見出し画像

成人クラインフェルター症候群患者における未分化精原細胞の有病率を明らかにする

"Morphometric and immunohistochemical analysis as a method to identify undifferentiated spermatogonial cells in adult subjects with Klinefelter syndrome: a cohort study"

Fertility and Sterility, 2022

新年3本目の論文はF&Sより。

クラインフェルター症候群(KS)は600人に1人の割合でみられる染色体異常で、代表核型は47,XXYです。
TESEによって44%で精子回収を、ICSI(採卵)周期あたり平均24%の生産分娩率と報告されています。

TESEで精子回収不能であったKS患者では、精子(-)ながらも、精原細胞(spermatogonia)の存在がいくつかの研究で報告されています。
未分化なヒト精原細胞をin vitroで精子形成へ誘導する試みはいくつか行われています。円形精子細胞を用いたROSIによる生児獲得も(おもに聖マザーから)報告されています。

この研究の目的は、KS患者の精巣生検検体におけるH&E染色と、免疫染色を用いて、成人KS患者における未分化精原細胞の有病率を明らかにすることです。
ヒト精原細胞のマーカーとして、 UCHL1とMAGE-A4を用いることで検出可能であり、精原細胞を思春期前・思春期に自家移植することで精子形成誘導が可能であるかもしれません

対象と方法

KSで無精子症の患者84人を対象のうち、両側精巣の組織採取を行った79人を対象としています。
対照群はNational Disease Research Interchangeから、KSコホートと年齢をマッチさせた12人。核型は46,XYで両側精巣から組織採取を行いました。

免疫組織染色

未分化精原細胞に特異的なマーカー、UCHL1MAGE-A4抗体を使用しました。
染色後、スライドをスキャンしてバーチャル顕微鏡で精巣生検標本の表面積を測定し、各精細管の表面積を測定しました。

A:精巣検体の表面積全体(TSA)、B:精細管表面積(TTA)、C:平均間質表面積の求め方

続いて、KS患者と対照群の変数の違いや、KS患者の左右の精巣間の差異を解析しました。
最後に、H&E染色、UCHL1染色、MAGE-A4染色で、陽性精細管と分布を比較しました。

矢印が精原細胞(spermatogonia)

結果

患者プロフィール

  • 平均年齢32.9歳 (対照群の平均年齢52.5歳)

  • 1名のモザイクを除き、すべて非モザイク型のpure KS

  • 平均T: 2.5ng/dL、LH: 21.0mIU/mL、FSH: 40.0mIU/mL

精巣の構造

対照群、KS群ともに精巣の総表面積(TSA)、総精細管面積(TTA)、総間質面積(TIA)、精細管数などの測定値は左右差を認めず。

対照群、KS群それぞれにおいて左右の総表面積、総精細管表面積、間質面積、精細管数の平均値を対応のない(スチューデントの)t検定にて検定。両群とも各パラメータに有意な差を認めず

左右を合算すると、精細管数は群間で差を認めず。TTA/TSAはKS群(20.9%)は対照群(54.9%)と比較し有意に低い結果でした(P<0.0001)。TIA/TSAはKS群(79.1%)は対照群(45.1%)と比較し有意に高い結果でした(P<0.0001)。そりゃ100%から精細管面積を引いたのが間質面積ですしね。。。

左右精巣の検体を合計したもの。

精原細胞の有無

H&E、UCHL1、MAGE-A4のいずれかで精原細胞が1個でもあれば陽性
・UCHL1陽性細胞はKS群の74.7%(n=59)、対照群の100%(n=12)
・MAGE-A4陽性細胞はKS群の40.5%(n=32)、対照群の100%(n=12)
意外とKSで高い結果です・・・!!
・H&E染色で精原細胞陽性はKS群の10.1%(n=8)、対照群の100%(n=12)

TESEで精子(-)で、かつ精原細胞(+)を評価するために、二次解析を行いました。
79人の生検検体のうち7人(8.9% ※注: ≠精子回収率)で精子(+)
→精子(-)の72人について精原細胞の有無を検証。
・H&Eで1名(1.4%)で陽性
・UCHL1で25名(34.7%)で陽性
・MAGE-A4で52名(72.2%)で陽性
でした。

(精原細胞)陽性精細管数の予測モデル

説明変数として身長・体重・生検時年齢、精巣体積、FSH、LH、Tを単変量とした線形回帰モデルで陽性精細管との相関を評価。精巣体積のみ有意な相関でした。
続いて多変量(重回帰分析)で評価。有意な相関を示す説明変数はありませんでした。

各変数と陽性細胞数との相関

結論

  • KS患者の生検標本におけるspermatogonia陽性率は74.7%

  • 精子(-)の被験者の75%がspermatogonia陽性でした

コメント

KSにおけるTESEはとにかく、精細管が硝子化のため変性しており、とにかく精細管を同定し、採取することが何よりも大事です。残念ながら精子が回収できなかった症例に関しても、本研究の結果から、3/4はgerm cellが陽性であることがわかりました。
つまり、(spermatogoniaでは難しいですが)精子細胞(spermatid)以後のlate maturation arrestでは救済ゴナドトロピン療法が有効であり、精子回収できなかった症例の一部に救済療法適応の可能性があることが示唆されました。これは驚きの結果でした!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?