ソラを見上げて #30 美波、復活。
(2025年1月)
【乃木坂の未来】
あけましておめでとうございます!
どうも、梅澤美波です。
昨年は色々とご心配をかけてしまってすみません。今年は元気全開でスタートダッシュするぞ!
昨年は色んな事に気づき、改めて感謝する一年でした。
応援してくれるファンの皆さんはかけがえのない存在だって事。そして、私の周りにはこんなにも素敵な仲間がいたという事。
私を優しく抱き締めて『話聞きます』って言ってくれた瑠奈。落ち込んでる私に『守ります』って力強く言ってくれたかっきー。
ね?
頼りがいがあるでしょ? 私の後輩ちゃん。
彼女達がこれからの乃木坂46を受け継ぎ、輝かせ、守り、変化させ、素晴らしいグループにしていくんだと確信しています。
まぁ、今も輝いてるけどさ?
いいじゃん、言わせてよ。最後なんだから。
そう、最後なんだ。乃木坂46の梅澤美波として新年の挨拶するの。
私、梅澤美波は乃木坂46を卒業します。
白石さんに憧れて、握手会に行ったのが全ての始まりでした。そんな私が乃木坂46の三代目キャプテンになるなんて思いませんでした。偉大な先輩達の背中を見て、頼もしい後輩たちにも囲まれ、応援してくれるファンの皆さんがいて……
私、すっごく幸せです。
ブログを書いてる今も思い出がたくさん蘇ってきて、涙が止まりません。卒業時期は今年の秋を予定しています。それまでは今まで通り……
2025年、乃木坂46公式のニュースは梅澤美波のブログから始まった。そして瞬く間に梅澤美波卒業のニュースはテレビやSNS上で話題となり、卒業を惜しむ声が後を絶たなかった。ファンの間では早々に卒業コンサートの日程や卒業後の活動について様々な予想合戦が繰り広げられていたが……
これは私のけじめ。卒業コンサートなんて図々しいにも程がある。
久保史緒里の死後、グループ全体に迷惑をかけたこと、応援してくれるファンへ心配をかけたこと。梅澤は自らの戒めを込め、卒業コンサートをする事は一切考えていなかった。
でも、どういう風に卒業すればいいんだろう。
自らの卒業を想像できない梅澤は、苦悩する。
(2025年2月)
―仙台駅・野球狂の詩(うた)店内―
マ妻:何だって大変な時期に来たもんだね。
梅:急にすみません。どうしてもご相談したいことがあって。
マ:相談するためにわざわざ東京から来たの?
梅:えへへ、来ちゃいました。
マ妻:どうやら訳アリって感じだね。
梅:はい、飛びっきり訳アリです。
マ妻:あっはっは、そうかい。じゃあ聞かせてもらおうか。
梅:実は
笑顔で迎え入れるマスター夫妻に、梅澤は2022年末から現在までに起きた出来事を話す。隠し事をしたまま活動を続けて体調を崩してしまった事。平塚の海岸で泣いた事やファンの前で正直に話した事。だが、相談したい問題は別にあった。
マ妻:久保ちゃんね……
梅:どうしても乗り越えられないっていうか、いない事に慣れないというか。考えすぎなんでしょうか。
マ妻:考えすぎって事はないんじゃないかい? いつも隣にいて、相棒みたいな関係だったんでしょ?
梅:はい、何をするにも真っ先に相談してました。グループの事も、個人的な悩みも。今は後輩の子たちがよく声をかけてくれるので、悩みとかそういう問題は特に無いんですけど
マ:存在がって事だよな。
梅:……はい。いない事にまだ違和感があって。メンバー表を見た時とか『あぁいないんだな』って改めて気づくんですけど、そうすると不安な気持ちがどんどん大きくなっていってしまって……
マ妻:いつも一緒にいたんなら尚更よね。
マ:うーん。
梅:すみません。急に来てこんな話されても困りますよね。
マ妻:そんなこと無いわよ。でも、いない事に慣れるってのは——
マ:参考にならないかもしれないけど。俺の経験談でもいいかな?
梅:はい、是非。
マ:実は俺も若い頃に親友が死んだ事があってさ。そいつとは毎日の様にくだらねぇ事で喧嘩して、一緒にビール飲んで、野球しててさ。で、急にガンだって言われて、半年後に死んじまったんだけど……
梅:……
マ:目の前で死んだの見てもさ、ぜんぜん実感湧かないんだ。自分でもどうしていいか分かんなくて戸惑ったよ、親友が死んだのに涙も出ねぇし。で、次の日にいつもつるんでた奴等と葬式行ったんだけど、そいつ等も同じ感覚でさ。
梅:それから、どうされたんですか?
マ:葬式終わったし、いつも通り野球やんねぇ?って。
梅:え?
マ:わっかんねーんだけど、たぶん悲しいんだ。でも泣くわけじゃねーし、何も手がつかなくなるわけじゃねーし。じゃあ、普通に野球やる?ってなって。
梅:普通に、ですか。
マ:あぁ。あいつも死ぬ直前まで普通に生きてたからさ。俺達もいつも通り、普通に野球しようぜって
梅:いつも……通り
マ:悲しんだって喜ばないとか、そんな格好良い理由じゃねーんだ。でもさ、ぶっさんが死んだからって、何かを変えたりしたくねーんだわ。
梅:ぶっさん?
マ:あぁごめん。そいつのアダ名なんだ。
梅:変なアダ名ですね。
マ:はは、だろ? 俺だってマスターだしさ。他にもアニ、バンビ、うっちー、モー子……
梅:うっちーはまだ普通っぽいですね。ふふ
マ:でもうっちーが一番ヤバい奴だったんだ。わははは!
マ妻:懐かしいね。揃いも揃って毎日の様にタダ酒飲みに来てたもんね。
梅:普通に、いつも通り……か。
マ:まぁ俺の体験談なんて役に立たないだろうけどさ。
梅:いえ、すっごく参考になりました。
マ妻:そう。それなら良かった。
梅:急にお邪魔してすみませんでした。お話しできて良かったです。
(椅子から立ち上がり、お辞儀をする梅澤)
マ妻:気を付けて帰んのよ?
梅:はい。それじゃ——
マ:梅ちゃん!
(梅澤を呼び止めるマスター)
梅:え?
マ:梅ちゃん、とっておきの魔法の言葉教えてやるよ。
梅:魔法の言葉?
マ:そう。これを言うとパワーが出るんだよ。ブワー!って
梅:なんていう言葉なんですか?
マ:【負ける気がしねぇ】
梅:あっはははは! それ良いですね。いただきます。
マ:梅ちゃんもやってみな。
梅:え、今ですか?
マ:いいから!
(先程のマスターの顔を真似して、眉間にシワを寄せる梅澤)
梅:……負ける気がしねぇ。
マ:OK! 平塚感スゲー出てて迫力満点だ!
梅:アイドルがこんな言葉使って大丈夫ですかね……あっははは!
マ:元気でな!
梅:はい!
(2025年3月)
―梅澤の自宅マンション―
(ソファーの上で膝を抱えている梅澤)
普通、いつも通りの私って何だろう? 久保がいなくなってから、そんなこと考えた事なかった。もう泣かないって、キャプテンだから強くなくちゃって。でも……
それは違っていたのかも。
梅:変わったのかな、わたし。
考えたって思い出せない。いや、そもそも覚えていないんだ。きっと
(テーブルの写真立てを手に取る梅澤)
もっと近くに……傍に行ったら、あの頃の私に戻れるかな。
(テーブルに置かれた写真立てをじっと見つめる)
梅:いい? 会いに、行っても。
(翌日……)
—仙台駅・2階中央改札前—
梅:バスプールはヨドバシ……とは違う方の出口。こっちかな?
(手元にあるメモを頼りに駅構内を進んでいく)
梅:げ。
(外へ出ようとした梅澤が見たのは、大雨に濡れた仙台の街だった)
梅:うわ……天気予報見とけば良かった
“思い立ったら吉日”も、私にかかれば“小吉日”になるみたい。これじゃ咲月に笑われる。
梅:ま、衣装じゃないからいいか
『あの……』
(梅澤の隣にいた青年が声をかけてくる)
梅:え? あ、すいません。聞こえてました?
やば、独り言聞かれてた。
『はい。もし良かったら、コレ使って下さい』
(青年はそう告げると、梅澤に傘を手渡す)
梅:え? いや、私そんなつもりじゃ
『いいんです。僕の家、駅前らしいんで。走ればなんとかなります』
梅:らしいって、自分のお家なのに
『それじゃ』
梅:あ、ちょっと!……行っちゃった。どのみち傘は買わなきゃだったし……じゃあ、遠慮なく使わせてもらおっかな。
(渡された傘を開き、バスプールへ向かって歩き出す梅澤)
―仙台市某所・XX墓苑―
梅:あってる。ここだ
(目の前にある大きな案内板の住所と手元のメモに書いてある住所が同じだと確認した梅澤は一度深呼吸をし、階段を上っていく)
梅:え、ひろ……
(階段を上った先には広大な敷地。そして無数の墓石が並んでいた)
梅:ここから探せって……噓でしょ?
(30分後……)
梅:どこにいるのよ……もう。あ、すみません
住職:おや、どうされましたか?
(途方に暮れ、近くで掃除をしていた住職に声をかける梅澤)
梅:この方のお墓を探しているんですが、見つからなくて……
住職:んん? 久保……史緒里。はて、その様な名前は存じませんな
梅:え?
住職:見たことも聞いたこともありません。場所を間違えたのでは?
梅:そんなハズありません。友達が何度もここに来てるんです。間違いありません!
住職:そう言われましても、知らないものは知らないのです。
梅:そんな……
住職:申し訳ないが、力になれそうにありませんな。
梅:そう、ですか。お時間取ってしまってすみません。お邪魔しました
(梅澤は住職にお辞儀をして、その場を後にする)
住職:……お嬢さん
梅:え?
住職:聞いてもよろしいかな?
梅:……はい
住職:探している方はいつ頃亡くなられたのか?
梅:2年半前です。
住職:ふむ。2年半もの間、ここに訪れなかったのは何か理由がおありか?
梅:合わせる顔が、無かったから
住職:その方に何か後ろめたい事でも?
梅:……言わないと、いけませんか?
住職:ただのジジイの戯言です。無理に付き合う事はありませんよ。
(梅澤はふぅ、と呼吸を落ち着かせ再び話し始める)
梅:看取れなかったんです。急いだけど、間に合わなくて——
住職:そうでしたか、辛い事を思い出させてすみませんでしたな。
梅:いえ、私が悪いんです。だから、ちゃんと謝りたくて。
住職:ほぅ
梅:では失礼します。お邪魔してすみませんでした。
住職:梅澤美波さん。
梅:!!?
(住職の口から自分の名前が出たことに驚く梅澤)
住職:で、合ってるみたいじゃな?
梅:どうして私の名前を
住職:ついてきなさい。彼女の所に案内しよう。
梅:え?
(そう告げると、持っていたホウキを木に立てかけて歩き出す住職)
梅:……
住職:ん、どうした。来ないのかの?
梅:あ、はい! いきます。
(慌てて住職についていく梅澤)
―XX墓苑・敷地奥―
(地上の広大な敷地を外れ、地下歩道へ続く階段を降りていく二人)
梅:あの、聞いてもいいですか?
住職:おん?
梅:私が声をかけた時、知らないって言ったのはどうしてですか?
住職:ふむ。これまでもお嬢さんの様にここを訪ねてくる者が大勢いてな。じゃがそのほとんどが彼女とは縁も所縁もない興味本位で来る者ばかり。この墓苑は近親者や親交の深かった者のみ訪れることが許された場所。だからお嬢さんがその他大勢か、そうでないか見極める必要があったんじゃ。
梅:そうだったんですね。
住職:大層有名な方だったんじゃな、彼女は。
梅:はい。誰からも愛される子でした。
住職:試すような真似をしてすまない。ワシの役目でな、悪く思わんでほしい。
梅:いえ。久保のこと、大切にしてくれてありがとうございます。
住職:ほほ、まさかお礼を言われるとは。さ、着きましたぞ。
(立ち止まった住職の肩越しに、ろうそくの灯りと見覚えのあるペンライトが見える)
梅:ここが——
住職:ではな。好きなだけ話すといい。
梅:ありがとうございます。
―XX墓苑地下・久保の墓―
(墓石の周りには乃木坂46在籍時の集合写真、楽天の帽子やバットが供えられている)
梅:ふぅ
(胸に手を当て、深呼吸する)
梅:ホントはね、久保がいない事を受け入れてからここに来ようと思ってたんだ。でも、今でも久保がいないんだって思うと不安になるの。きっと心のどこかでまだ受け入れられていないんだと思う。
梅:じゃあ何しに来たんだって思うよね?
(墓石に向かって笑いかける梅澤)
梅:あの頃の私に戻ろうと思ってさ。まぁ、何も言わずに聞いてよ。
(懐からお守りを取り出して墓石の前に掲げる梅澤)
梅:あれから2年半経ってさ……信じてもらえないかもしれないけど、弱くなっちゃったんだ、わたし。もう最弱、よわよわ。私なりに頑張ったつもりなんだけど、どうやら頑張り方を間違えたみたいでさ。メンバーにも、ファンにも迷惑かけて……今野さんにも。
梅:色々あって、みんなに助けられて何とか立ち直れたんだけど。どうしても一つだけ乗り越えられなくてさ……
(手元のお守りを見つめる梅澤)
梅:久保がそばにいない事にどうしても慣れなくて。それで久保が知ってる居酒屋のマスターとおかみさんに相談したら、いつも通りの自分が一番だって気づいたの。だから——
梅:ここでこんなこと言うのもおかしいんだけどさ。久保が死んだこと、一旦忘れる。
(笑顔で墓石に話しかける梅澤)
梅:いきなり何言い出すんだって思ったでしょ? でもさ、やっぱり私は久保が隣にいた頃が最強だった気がするんだ。何をするにも、考えるにも、根拠は無いけど『これが正解なんだ』って信じられた。一緒に笑って泣いて、悩んで、必死だったあの頃の……最強の私に戻る方法は、これしか無い。
梅:久保と一緒なら、あの頃に戻れたら……きっと最後まで頑張れる気がするの。
(お守りを両手で包むように抱きしめる)
梅:卒業するんだ、わたし。
梅:キャプテンに就任してから迷惑かけっぱなしでさ、有終の美なんて口が裂けても言えないし。だから、これは私のケジメ。それなのに——
梅:それでも、こんな私にも頑張ったねって言ってくれんだ。やろうよって言ってくれるの……みんなが。だから、やろうと思ってる。卒業コンサート。
(再び梅澤の瞳から涙がこぼれ落ちる)
梅:そしたら、久保は来てくれる? 大丈夫だって、ちゃんと場所は考えてるから。新幹線も飛行機もいらないところにしてあげる。ふふ。
梅:それじゃ。またね。
―XX墓苑・入館口―
(入館口で掃き掃除をしている住職)
梅:ありがとうございました。
住職:少しは気が晴れましたかな?
梅:はい、とっても。
住職:ついでじゃ、もう少し付き合えるかの?
(梅澤に手招きする住職)
梅:え? あ、はい。
―XX墓苑・管理事務所―
梅:……(なにか用事でもあるのかな?)
(座敷に座り、出されたお茶をすする梅澤)
住職:お待たせしましたな。
(座敷の奥から姿を現す住職)
梅:いえいえ。それで、私に何か用事でも……?
住職:なぁに、お嬢さんにちょっと見せたい物があってな。
梅:見せたいもの?
住職:よっこら……せっと。ふぅ、これじゃ。
梅:これは、帳簿ですか?
住職:そうじゃ。
梅:これが……見せたい物。ですか?
住職:さっきも言ったが、この墓苑は故人と親交が深い者だけが訪れる場所でな。
梅:はい。
住職:とはいえ、誰がいつ来たか書き記す風習もあるんじゃ。
梅:それが、この帳簿なんですね。
住職:うむ。で、じゃ。ワシがお嬢さんの名前を知っていた理由、気になるじゃろ?
梅:あ! そういえば……そうですよ、どうして知ってたんですか?
住職:なんじゃ、目つきが鋭い割に鈍いんじゃな。
梅:な……///
住職:帳簿の話に戻るが……ここにある来訪者の帳簿は一つではない。その故人に関わる者だけのくくりで帳簿を作る事もある。例えば高橋家、梅澤家とかな。えぇと、どれどれ。
(老眼鏡をかけ、手元の帳簿をめくり始める住職)
梅:……?
住職:ゴホン。生田絵梨花、松村沙友里、源田びさい…あ、美彩(みさ)か、井上小百合、白石麻衣、西野七瀬、玉置佑美……えー次は、北野日奈子、伊藤純奈……しかしまぁ大家族じゃのう
梅:先輩達の名前ですね。
住職:それだけじゃない。ほれ、ここ見てみぃ。
梅:……ここって、もしかして
(梅澤が見ている帳簿欄には不自然な空欄があった)
住職:ここは何やら特別な括りで集まった者だけに書かせる様に言われててな。この三番目の空欄、もしやお嬢さんの場所じゃないか?
(空欄を指差す住職)
梅:きっと、そうだと思います。書いてもいいですか?
住職:勿論じゃ。
梅:では、失礼します。
(帳簿に名前を書く梅澤)
住職:お嬢さんに書いてもらわんと、ワシが怒られるからの。
梅:怒られる……誰にですか?
住職:大園、桃子ちゃんにな。
梅:桃子……
(住職から出た名前に体が強張る梅澤)
住職:桃子ちゃんは誰よりも先にここを訪れてな。それ以来、三か月に一度はここを訪れておる。それで、初めてここを訪れた時『何年経ってもみんなとの繋がりを大切にしたい』と言っててな。ワシが帳簿の事を話したら是非、ということでこれを作ったんじゃ。
梅:それが、この帳簿。
(帳簿の1ページ目には毛筆で『乃木坂四六』と書かれている)
住職:墓参りに来ては『梅澤美波は来ていませんか?』とワシに尋ねてきてな。その表情から何やら事情があるのはすぐ分かった。それが続き、一年経ってもこの枠が埋まる事は無かった。
梅:……
住職:そして二年が経ち、桃子ちゃんは変わることなく同じ事をワシに尋ね続けた。あまりに一生懸命なもんじゃから、理由を聞いてみたんじゃ。そしたら色々と話してくれてな。
梅:そう、だったんですか。
住職:二人揃って同じような顔しとるのぅ。
梅:桃子……桃子は、私のこと何か言ってましたか?
住職:『謝りたい』と。じゃが『あんな酷いことを言った私はきっと許してもらえない』とも言っておった。
梅:なんで、なんでそんなこと言うのよ……
住職:生きてりゃすれ違いもある。ましてや仲が良ければ、距離が近ければ近いほど摩擦が起こり易い。出会ったばかりの頃はぶつかってばかりだったんじゃろ? だが時が経ち、共に気遣いも出来るようになっていった。遠回りしたかもしれんが、ぶつかった事は必要だったと桃子ちゃんは言っておった。
梅:桃子……
住職:これもまた、そうではないか?
梅:悪いのは、間に合わなかったのは私なのに。
(梅澤の瞳から幾つもこぼれ落ちる涙)
住職:苦手な食べ物も、お互いのすれ違いも、生きてる内に解決しておいた方がよいぞ?
梅:そんなこと言われたら、誰も言い返せませんよ。
住職:ほっほっほ。ワシの決めゼリフじゃ。言葉の重みが違うじゃろ?
梅:っふふ……ですね。
住職:ワシがしてやれるのはここまでじゃ。あとはお嬢さん次第じゃぞ?
梅:わかってます。色々と、ありがとうございました。
住職:うむ、桃子ちゃんによろしくな。
梅:はい!
(住職に深々とお辞儀をして管理事務所を出ていく梅澤)
住職:やっと11人揃ったか。桃子ちゃんの言った通り、素直で礼儀正しく、ちょっと鈍い子じゃったな。
(足早に墓苑を出ていく梅澤の背中を見つめる住職)
住職:おぉ、こりゃ珍しい。虹が二つも出とる。
(住職が見上げた空には二つの虹が掛かっていた)
(その日の夜……)
―梅澤の自宅マンション―
梅:……
(真剣な眼差しで携帯電話の画面を見つめる。待ち受け画面には梅澤と久保、そして桃子の三人が映っていた)
梅:……ふぅ
(意を決したように携帯電話を操作し、どこかへ電話をかける)
【prrrr……📱】
『おかけになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため——ピッ』
梅:ここしかないか……
(電話を切った後、再びどこかへ電話をかける梅澤)
【prrrr……📱】
『はい、こちらphilme(フィルム)です』
梅:桃子? 美波だけど——
『ご用の方はピーという発信音の後に3分以内でメッセージと連絡先を吹き込んで下さい。後ほどご連絡します。ピー』
梅:桃子? 美波だけど……ごめんね、会社に電話かけちゃって。携帯にかけても留守電にならなかったから……
(携帯電話を握る手に力が入る)
梅:今日、久保のところに行ってきた。会いに行くまで随分時間かかっちゃったけど、自分なりに向き合ってきた、つもり。実は、まだ久保がいない事を受け入れられてないんだ。でも、それでも前に進まなきゃいけないから……これから全力で頑張らなきゃいけないから、久保に会いに行った。昔の、自分に戻るために。
梅:お墓参りの帰りにご住職に話を聞いたよ。乃木坂の帳簿があること、それと桃子のことも。ごめんね……わたし、桃子のこと苦しめてたね。待っててくれたんだね……ずっと。ごめんね、桃子。
(大粒の涙を流す梅澤)
梅:ごめん、留守電でこんな話しちゃって。でもどうしても桃子に謝りたくて……でも、謝ってばっかりだとまた桃子に怒られちゃうね……はは、また電話するね。それじゃ。
【ピッ……📱】
梅:……またね、桃子。
―philme事務所―
『また電話するね。それじゃ。……ピー、メッセージは以上です』
(電話の前で大粒の涙を流す女性)
『社長、良かったですね』
桃:ぐす……うん。
『ずっと、待ってましたもんね』
桃:うん……うん。
(2025年4月)
【皆様へご報告です!!】
どうも。梅澤美波です。
もうすっかり春ですね。
歌番組の衣装も桜色で、春を感じます。
私の場合、目と鼻にも春を感じるこの季節。
そう、花粉症ですよ。毎日毎日くしゅんくしゅん!って、もう大変です。どうにか花粉にだけ鈍感になる方法ないですかね(^^)
さて、
年始に卒業発表をして、早いもので三か月がたちました。
花粉には敏感に反応するのに、卒業には、まだまだ実感が湧きません。それでも、その日は少しずつ、確実に近づいていて…
卒業した先輩たちは、どんな時に、なにがきっかけで実感したのかな。私はどんな時に卒業を実感したり、寂しさを感じるんだろう? なんて、ふと考えます。
でも、このブログが公開されたら一気に湧いてくるんじゃないかなぁ……
と、いうことで…
梅澤美波、卒業コンサートします!
ファンの皆様からは卒業発表直後から、ブログのコメントやミーグリで『卒コンやらないの?』『絶対行くから!』なんて嬉しい言葉を沢山いただいてました。
ちょこっとだけ本音を書くと、実は卒業コンサートをするつもりはなかったんです。
ファンの皆様にあんなに心配かけて不安にしてしまって、私にはそんな資格無いって。卒業発表してから思ってました。
でも、これまで応援してくれたファンの皆様に感謝を伝えなきゃって思ったから。ありがとうってちゃんと自分の声で伝えなきゃって。
最大の感謝を込めて全力で臨みます!
待っててね!
開催地は……
この日、梅澤美波はブログで卒業コンサート開催を発表。
日時は2025年10月19日。
そして、開催地は
久保史緒里の故郷、宮城県。
セキスイハイムスーパーアリーナに決定。
また、コンサート当日にグループを卒業することも併せて発表した。
(ブログ更新直後……)
―某テレビ局・乃木坂46楽屋―
美:あら、早速ネットニュースになってるわ。はや。
林:そりゃあ我らがキャプテンの卒業コンサートですから。ふふん
梅:なぁんで瑠奈が嬉しそうなのよ?
(自分の事のように誇らしげにドヤ顔する林)
珠:ケータリングには萩の月、笹かまと司の牛タンは外せないんだな。
遥:エビチリ! エビチリの美味しいお店来てくれないかなぁ?
(キャプテンの卒業よりもケータリングやご当地グルメに思いを馳せる珠美と遥香)
梅:いや、あの……もう少しさ、キャプテン卒業の寂しさとか噛みしめない?
咲:だぁぁ……あぅ、寂しいに決まってますぅ。ぐす……姐さんいかないで!
(背後から梅澤を抱きしめる咲月)
梅:咲月は嚙みしめ過ぎ!
美:ぎゃっはっは。おもろ。
『乃木坂46さん、リハーサル始めますのでスタジオまでお願いします』
全員:はい、ありがとうございます。
(梅澤と美月を残し、足早に楽屋を出ていく4人)
美:あーあ、おっかし。
梅:やま、お願いがあるんだけど
美:お? どした?
梅:いつものやつ、やってくんない?
美:いつものやつって……は? 今日、トーク番組だよ?
梅:いいから。とびっきりのやつ、お願い。
美:……いいよ。とびっきりのやつ、やったげる。
(笑顔で右腕をぐるぐる回す美月に背を向ける梅澤)
美:いくよ~?
梅:こい!
美:おらぁ!
(気合と同時に梅澤の背中に張り手をする美月)
梅:だっ……いった! いたぁ~
美:どうよ?
梅:ばっちり……いてて
美:んじゃ、先に行ってるからね~♪
(ガチャ、と楽屋のドアが閉まる)
梅:……ふぅっ
(化粧台に手をつき、鏡に映る自分を見つめる梅澤)
梅:さぁ、もう後戻りは出来ねぇぞ。最後なんだからな? 後輩たち、ファンのみんな、これから入ってくる六期生に格好悪い姿なんか見せられないからな、梅澤美波!
梅:すぅ……はぁ。
(静かに目を閉じ深呼吸。そして再び目を開く)
梅:負ける気がしねぇ
ーつづくー
梅澤美波は再び歩き出す。
グループの未来のため。
そして、久保史緒里に別れを告げるため。
しかし、その道の先で待っていたのは
久保史緒里と同じ顔をした【sora(ソラ)】という存在だった。
彼は夢に向かって歩き出す。
ソラと一緒に……時に悩み、共に笑いながら。
そして目の前で笑うソラの幸せを願いつつ、
いつか来る別れの時を感じながら。
しかし、その道の先で待っていたのは
ソラと同じ顔をした、久保史緒里という存在だった。
第二章 閉ざされたトビラ(扉)篇、終了。
第三章 伝えたかったコト(言)篇、始動。
(卒業コンサート開催の告知から三か月後。2025年7月……)
ー東京駅ー
梅:おまたせー! 買い物してたら遅くなっちゃった。
遥:美波さん。その荷物どうしたんですか?
梅:え? 何って、お土産だけど?
遥:お土産って……美波さん、仙台に親戚いましたっけ?
梅:ううん。行きつけのBARのマスターとおかみさんに。
遥:これ全部?
梅:うん。これ全部。
遥:修学旅行の帰りかよ!ってくらいありますけど。
梅:お世話になってるからね。こういう事でもないとなかなか来れないしさ。
遥:それにしたってこの量は……
梅:ほらほら、早くしないと乗り遅れちゃうよ。行こ?
遥:はーい。
(二時間後……)
ー仙台駅3階・改札付近ー
梅:ついたー。ただいま、仙台。
遥:ただいま……ですか。
梅:うん。私にとって第二の故郷みたいなものだからね。
(お土産が詰まった紙袋を置き、その場で大きく伸びをする梅澤)
遥:久しぶりだなぁ、仙台に来るの。
梅:私は春に来て以来かな。
遥:お仕事ですか?
梅:ううん、プライベートで。ほら、このまえ牛タンラー油あげた時。
遥:あ、そういえば! 本当に仙台行ってたんですね。
梅:そ。さぁて、牛タン食うぞ~!
to be continued episode20…
and continuing to episode31.
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