ソラを見上げて #16 お嫁にいけない！
具体的な説明がないまま進めると、後々大惨事になるだろう。だけど、事前に説明した方がもっと大変な事態になる事もある。まぁ、それも経験だ。次の展開に活かそうじゃないか。
―○○の部屋・夕方―
〇：はぁ……どうしよう
ソ：どうしたの？ 推しの外野手がFA宣言でもした？
〇：僕が落ち込んでる理由が野球だと本当に思ってる？ ていうかFAって何？
ソ：FA宣言。それは、一軍に登録された日数が145日以上の年が9シーズンに達するとその資格が与えられるの。日本シリーズが…(以下略)という制度なの。だから悲しんじゃ駄目よ。移籍先でも応援してあげてね？ うぅ……
〇：うん。感動的な説明ありがとう、ソラ。
ソ：で、どうしたの？ 学校で何かあった？
〇：何かあった。というか、何も出来なかったというか……
ソ：相変わらずまどろっこしいわねー。ハッキリ言いなさいよ
〇：学校の恒例行事で夏の課題があってさ。
ソ：夏休みの宿題的な？
〇：うん。デザインから制作までゼロから一着仕上げなきゃいけなくて……
ソ：毎日学校でやってる事じゃない。一着でしょ？ 何が問題のなのよ？
〇：モデルが……
ソ：モデル？
〇：生徒同士がペアになって制作する事が条件でさ。もしくは身近な人でもOKとは要項に書いてあったけど。見つからなくて……
ソ：クラスって何人くらいいるの？
〇：20人
ソ：そんなにいるのに？ また人見知り発動しちゃった？
〇：いや、頑張ってみんなに声をかけたんだよ。だけど女子は既に仲良しグループが出来上がってて断られちゃってさ
ソ：男子は？
〇：僕以外、みんな彼女がいるらしくて
ソ：で、群れからはぐれたのは○○一人。と……
〇：これからライオンに食われそうな言い方やめてくれない？
ソ：身寄りのない○○は、学校をさ迷っていたのねぇ。
〇：やめて。この後、絶対ライオン出てくるじゃん。ディスカバリーチャンネルの確定演出じゃん
ソ：ふーん、モデルねぇ。
〇：こうなったらダメ元でマスターの奥さんに
ソ：あ。そっか！
〇：ん？
ソ：私がやればよくない？
〇：えぇぇ!? いいの？ だって、服のモデルだよ？
ソ：うん。別に構わないけど？
〇：まじで？ 本当に？ ありがとう！
ソ：ちょっと大袈裟よ○○。たかがモデル引き受けたくらいで
〇：そんな事ないよ。もうどうしようかと思ってたんだ
ソ：喜んでくれるなら、良かったわ。
〇：よかったぁ。早速明日申請してくるよ。
(翌日……)
―○○の部屋・夜―
〇：じゃあ早速だけどいいかな？ ソラ。
ソ：どしたの？
〇：ほら、昨日モデルを引き受けてくれたでしょ？
ソ：うん
〇：今日から制作始めようかと思ってさ。だから
ソ：だから？
〇：採寸しないと
ソ：……さいすん？ えーっと、さいすんって、体のサイズを測るアレのこと？
〇：うん。ソラのサイズ測らないと始まらないでしょ？
ソ：あぁ、だからメジャーを持ってるのね
〇：そうだよ
ソ：確認なんだけど、採寸って事は私のスリーサイズとかも測ったり……
〇：そりゃ服だからね……え、もしかして採寸するって思わずに引き受けたの？
ソ：モデルって言うもんだから、○○が作った服を着るだけだと思ってた……
〇：なるほど。どうりであっさり引き受けてくれたワケだ
ソ：迂闊だった……
〇：さ、覚悟決めて？
ソ：嫌ぁ！ 無理！
〇：往生際が悪いよ、ソラ。
ソ：もう往生してるもん！
〇：そういう意味じゃなくて！
(部屋の中をふわふわと逃げ回るソラと、歩いて追いかける○○)
ソ：週に一度の楽しいご飯は？ 三角定義あぶらあげは？ 笹かまは？
〇：我慢して！ 僕も我慢するから！
ソ：そんなぁぁ！
〇：その代わり来週は萩の月も付けるから、ね？
ソ：うぅ……
〇：僕の夢、応援してくれるんだよね？
ソ：それ言うの反則だよ……
〇：なるべく早く終わらせるから
ソ：初めて男の人に触れられるのが採寸なんて……
〇：ごめんなさい
ソ：せめて、素敵な思い出に……
〇：あぁもう！ いいから黙って実体化して！ 変に意識しちゃうでしょ！
(五分後、ソラの実体化も解除され……)
ソ：もうお嫁にいけない！
〇：つかれた……
こうして僕は、ソラの激しい抵抗を制し、なんとか採寸を終えた。その後の製作は至って順調に進み、数週間後、無事に提出することができた。
だけど、一つだけ大きな失態を犯してしまった。課題を提出する時に講師から『作品名は？』と聞かれ、何も考えてなかった僕は……
sora(ソラ)と答えてしまった
突然言われて頭が真っ白になって……迂闊だった。この事はソラに黙っておこう。モデルと作品名が同じなんて恥ずかしすぎる。
ーつづくー
【おまけ】
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