「持ち物リスト」で進むモノの資産化とリユースへの影響

フリマアプリの登場依頼リユース業界は大きく変化している。その手軽さからフリマアプリが普及したことにより、中古品に対する人々の抵抗感は薄れつつある。また不用品をリユースできる「資産」として捉える価値観が醸成されつつあり、リユース市場は今後とも成長すると予測されている。そんなリユース業界で今後キーポイントとなる「モノの資産化」と各企業の動きについて分析する。

フリマアプリによるリユース市場全体の成長

2012年のラクマ、翌年2013年のメルカリの登場依頼、その手軽さからフリマアプリは若い女性を中心に普及し、6年の間に6,000億円を超え、リユース業界全体の約3割を占めるまでに成長した。フリマアプリによってリユースサービスは身近なものとなり、人々の中古品に対する抵抗感は薄れつつあり、リユース市場は堅調に成長している。

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リサイクル通信「中古市場データブック2020」から引用

フリマアプリ普及の影響は単なるユーザ数の増加に留まらない。これまで循環経済やESD(持続可能な開発のための教育)、SDGsなどの文脈で、「持続可能な開発」を実現するためリユースの重要性が訴えられてきた。ここにフリマアプリを通して不用品をリユースする実体験が加わったことで、モノを「資産」と捉える価値観が醸成されつつある。

リユース市場はポテンシャルも大きい。2020年現在リユース市場規模は約2.2兆円 [1]であるが、一年間に発生する不用品市場は7.6兆円 [2]であり、日本の家庭に眠るリユース可能な「隠れ資産」は実に37兆円 [3]にのぼる。モノを「資産」として捉える価値観が広がることで、この巨大な潜在市場が一気に開拓され、リユース市場は今後さらに成長すると予測される。これらの変換の恩恵を受け、短期的に見れば各リユース事業者とも売り上げを伸ばしていくと予想される。しかし長期的に見たとき、各リユース事業者はフリマアプリとともに成長していくのだろうか。

リユース業界の各サービスの特徴

まずはリユース業界の現状について整理する。
リユース業界はCtoBtoC型、CtoC型、BtoB型の3つのサービスに大別することができる。

CtoBtoC型
消費者から不用品を買取り、それを必要とする消費者に販売するのがCtoBtoC型のリユースサービスである。特徴としては店舗運営ができること、取引相手が事業者であり安心感があることが挙げられる。このためネットが普及していない1980年代から存在し、扱う商材はブランド品など一般的に「資産」と捉えられるモノから、本や雑貨など日用品まで多岐にわたる。店舗とネットの二つの形態が存在し、近年はネット型サービスに注力する企業が多い。代表例としてはゲオHDやブックオフHDなどのサービスが挙げられる。

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CtoC型(フリマアプリ)
リユース品の個人間取引を行う場を提供するのがCtoC型のサービスである。CtoC型はフリマアプリとネットオークションに分けることができるが、近年ネットオークションがアプリとしてサービス提供するようになり、両者は似通ってきているため、本記事ではまとめてフリマアプリとして扱う。査定なくアプリひとつで出品でき、欲しいモノをアプリでいつでも確認できる手軽さが特徴で、従来リユースサービスを利用していなかった層を取り込み急速に成長した。ブランド品など高額取引には抵抗を覚えるユーザもおり、大量出品には手間がかかるなどカバーしていない部分が存在する。

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BtoB型
BtoB型はリユース事業者間が取引を行うオークションサービスと、農機具や医療器具など企業間で取引される商品を扱うリユースサービスに分類される。前者はバリュエンスHDの「STAR BUYER ACTION」など、後者は株式会社マーケットエンタープライズの「農機具高く売れるドットコム」などが例として挙げられる。特徴としてCtoC型と競合しないことが挙げられる。

フリマアプリの成長とCtoBtoC型への影響

その手軽さによりフリマアプリはリユース市場全体と比較して急速に成長し、約3割までシェアを拡大した。[1][2]

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この変化はCtoBtoC型のサービスにどのように影響しているだろうか。リユース業界売り上げ1位のゲオHDとブックオフHDの売り上げは以下のように推移している。[4][5]

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両者とも成長しているが、ブックオフは4.3%とリユース市場全体の成長率が9.7%であることを考えると決して順調とは言えない。一方のゲオHDは14.7%と順調に売り上げを伸ばしているが、これはリユース事業に注力するため店舗数を大幅に増やしているためである。

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既存店に限って見ると、一店舗あたりの売り上げはむしろ減少傾向にあることが分かる。[4]

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 ゲオHD決算資料から引用

これらのデータからリユースサービスであれば継続的に成長できるわけではないと考えられる。リユースに抵抗感が薄れつつある今、手軽さに強みをもったフリマアプリが新規ユーザを獲得しシェアを拡大し続けるだろう。

フリマアプリによるモノの「資産化」

ここまでのデータからはフリマアプリがCtoBtoC型に打撃を与えるようには見えなかった。しかし長期的にはCtoBtoC型に壊滅的なダメージを与えると予測される。

現状ではユーザは新品・リユース品を購入し、それが不要になった場合フリマアプリやCtoBtoC型のリユースサービスに出品する。リユースサービスはリユース品を売る・買う際に一時的に利用するサービスであり、フリマアプリはその選択肢の一つに過ぎない。

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しかし今後フリマアプリはモノという「資産」の可視化と運用を担うインフラになると予想される。購入した商品がフリマアプリ内で即座に出品可能な「資産」として登録され、登録されたモノはフリマアプリでのみ流通するようになる。この「資産化」を推し進めるのが、メルカリが2020年にリリースした「持ち物リスト」だ。[6]

「持ち物リスト」は出品簡略化のために実装された機能で、『ユーザがメルカリないで過去に購入した商品や、「売れるかチェック」した商品、メルペイを使ってネット決済した商品が表示される』機能のことである。「持ち物リスト」が普及した場合のモノの流れは以下のようになる。

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「持ち物リスト」によって購入された商品は一切の手間なくフリマアプリ内で出品可能な状態になる。商品が不要になれば1分もかからず出品でき、リユース事業者のサービスは選択肢にも挙がらないだろう。この「持ち物リスト」が普及し、フリマアプリ内でモノの「資産化」が進めば、リユース事業者に出品されるモノは今よりも大幅に減少すると考えられる。

現状メルペイの普及率が決して高くないため、持ち物リストに登録される商品の割合は大きくない。CtoBtoC型の在庫確保に即座に影響がでるわけではないだろう。しかしメルペイが普及したり、メルカリが他の決済機能と連携した場合、途端にインパクトが大きくなるだろう。

またフリマアプリ売り上げ第2位のラクマが「持ち物リスト」と同様の機能をリリースした場合、メルカリ以上に大きなインパクトを与えるだろう。楽天市場という国内最大級のECサイトとラクマが連携し、楽天市場で購入された商品が全てラクマで「資産化」された場合、CtoBtoC型には少なからず影響が出るだろう。また楽天は楽天ペイを展開しており、その伸び次第ではさらなる影響を与える可能性もある。

このように長期的に見た場合、フリマアプリ内でモノの「資産化」が進み、CtoBtoCは在庫が確保できなくなり大きな打撃を受けるだろう。

フリマアプリとの共存戦略

フリマアプリ以外のリユースサービスはどのような戦略をとるべきだろうか。以下では各社の取り組みを交えながら、5つの戦略を紹介する。

1. フリマアプリの苦手領域を強化
1つ目の生存戦略としてフリマアプリが苦手な2つの領域に注力することが考えられる。

・大量出品
引越や遺品整理など大量の不用品を処分する場合、フリマアプリでは出品する手間が大きい。この大量出品に特化したサービスとしてTREASURE FACTORYの「トレファク引越」があげられる。これは買取・引越の見積もりを同時に行い、引越額から買取額分が値引きされるサービスである。買取できないものも処分してくれるためユーザは大量な不用品を効率的に処分することができる。TREASURE FACTORYは他にも「トレファク不動産」など、大量出品に特化したサービスを展開している。

・ハイリスク品
ブランド品など高価なモノはCtoCで取引する際のリスクが大きく、抵抗感を持つユーザは多い。このようなハイリスク品は業者の保証や対面での取引のニーズが高く、CtoBtoCの需要が大きい。ブランド品で強みを持つコメ兵HDなどが代表的である。

2. リユースプラットフォームを目指す
2つ目の生存戦略のとして、自社サービス上でメルカリ同様「資産化」機能を実装し、リユースプラットフォームとしてのポジションを確立することが考えられる。この例としてバリュエンスHDの「Miney」というアプリサービスが挙げられる。この「Miney」は「モノの価値を見える化するアプリ」で、ユーザが持ち物を登録すると相場から持ち物の値段を算出し、高く売れるタイミングでユーザに通知を送る。売りたい時はアプリから依頼を出すことでバリュエンスHDの買取サービスが店頭または宅配で買取を行ってくれる。「Miney」の弱点として購入した商品をわざわざ登録する必要があるが、フリマアプリの苦手なハイリスク品を軸にユーザを伸ばしている。AI査定機能などで出品の手間も抑えており、ハイリスク品に強みをもったプラットフォームとして他のフリマアプリと共存する可能性がある。

3. フリマアプリのセカンドチョイス
3つ目の生存戦略として、フリマアプリのセカンドチョイスを目指すことがあげられる。ここでのセカンドチョイスとは、ユーザがモノを出品するとき、フリマアプリに次ぐ第2の選択肢としてCtoBtoCの買取サービスにも出品するということである。
フリマアプリではユーザが売値を決め出品するが、適切に値段を設定することは非常に難しい。そこで高めの値段設定でフリマアプリに出品し、同時に買取サービスにも査定依頼を出すことで、買い手がつかないリスクを抑えつつ納得いく金額でモノを売ることができる。

フリマアプリのセカンドチョイスを目指す場合重要なポイントは、「フリマアプリのついで」でできる程度に出品の手間が小さいこと、確実に買値がつくことの2点である。

出品の手間を小さくする施策としてバリュエンスHDとシュッピン株式会社はLINE査定を提供している。これはLINEアプリから商品の写真と製品情報を送ることで自動査定されるサービスで、出品の手間を大きく下げることができる。ただし買取先が1事業者に絞られるため買値がつく可能性が高いとは言い切れない。

買値がつくという点ではマーケットエンタープライズ社の「おいくら」という買取プラットフォームが有力だ。これは商品を出品すると全国の加盟店から査定結果が送られてくるサービスで、ユーザは最も高い査定額を提示した業者に売却することができる。最大1,000店舗の加盟店から査定を受けられ、買値がつく確率が80% [7]と非常に高い。今後出品の手間を削減していくことでセカンドチョイスの有力候補となりうるだろう。

4. フリマアプリとの連携
4つ目の生存戦略として、フリマアプリと連携し共存することが考えられる。

・フリマアプリを補完する機能として連携
苦手分野をカバーするために、フリマアプリがリユース事業者と連携することが考えられる。株式会社トランクの宅配型収納「カラエト」はラクマと連携し、引越時の不用品の代行出品を担うことで、「フリマ引越」というサービスを提供している。このようにフリマアプリを補完する機能としてフリマアプリと共存することが可能だ。

・CtoC型サービス上のプレイヤーとして連携
販売強化の施策として、フリマアプリやネットオークション上のプレイヤーとして商品を出品することも考えられる。マーケットエンタープライズ社はヤフオク!と提携して販売を行っている。これにより自社の知名度が低い場合でも強力な販売チャネルを持つことができる。しかし買取については他の施策によって在庫を確保する必要がある。

5. BtoBサービス
5つ目の生存戦略として、フリマアプリに直接影響されないBtoBサービスを強化することも考えられる。

・BtoBオークション
バリュエンスHDが提供するリユース業者間のネットオークションはリユース市場の成長から順調に売り上げを伸ばしている[8]。ただしフリマアプリにより顧客であるリユース事業者が疲弊し取引数が減少する可能性もあるため、長期的に見てフリマアプリの影響を受けないとは言い切れない。

・BtoBリユース
輸送に手間がかかったり、値付けに専門知識が必要なモノはCtoCサービスで扱うことが難しい。例としてマーケットエンタープラインズ社が提供する農機具の買取サービス「農機具高く売れるドットコム」があげられる。農機具はニーズがあるにもかかわらず値付けと農機具の輸送の問題からリユースが行われてこなかった。これをリユース事業者が担うことでCtoCではカバーできない領域を取り込むことに成功している。マーケットエンタープライズ社は農機具のほかに医療器具などのリユースにも取り組んでいる。フリマアプリと競合しないため今後安定して伸びていく領域だろう。

今後注目のCtoBtoCサービス

前章で紹介した中で注目したいのはバリュエンスHDの「Miney」とマーケットエンタープライズ社の「おいくら」である。「Miney」はCtoBtoCならではの強みを活かし、ハイリスク品を起点に家具や大型家電などフリマアプリの苦手領域を丸ごとカバーして大きなプラットフォームに成長する可能性がある。「おいくら」はアプリ化されていないため出品の手間こそかかるものの、買値がつく可能性が高いことは大きな強みになる。アプリ化やフリマアプリとの連携など出品の手間を減らすことでセカンドチョイスとしてのポジションを確立し大きく成長する可能性がある。

まとめ

2013年にメルカリが登場して以来、リユース業界は大きく変化してきた。リユースに対する人々の価値観の変化により、リユース市場は今後とも成長していくと予測されるが、フリマアプリ内でのモノの「資産化」によりCtoBtoC型のサービスが打撃を受けると予想される。この変化にいち早く対応している事業者もあれば、対応が遅れている事業者もあることが見えてきた。この違いが今後どのように顕在化するのか、今後のリユース業界に引き続き注目したい。

[1]:  リサイクル通信「中古市場データブック2020」
[2]: 経済産業省「平成29年度我が国におけるデータ駆動社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
[3]: みんなの隠れ資産調査委員会プレスリリースより(2018年11月)
[4]: ゲオHD決算資料
[5]:  ブックオフHD決算資料
[6]: メルカリ決済資料
[7]: 株式会社マーケットエンタープライズ決算資料
[8]: TREASURE FACTORY決算資料


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