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【365日のしあわせ】お天気のよい日曜日の午前中

私が休職してから、ひと月が経った。

相変わらず体調は最悪だった。
友人たちからの私を心配してくれているLINEは、返信するのが怖くて、全て無視していた。

もう一生このまま、人とまともに会話できないままなのかもしれない。

それもそれでいいか。
もう人付き合いはこりごりだ。

ベッドから立ち上がりカーテンを開けると、朝の光が私の目に突き刺さる。朝が弱い私の、目覚めのルーティンだ。

なんとなく、働いている同僚たちに申し訳なくて、生活リズムは常に保っている。このまま朝ごはんにしよう、とキッチンへ向かった。

我が家のキッチンは午前中によく光が差す。まぶしいので、私はいつもフードを被ってやり過ごしていた。今日もそうしようとフードに手をかける。

ふと、カレンダーが目に入った。
先月から時が止まった、藤田さんからいただいたカレンダー。

ぺり、とめくる。
今日が何日だか、何曜日だかわからない。

「病院にいたら日にちがわかんなくなるのよ」

藤田さんの声がよみがえった。
全く同じカレンダーを使って、毎日一緒に日付けの確認をしていた。

「藤田さん、散歩は好きですか?」

私の声。

「それなら、ぜひ一緒に散歩しましょう。日を浴びるとセロトニンが分泌されますから、認知症の予防にもなりますよ」

そんな私の声に、藤田さんは「そんな難しいことはわからないけど、お散歩はずっとしたかったの」と笑っていた。

私はスマホを取り出して、今日の日付を確認する。
5月12日、日曜日。
今日は、みんなお休みだ。

私はフードを被らず、キッチンに足を踏み入れた。
思っていたよりもずっとずっと優しい光が、私を包む。

朝ごはんの支度をしながら、藤田さんのことを思い出していた。
藤田さんに偉そうに講釈たれておいて、自分で実践できなきゃ意味がない。まずは、体調をどうにかしよう。セロトニンはうつ症状にも効果があるはずだ。

私は以前買ったきり、いちども目を通していない本を手に取る。

『365日のしあわせ』

お天気のよい日曜日の午前中、日当たりの良いキッチンは、きっと読書に最適だ。

私は、ページをめくる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



このお話は、『365日のしあわせ』という本の1節をテーマにしたものです。

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