょう。ただ、本書のデータを見てデータに対して疑問を持つことは十分ありうる話です。そういうこともどんどん考えていただければありがたいです。もし、気になれば私か私のように牌譜解析をやっている人に調査を依頼するというのもありうる話です。こういうやり取りがあってこそ数理的麻雀研究に基づく戦術論は進化するのです。
いずれにせよ「完全なデータ」なるものはこの世に存在しません。また、データは信じるものではありません。データの出し方を調べ、そのデータの限界を考え、その範囲で合理的な戦術を模索するということを進めていただければ、本書を軸に新たなデータ・戦術の精緻化がなされれば、その結果として私の出した数値・戦術が否定されることになったとしても私にとってこれ以上の喜びはありません。
〜今後の麻雀研究〜
本書のデータは牌譜解析によって調べています。しかし、立直に対する一向聴の押し引きなど検索条件が複雑になる場合、牌譜解析を用いても役に立つデータが得られないことがあります。そのため、「この程度のデータしかないの?」、「欲しい分野のデータがない」と思ったかもしれません。しかし、牌譜解析以外にも麻雀研究の手法はあります。
まず、「牌をツモる」や「ロンをする」など麻雀の挙動をモデル化しシミュレーションすることで和了率などの数値を出すという手法があります。例えば、nisiさんのシミュレータがあります。このシミュレータは、立直に対する押し引きだけではなく、染め手・ドラポン・フーロに対する押し引きについても知ることができます。また、自分の挙動についても「最初は一
向聴・聴牌を維持するが、途中で危険牌を引いたらベタオリ」という設定でのシミュレーションもできます。さらに、局収支だけではなく、平均順位、成績、さらには、天鳳の段位ポイント期待値を計算することができます。押し引きについてはこのシミュレータが役に立つでしょう。
また、麻雀AIに関する研究も行われています。最近、麻雀AI「爆打」が「達成するのが難しい」と言われている天鳳の九段に到達しました。将来はさらに強くなったAIが生まれ、「具体的な手牌を入力すれば最善手が分かる」といった時代が来るかもしれません。
さらに、牌譜解析にもまだ利用価値があります。例えば、先程のシミュレータを作る際、牌譜解析を用いてパラメータを決めています。また、当たり牌読みを検証する際にも牌譜解析は有効です。
このように、麻雀研究の手法は多岐にわたり、今後も麻雀研究によって様々な成果が発表されていくことでしょう。今後の麻雀研究に御期待下さい。また、本書を読んで麻雀研究に関心を持った方、「私ならもっと意味のある数値が出せる」と思った方、是非、麻雀研究に足を踏み入れて下さい。麻雀研究をしてその結果を公開している人は非常に少ないので、自分が興味
を持ったことを調べて公開するだけですぐに研究者になれます。
〜謝辞〜
最後に、本書や私の麻雀研究は色々な方々の協力によって成り立っております。一部紹介すると共に御礼を言わせてください。
最初に、オンライン麻雀サイト天鳳の運営者である角田真吾様にお礼を申し上げます。彼が、大量の鳳凰卓の牌譜を、しかも、無償で公開したことが麻雀研究を発展させたことは言うまでもありません。また、これがなければ本書や私の麻雀研究結果はありませんでした。まず、彼に御礼を申し上げます。
次に、本書を作成するにあたってはnisiさんの作ったシミュレーション結果を参考にしました。また、 nisiさんには私が出したデータについて再試をしてもらいました。 nisiさんなくして本書はなかったと思っております。nisiさんにも御礼申し上げます。
また、私が牌譜解析などを行うにあたっては、北HAZさん、ほしきゅーさん、craneさんらの先行研究を参考にいたしました。データ自体は私自身が取り直していますが、彼らの牌譜解析結果がなければ、その研究をやらなかったと思います。今挙げた3名の方々にも御礼申し上げます。
さらに、私を麻雀に、そして、麻雀研究に興味を持たせた『科学する麻雀』の著者であるとつげき東北氏にも御礼申し上げます。そもそも、私が麻雀や麻雀研究にはまるきっかけになったのは、約 12 年前にとつげき東北HPの「最強水準を目指す麻雀講座」を見たことでした。彼のサイトを見て麻雀が数理的な研究対象になることを知り、2年も経たないうちに麻雀研究を
することになりました。私が牌譜解析結果を含む麻雀研究結果を公開しているのは彼への恩返しという意味合いもあります。本書によってわずかでも恩返しできればと思います。
また、私の友人である中の上氏にもお礼を申し上げます。彼は、私が研究をするにあたってプレーヤーの観点から色々な意見を投げかけてくれました。
最後に、ここまで読んでくださった皆さんにお礼を申し上げます。皆様の実力が向上すること、麻雀への理解が深まることを願ってやみません。
(あとがき以上)
もし気が向いたら、サポートしていただければありがたいです。 なお、サポートしていただいた分は、麻雀研究費用に充てさせていただきます。