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精子クロマチンはICSIアウトカムに影響を与えるか?

"Condensation and protamination of sperm chromatin affect ICSI outcomes when gametes from healthy individuals are used"

Human Reproduction, 2022 

男性因子は、不妊原因の約半数を占めます。精子のDNA断片化がARTにおける妊娠率や生産分娩率に与える影響に関しては数多く報告されていますが、精子のクロマチンがICSIの成功に与える影響に関しては不明な部分が多いです。

精子は、精子形成の最終過程(Spermiogenesis)においてクロマチンのリモデリングがおきますが(下図)、受精後に雄性前核の形成時にプロタミンをヒストンに再置換(再プログラミング)する必要があります。


円形精子細胞から成熟精子への生成過程でクロマチン構成タンパクがヒストンからプロタミンへ置換し、クロマチンの凝集が起こる (画:竹島)

この研究は、女性側の因子を調整して精子のクロマチンのプロタミネーション・凝集がICSIのアウトカムに与える影響について調べた研究です。

対象と方法

まず、対象は2つのコホートで、
・1つがダブルドナー(DD)コホート。つまり精子も卵子もドナーによるもの。45人の精液ドナーが使用された、55周期ICSI(全491個の胚)
・もう1つがシングルドナー(SD)コホート。精子はドナー、卵子はドナー精子を必要とする独身女性。34人の精液ドナー、41周期ICSI(全378個の胚)。こちらは妊娠を希望する一般女性をよく代表すると考えられます。

クロマチンプロタミネーションの評価

プロタミネーションされたクロマチンを有するDNAはクロモマイシンA3(CMA3)と結合しないため蛍光発光せず、プロタミン化されていないDNAはCMA3と結合し蛍光発光する。凍結精子につき、融解0時間後と4時間後で測定。

クロマチン凝集の評価

ジスルフィド(S-S)結合が保たれている(=クロマチン凝集されている)プロタミンは蛍光発光せず、ジスルフィド結合が破壊されている(=クロマチン凝集していない)プロタミンは、ジブロモビマン(DBB)を結合させ、蛍光発光させることができます。つまりDBB陽性率の増加はクロマチン凝集低下をあらわします。これも融解0時間後と4時間後で評価しました。

アウトカム

アウトカムはICSIアウトカムと臨床アウトカムに分けられます。

  • ICSIアウトカム(受精率、胚盤胞率、良好胚盤胞率)

  • 臨床アウトカム(着床率、臨床妊娠率、生産分娩率、流産率)

結果

SDコホートでは卵子を採取した時点の年齢は有意にSDコホートで高かったが、胚移植を受けた時点での年齢はDDコホートの方が有意に高かったという結果でした。

融解後0、4時間後の精子クロマチン凝集とプロタミン化

SDコホート、DDコホートとも4時間後のCMA3+陽性率の増加(=プロタミネーションの低下)、およびDBB陽性精子の減少(=精子のクロマチン凝集能の上昇)が示されました。

クロマチンプロタミン化不良は受精率に、クロマチン凝集能は胚盤胞率に関連

DDコホートにおいて、CMA3+陽性精子(=プロタミン化不良精子)と受精率が負の相関を認めます。クロマチン凝集については、受精率との相関は認められませんでした。

胚盤胞率に関しては、プロタミン化との相関はありませんでしたが、クロマチン凝集能については、DBB+精子と胚盤胞率に負の相関を認めました。つまり、クロマチン凝集能と、胚盤胞率に正の相関を認めるという結果でした。

多変量で調整した結果

採卵時年齢を説明変数に含めた重回帰分析を行い、プロタミン化・クロマチン凝集能が受精率・胚盤胞率を目的変数とし、説明可能かにつき検証を行ったところ、DDコホートではプロタミン化不良が受精率と負の相関、クロマチン凝集能の低下が胚盤胞率と負の相関があることが示されました。

その他

  • クロマチンのプロタミン化と凝集能は胚盤胞の「質」とは相関しなかった

  • 胚盤胞に到達するまでの時間は、融解4時間後のプロタミン化不良、クロマチン凝集能の低下と相関が見られたが、女性年齢で調整したところ、クロマチン凝集能の低下と女性年齢が胚盤胞到達時間がの延長と相関していることが示されました。

臨床アウトカムとの相関

説明変数をCMA3+、DBB+、0-4時間の変化、卵子提供者および胚移植施行の女性年齢、目的変数を各臨床アウトとし、予測モデルを作成しました。ROC曲線のAUCを検討したところ、着床・臨床妊娠・生産分娩に関して予測性能良好なモデルを作成可能でありました。

まとめ

以上より、まとめとして

  • 健康なドナーの配偶子を用いたICSIでは、精子クロマチン中のプロタミン化低下は受精率に悪影響を及ぼすが、女性の高齢化は顕著な悪影響を与える

  • 融解後4時間培養した精子のクロマチン凝集能は、胚盤胞率や胚の発生と相関し、採卵時の年齢とは無関係

  • 精子のクロマチンの状態(プロタミン化と凝集能)や採卵時の女性年齢、移植時女性年齢はICSIにおける臨床アウトカム(妊娠率、着床率)に有意に関連することが示された

と述べられています。今年は1年間で100本以上の論文を読んでいきたいと思っています。今年もよろしくお願い申し上げます!

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