わかる社会人基礎力

新しいモノや情報が次々と生まれ急速に変化する現代では、学校で勉強した知識だけでは解決できない複雑な問題に対峙することが求められる。そのような時代に社会で働くための基礎力である「社会人基礎力」について、学術的背景を踏まえながら簡潔に解説し、それらを培うため道筋を示したのがこの「わかる社会人基礎力」である。
この記事ではこの本で解説されている社会人基礎力についてまとめ、この本から学んだことの実践と得られた気付きについて紹介する。

3つの能力と12の能力要素

社会人基礎力は以下の3つの能力に分類することができる。

1. 考え抜く力(シンキング)
目的を設定し、ゴールとのギャップを埋めるための計画を立てる力
2. 前に踏み出す力(アクション)
主体性をもって活動し計画を実行する力
3. チームで働く力(チームワーク)
多様なメンバーの個性を尊重し、それぞれが心地よい環境で目的に向かって活動するための力

それぞれの能力はさらに12の能力要素に細分化することができ、各能力要素について以下にまとめる。

考え抜く力

考え抜く力は課題発見力・計画力・創造力という3つの能力要素から構成される。

課題発見力
課題とは「現状と目標とのギャップをうめるために、解決すべきテーマ」と定義され、課題発見のプロセスは以下の3つのステップからなる。 
1. 自分の目指す目標を設定する
2. 現在の状態を把握・分析する
3. それらのギャップを埋めるために解決すべきテーマ=課題を検討する

目標は「目的を達成するために設けた、めあて」(『広辞苑』)であって目的との違いを意識する必要がある。自分の価値観に基づき目的を定め、目的を実現するために目標を設定する。

計画力
計画とは目標を達成するための段取りのことであり、大きく分けて3つのステップからなる。
1. 目標達成のために必要な要素を事前に洗い出す
2. 全体像を可視化し把握する
3. 締め切りまでに求めるクオリティを達成するための段取りを組む

ステップ1では目的と要件を明確にし、目的に沿って各要件に優先順位をつけていく。ステップ2では全ての工程・作業を書き出し把握する。ステップ3では並行して進められる作業やクリティカルパスになる工程を把握し、また起こり得るリスクに対して対策を用意しつつ段取りを組む。
目標を達成するための道は一通りはなく、計画を立て実行することを繰り返し様々な「型」を身につけることで、計画力を培うことができる。

創造力
創造力は「新しい価値を生み出す力」と定義される。
新しい解決手法は「こうあればいいのに」という課題感をもとに、既存のアイデアを組み合わせ試行錯誤した結果に自分の色を加えることで生まれる。
創造力は先天的なセンスではなく会得可能なスキルであり、常に課題感を持ち、アイデアをインプットし組み合わせる試行錯誤し続けることで培うことができる。

前に踏み出す力(アクション)

前に踏み出す力は主体性・働きかけ力・実行力という3つの能力要素から構成される。

主体性
変化の激しい時代では従来の枠組みで問題が解決できないことが多い。このとき従来の枠組みを改良したり新たな枠組みを自ら考え物事を前進させるために必要なのが「物事に進んで取り組む力」主体性である。「ヒトは価値観に沿った自分にとって価値のある物事に対して主体的になる」ことを意識し、価値観を明確にし、その価値観を活動の中心に置くことで主体的に活動できるようになる。

働きかけ力
働きかけ力とは周囲の人を動かし目標を達成するための力である。
これは2つの要素に分解できる。
1. 周囲の人に動いてもらうこと
2. チームのパフォーマンスを最大化すること

従来は引っ張るリーダーシップが有効だと考えられてきた。しかし共感と信頼関係によって人を動かす「支えるリーダーシップ」という考え方も提唱されている。「支えるリーダーシップ」では自分の目的と目標を伝え相手に共感してもらい、コミュニケーションを軸に心理的に安全な関係を築き信頼を得ることでチームをまとめていく。
チームのパフォーマンスを最大化するためには信頼関係を基盤としてメンバーのエンゲイジメント(熱意・没頭・活気)を高めることが重要である。

実行力
実行力とは「目標を設定し、確実に実行する力」と定義される。
物事を実行するめには以下の3つのステップが必要である。
1. 目的に基づいた目標を設定する
2. 目標を実行するまでの道筋を具体化する
3. 立てた目標をやり抜く

3つ目のステップで目標をやり抜くためには情熱と粘り強さが必要である。ここで情熱とは困難に直面しても取り組み続けるエネルギーを持つこと、粘り強さとは困難に挫けず継続して取り組むことを意味し、どちらも目標によって高まると言われている。少し背伸びした目標であること、階層化することが効果的な目標設定につながる。

チームで働く力(チームワーク)

チームで働く力は発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力という6つの能力要素から構成される。

発信力
発信力は「自分の意見をわかりやすく伝える力」と定義される。
組織の中で意見を通したり、他者との建設的なやり取りから学びを得るために重要な力で、2つのポイントを意識する必要がある。
1. ターゲットと発信内容の明確化
2. 「アサーティブ」なコミュニケーション

1点目については発信する対象を明確化し、5W1Hの枠組みから内容を明確で伝わりやすいものにすることができる。2点目の「アサーティブ」なコミュニケーションとは、非威圧的かつ直接的なコミュニケーションを意味し、客観的事実・主観・提案・選択の4ステップで考えを伝えることで建設的なやり取りを引き出す手法である。

傾聴力
傾聴力は「相手の意見を丁寧に聴く力」と定義される。
人には「ありのままを受け入れて欲しい」という欲求がある一方で、人に心を開くことに抵抗がある。傾聴力をもって相手を受け入れることで、相手にとっての貴重な理解者となり豊かな人間関係を築くことができる。傾聴において以下の2点が重要である。
1. 自分の判断を挟まず相手の話を聴くこと
2. 共感すること

共感するためには自分のことのように想像する、相手を尊重しそのままを受け入れる、受容的で理解的な姿勢で聴くといったことが必要になる。日々相手を尊重し受け入れる姿勢で話を聴くことで、人に好かれ豊かな人間関係を築くための傾聴力を培うことができる。

柔軟性
柔軟性は「意見の違いや立場の違いを理解する力」と定義される。
多様な個々人の能力を引き出し、問題解決能力を高めるダイバーシティが重視される現代でこの重要性を増している。意見の違いや立場について2つのステップから理解を深めることができる。
1. 「無意識バイアス」が認知を歪めていることを認識する
2. 個々人の違いを認める

認知の柔軟性を高め、異なる価値観や意見を必要に応じて取り入れることで、ダイバーシティを活かした問題解決が可能となる。

状況把握力
状況把握力は「自分の周囲の人々や物事との関係性を理解する力」と定義される。
組織に対する貢献度を最大化するために必要な力で、以下の3つのステップに分解できる。
1. 周囲の状況を把握する
2. 自分の現状と期待される役割を把握する
3. 役割をはたすために主体的に行動する

自分のことのみに視野を限定することなく、会社の方向性や周囲の状況などに意識を向け、役割を意識して日々行動することで状況把握力を培うことができる。

規律性
規律性とは「社会のルールや人との約束を守る力」と定義され、組織で活動する際に必要不可欠な力である。信用を形成し、組織で活躍する足掛かりを作る上で重要な規律性を培うためには、ルールや約束の理解、明文化されていないルールの理解、自分を律することが求められる。

ストレスコントロール力
ストレスコントロール力とはストレスに対処し、パフォーマンスに影響がでないよう反応をコントロールするためのスキルである。ストレスとはストレッサーとストレス反応の二つから構成され、ストレッサーはさらに心理面、身体面、行動面の3つに大別できる。このストレッサーに対処する力をストレスコーピングと呼び、適切なコーピングを行うことでストレッサーを解消したりストレス反応を緩和したりすることができる。

コーピングの例として「問題解決法」があげられ、ストレッサーの分析、対処法の立案と選択、対処法の実行とフィードバックを通して継続してコーピングスキルを向上することができる。

学びの実践

私は所属する研究室の共同プロジェクトの責任者を務めており、メンバーの研究活動とプロジェクトの作業がトレードオフの関係になっているという課題を抱えていた。プロジェクトの作業により研究が進まず、チーム全体のモチベーションが下がり、さらにプロジェクト全体が遅れるという悪循環を断ち切るために、今回学んだ「課題発見力」と「働きかけ力」を以下のように実践した。

課題発見力
研究室の各メンバーが研究を行うことで科学技術の発展に貢献し、そこで得た先端技術を共同プロジェクトを通して社会実装することで社会全体の発展に貢献することが研究室の目的である。これに対し、研究活動と共同プロジェクトがトレードオフの関係になっている現状にはギャップがある。これに対し、研究と共同プロジェクトの作業が関連づけられていないことが課題だと定義した。この解決策として、共同プロジェクトの作業から得られる知見・スキルを可視化し、各メンバーの研究とこれらのスキルを結びつけることを考えた。

働きかけ力
研究室の目的を達するため、共同プロジェクトの作業と研究の間を紐づけるという目標と、共同プロジェクトで得られるスキルについてメンバーに共有した。また各メンバーと一対一でコミュニケーションする機会を作り、各メンバーの価値観や共同プロジェクトに対する考えを聴いた。各メンバーとの対話の中でリーダーからタスクを振るのではなく、メンバーが自主的に選択する仕組みを提案してもらい、タスクの割り当て方を変更した。

実践の結果と気付き

課題発見のプロセスを通して言語化していなかった違和感を明確に意識することができ、解決に向け前進することができた。またチームメンバーとのコミュニケーションから心理的に安全性なチームが出来つつある手応えを感じることができた。タスクをメンバーの希望に基づいて割り当てる方法を採用することで、従来と比較して積極的に共同プロジェクトに取り組んでもらえるようになったと感じる。
反省点として、目的・目標に対する共感がまだまだ得られておらず、目標に設定した共同プロジェクトと研究の関連づけの浸透に課題が残った。継続的なコミュニケーションを通じて粘り強く取り組む実行力が求められると感じた。またコミュニケーションの中では傾聴力・柔軟性の重要性も痛感したので、今後意識して取り組みたいと感じた。

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