見出し画像

「小売業はデジタルより、デジタル以外の部分を先に変える必要がある」薬王堂HD 西郷孝一氏 インタビュー

群雄割拠のドラッグストア(DgS)業界において、売上高1,105億円、店舗数321(2021年2月期)と小粒ながらも異色の存在感を放つのが薬王堂ホールディングス(HD)。ローコストの店舗運営、標準化など、オペ㆑ーション㆑ベルの高さを維持する一方、業界ではかなり早い段階で自動発注を導入し、データの販売事業もスタート。2021年8月には、健康チェックアプリや肌診断サービスの提供を開始し、データの外販をもくろむ(詳細は本誌2021年11月号を参照)。「課題先進地域」の東北から世界を目指す同社のDXのキーマンである、薬王堂HD 常務取締役 経営戦略部長 西郷孝一(たかひと)氏にお話を伺う。(聞き手/MDNEXT編集長 鹿野 恵子)


東北から世界の健康をデザインする

—現在、御社の置かれている環境をどのように捉えていらっしゃいますか。

西郷 東北地方のDgSではツルハさんの存在が一番大きいと考えています。私の評価は同社が常にナンバーワンのDgSです。ですからナンバーツーとして、東北でどう生き残っていくかを考えています。

とくにDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータに関しては、「量より質」ですから、ツルハさんが取得できないようなユニークなデータを薬王堂が取得することで戦っていけるはずです。

—東北は課題先進地域と認識されているとおっしゃっていました。

西郷 ひしひしとそう感じています。私が考えたというより、国内外、業界を問わず、スタートアップを立ち上げて社会課題を解決しようとしている若い人たちにとって、東北は「将来の日本」「将来の世界」に見えるそうです。彼らは東北を研究することで、自分たちのサービスやプロダクトに付加価値を付けられるといいます。

それを聞いて、私が考えていた以上に東北には価値があるんだと思いました。東北から世界に飛び出していくことが十分にできるはずです。そこで2021年に掲げたのが「東北から世界の健康をデザインする」という新ビジョンです。

信頼できるパートナーにプロジェクトを進めてもらう

—すでに自動発注や在庫の可視化、店頭状況の可視化などはデジタルで実現されている御社ですが、今後どのような体制でDXを推進なさろうとお考えでしょうか。

西郷 社内には弟の西郷泰広が部長を務めるDX推進部があり、一部のプロジェクトやサービスの実装を担当しています。広範囲にまたがるDX化については私のチーム(経営戦略部)で推進しています。

システムの実装は、社内より外部のメンバーと協業することが多いです。プロジェクトには、一人社内に担当者を置く程度で、あとは信頼関係のあるパートナーに任せてガンガン進めてもらっています。

—外部の企業さんに任せると、ブラックボックス化※1やベンダーロックイン※2などの不安はありませんか?

※1ブラックボックス化…システムの内部構造がわからない状況になること
※2ベンダーロックイン…開発会社など他社への乗り換えが困難になる現象のこと

西郷 そうならない点を重視して外部のパートナーを選定しています。一つひとつのプロジェクトを進めながらスピード感や費用、拡張性などに注意しています。

—拡張性とは具体的にどういうことでしょうか。

西郷 薬王堂と一緒にプロジェクトに取り組み、それが成功したらほかの企業に展開するということを外部のパートナー企業さんもお考えです。そこで当社との協業では、仕様やコスト面である程度柔軟に対応していただいて、次以降の取引でビジネスをプラスにしてもらうという発想の企業さんと取り組んでいこうという考えです。

小売のDXの肝は基幹システムとPOS

—この先どういった優先順位でDXを進めようと考えていますか。

西郷 小売のDXは基幹システムとPOSと人事が肝です。

ここから先は

5,426字 / 5画像

¥ 1,000

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?