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揚州のクラスタ発生の失敗から学ぶこと

  8/17 上海では8/2に発生した中リスクエリアが低リスクエリアに戻り、2週間で上海市全体が低リスクエリアになりました。結局、感染者は1人だけで、職場関係者がほぼ100%ワクチン接種していたことが功を奏してか、クラスタ発生に繋がらず、住宅地1カ所を封鎖するだけで済みました。空港関係者はそもそもリスクが高く、日頃から定期PCR検査が行われていますが、改めてその検査の重要性が認識されました。我々医療スタッフも、今回の件で2週間に1回の定期PCR検査を、1週間に1回に変更しています。詳しくは私のTwitter (@mdfujita)で #82上海対策 を見てみてください。

  さて、7月下旬頃から江蘇省を発端として、中国各地へデルタ株のクラスタが発生し、8月中旬頃になってやっと落ち着いてきました。その一連の流れから、どのような対策面での失敗があったのか。中国の地元メディアThe Paperが旨くまとめていましたので今日はこの記事を簡単に紹介したいと思います。原文は↓からどうそ。https://news.sina.cn/gn/2021-08-17/detail-ikqcfncc3436677.d.html?sinawapsharesource=newsapp&wm=3200_0002

◉揚州市の全市民PCR検査、10回は過去最高

 江蘇省揚州市は痩西湖など有名な観光地も多く、長江デルタエリアでも人気の観光地です。ただ、高齢化が進んでいて、今回のクラスタ発生と大きく関連していたことは間違いないでしょう。なぜなら高齢者の生活は「朝は市場で買い物、子供を学校に送り届け、午後は麻雀、夕方はまた子供を迎えに行く」という感じで、日常的に密になりやすい生活スタイルだからです。これは揚州に限らず、中国各地の高齢者は同じような生活スタイルをされていると思いますが、毎日職場と家を往復して暮らしている多くの若い世代とは全く異なっており、行動範囲が広い高齢者に一旦感染者が出た場合、追跡調査がさらに難しくなりました。

 揚州市では、2020年に武漢が大変だったことでさえ、確定例は22例しか出ていません。それが今回は感染源となった南京のデルタ株による禄口空港クラスタ(南京で230人程度感染)を越える、550例以上の確定例を揚州市から出してしまいました。いったいなにがそうさせたのか?これは今後の対策を考える上でも非常に重要です。幸いにも、8/18現在では若干名危重例(日本でいう重症例)は出ていますが、死者は出ていません。

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 8月6日頃に、揚州の累計感染者数が、南京を逆転してしまいました。

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 南京では一時一気に感染者が増えましたが、その後一気に減り始めています。感染コントロールがうまくいき始めていることが分かります。一方で、揚州では感染者の増加が続きました。

 7/21に64歳の毛さんが揚州市に済む姉のところへ、南京からやってきます。当時、南京の封鎖されたエリアから抜けてきたとか、人の健康QRコードを使ってやってきたとか色々言われていますが、どのように出てこられたのかハッキリと公表されていません。本来は封鎖されたときに健康QRコードの色が変わらないといけないのですが、謎は多いです。この毛さんですが、発熱して症状が出てPCR検査陽性となる7/28までの間に、揚州市内の市場・飲食店・そして多数のクラスタが出た雀荘などを頻繁に出入りします。

 7/28にPCR陽性が分かると、揚州市もご多分に漏れず、全市民スクリーニングPCR検査を開始させます。ところがここでも一つ問題が発生しました。

 それが、集団スクリーニングPCR検査でのクラスタ発生。

 毛さん姉妹が7/28に確定例となり、ご多分に漏れず各地で全市民スクリーニング検査が行われます。ところが、今回は一部検査場の設定等に問題があり、現場が混乱、検査担当者Aが感染し、クラスタ発生。例えば広陵区湾頭鎮聯合村の検査点では、7/29から8/11までにスーパースプレッダーとなった1人の担当者から3人の検査員を含む37人が感染。さらにこのAの感染が分かったのが8/1と遅れたため、感染者が一気に増えてしまいました。これ以外にも、健康QRコードの「黄」を確認する作業などで、ソーシャルディスタンス1mがきっちりと守られていなかったり、ボランティの数が足りなかったりなど現場の混乱による感染拡大が散見されていました。もともと高齢者が多いエリアだけに、現場が大変だったことが容易に想像出来ます。(筆者注:中国の高齢者は何かと手強いです・・・。)

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 確かに、これでは検査がかなり密になってる・・・。でも、これは中国でのスクリーニングPCR検査での普遍的な問題かもしれません。

 それでも、関係者の処罰を迅速に行いつつ、全市民のスクリーニングPCR検査は行われ、7/28〜8/16までに揚州市では10回行われました。ちなみに10人1組のPCR検査の場合、1人あたり20元(約330円)の価格設定となっており、10回あわせてのべ1,506万人を無料で行うとなると、揚州市では約3億元(50億円以上)のコストがかかっていることになります。それでも、8/16に行われた10回目の検査では感染者は3例にまで減り、しかも2例は隔離された人から、1例は封鎖地区からの発見で、やっと感染拡大が落ち着いてきたことが分かります。

 これに対して、南京では全市民スクリーニングPCR検査を活用してうまく絞り込んでいます。揚州市が10回の全市民PCR検査を行ったのに対して、南京市では6回のPCR検査で、1回目〜3回目は900万人規模で行われたのに対して、第4回目は578.9万人、6回目になると300万人にまで絞り込めています。感染者も1回目〜3回目までは市中に拡散してしまった感染者14人を見つけていますが、4回目〜6回目までは集中隔離もしくは自宅隔離されていた人からの発見になっています。

 ここから分かるのは、全市民スクリーニングPCR検査は、隔離とセットでなければ効果を高めることができないということです。どの範囲まで検査をすべきか?その線引きをしっかりとするのがCDCによる疫学調査とスクリーニングPCR検査の結果です。初回のPCR検査ではひっとしたら市中感染者が散在していて、広範囲で陽性者が見つかるかもしれません。しかし、初動がはやければその範囲は総じて限定的です。その後、範囲が絞られてくると、既に隔離された人や封鎖されたエリアから感染者が見つかるようになります。そうすれば防疫対策がうまくいっていることになります。

 ただ、それがうまくできないと、揚州市のように何回も何回も全市民PCR検査を行わなければいけません。8/11に揚州を視察した国務院の孫春蘭副総理が「まだ底が見えていない」とコメントしたのには、そういう背景があったのです。さらに、「高・中リスクエリアの封鎖管理を厳格にしないといけない」ということを再度強調しています。

 この副総理のコメントからも分かるように、確かに当時の揚州市では封鎖管理がうまく行っていませんでした。たとえば、上海などの中リスクエリアに設定されると、買い物どころか、建物の外にも出られなくなりますが、どうやら揚州では当初はそこまで厳格ではなく、実際にこそこそと買い物に出ている人もいたようです。これでは封鎖エリアに穴が発生していることになり、感染者を増やしてしまいます。その為、その後は順に規制が強められていきました。

第1回 7/31から揚州市中心エリアでは確定例・無症状感染者が出たエリアでは住宅地の封鎖管理、感染者の出た建物では住民の集中隔離。封鎖管理された住民は外出禁止。

第2回 8/3から揚州市中心部エリアで封鎖管理されていない住宅地・村も封鎖管理実施。出入り口を1カ所だけ残して各世帯1日1人だけ出入り可能にする。

第3回 8/8から 封鎖管理エリアでは、3〜5日に1回、各世帯1人だけ出入り可能にさらに厳格化。

第4回 8/11から社区管理コントロールエリアで「黄区」を設置し、揚州で感染者が集中して発生しているエリアで、6カ所の疫情重点管理エリアを設置し、住民が住宅地外へ出ることを禁止。特にこの中でも封鎖管理されている住民は厳格に外出禁止。

第5回 8/13から疫情重点管理エリアをさらに強化、区域内で封鎖管理等をされている住宅地の住民は一切外出禁止。

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 赤丸で下揉まれた規制エリアが、感染拡大に伴い大きく広げられたことが分かります。

 たとえば8/3に中リスクエリアに設定された広福花園マンションでは、8/11には高リスクエリアになり、8/12にはさらに疫情重点コントロールエリアに指定されています。8/3〜8/12の間にも16人の確定例が確認されました。

 ここから分かるように、如何に住宅地やマンション内での感染拡大を防ぐかが重要であるかが分かります。とはいえ、こうした封鎖には大変な作業を伴います。中国在住の日本人の方で中国各地で経験された方も多いでしょう。例えば、単に住宅地を封鎖するだけでなく、24時間のパトロール、出入りする車両の管理、検温、住民の登録、消毒作業など多岐に渡ります。つまり、そこまでしないと、デルタ株の蔓延を防ぐことは難しいと言うことなのでしょう。

◉江蘇省の健康QRコードの反応が遅かった?

 この問題に関しても、取りあげられていました。南京では7/21 0時より、南京を離れるときは、48時間以内のPCR検査陰性証明が必要という通知が政府から出されていました。また7/22には、揚州市も7/6から南京禄口空港を利用した市民は、集中隔離観察が必要と通知を出していました。つまり、本来はこの段階で該当者の健康QRコードは緑から黄に変化しなくてはいけません。ところが、実際にはそうではなかったようで、対応の遅れが問題になっています。たとえば、記者が取材した呉さんは、7/20夜に南京禄口空港に到着、そこからバスで揚州へ。友達から禄口空港で感染者が出たことを聞き、7/23に社区へ自主的に報告、自宅隔離してPCR検査を受け(陰性)に行ったそうです。しかし、派出所から連絡があったのは7/28になってから。さらに健康QRコードが黄色に変わったのも7/29になってからだったそうです。そこでやって集中隔離施設に移動することができたとか。

 また、7/21に南京から揚州に戻った大学生も、本来は南京を出発する際に48時間以内のPCR検査陰性証明が必要なハズなのに、駅では求められず、揚州に戻ってから自分で7/22と7/23にPCR検査に行って陰性を確認したとか。

 こうした状況から、7/21に南京から揚州に入った、今回の揚州でのクラスタ発生の原因ともなった毛さんも、実は移動がそんなに難しいことではなかったのでは?とも考えられています。こうした当局の初動の遅れが問題になっており、すでに南京市・揚州市共に責任者が処罰されています。

 8/17、揚州市ではさらに厳しい社区管理コントロールがはじまりました。第6回目の規制強化ですね。現在封鎖管理されているエリア全域で封鎖管理が強化され、マンション住まいは建物から出られず、村は村の範囲から出られず、平房住まい(長屋みたいな建物)の場合は、その巷から出られなくなりました。一方で、該当エリアの党幹部・教師・国営企業に働く人は、ボランティアとして活動し、社区(自治会のようなもの)の指示で住民達の生活に必要な物資の配送に従事することになりました。同時に、146万人対象に再度PCR検査をすることが決定しました。

 ちなみに、8/18発表では、8/17に江蘇省で発見された確定例は6例で、すべて揚州から(2例軽症・4例普通)でした。ゼロになるまで、まだまだデルタ株との格闘が続きます。

 以上です。

 



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