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魔法をかけて


16時、目が覚める。
ぼーっとした頭で寝る前の朝方の会話を思い出しながら、今日くらいもう一度寝ようかなぁと目を閉じるけど、ふと洗濯物が溜まっていることを思い出す。のそのそと起きて顔も洗わないまま、洗濯機にここ数日分の服を投げ込んだ。洗濯が終わるのを待つ間、シンクに溜まった洗い物を洗う。洗い物から見える生活の記憶が蘇ってすこしせつない。もうこの大きいボウルを抱えることもしばらくないのかな、なんて思いながら、開けた窓から湿気た少し冷たい空気が入ってきて、ぼやけていた意識がはっきりとしてくる。なんだか気持ちがいい。そのままシンクと洗面所の掃除を終わらせた。




最近、よく考えていた。わたしの思うメイド像と、わたしを好きでいてくれている人から見るわたしってなんだろうと。アイドルだったら良かったのに、なんて思うことだってある。こうみえてなんでも考えすぎる癖のある人間なので、こういうときに終りが見えなくて困る。




去年の今日、一年前。自分の所属していたメイド喫茶を卒業した。そしてその一年後の今日、限定カフェではあるけれど、自分たちで作り上げた”理想のメイド喫茶”をしばらく休業させることに決めた、最後の営業日だった。

最初は、秋葉原の地下にある小さなカフェから始まった。閉店時間いっぱいまで会議。二人でやっていくと決めた途端、あれやこれや考えること出来ることやりたいことが無限にできて、あまりにも一緒にいる時間が長くなって、だったら一緒に住んだほうが早いねと尋常じゃない行動力で家を借りた。今では、家に帰っても、話題はその日のことやご主人様の話ばかり。自分たちの生活の中に、メイドというものが濃く染み付いているのを感じた。

おとめ堂を始めて、続けていくうちに意見のぶつかり合いも増えたけれど、それはお互いにないものを補い合って一つのものを作ろうとするわたしたちには必要なものだと常に思っている。し、自分の思うメイド像やお給仕の仕方の違いを認めて、それがどちらも間違いじゃないことを認めて、共存しようと思えるわたしたちは、これから先もきっと強い。



喫茶おとめ堂は、誰かの痛みや辛さがわかる人間だからこそ作ることの出来る場所だとわたしは思う。あたたかくて、やわらかくて、ひだまりみたいな。

常設のお店ではないから、帰りたい時に帰れるような場所になれなかった事だけが悔しいなと思う。もっと寄り添える存在でありたかった。
でも、だからこそ理想は高いし、もっと、という気持ちも強い(そのせいで動けなくなることもある)。妥協も諦めもしたくない。自分たちの中のおいしいも、かわいいも、たのしいも、いつだって全力でありたい。たくさんの重たい気持ちを引きずりながら、どうにか笑って前を向いて歩いてきた。
今まで悔しくて泣くこともあったし、嬉しくて泣くこともあった。それでも、二人の中で進むことしか選択肢にはなかったのは、支えてくれる皆がいたからだと心の底から素直に思う。

あなたの「すき」「かわいい」「おいしい」、全部当たり前だと思ってないよ。本当に、いつもありがとう。

あと、わたしたちの無理難題についてきてくれたお手伝いしてくれた友人各位にも、改めて感謝を。特にゆきちゃんがいなかったら喫茶おとめ堂は続いてなかったと思う。ゆきちゃんの笑顔とあの姿にメロメロになった人もたくさんいるだろうなあ。ふふ。



これから始める新しいお店では、メイドをやらないと決めた。
というのも、今回いろんな縁があってお借りする物件自体とても素敵な場所なのだけれど、二人の理想とする”メイド”が出来るスタイルの物件ではない。メイドというものをしようと思えばできるけれど、わたしたちにとってそれは妥協になってしまう。色々考えた結果だった。
実際新しいお店をやりつつ喫茶おとめ堂を、という考えも一瞬浮かんだものの、最終的に休業を決めたのは、片手間で理想と向き合えるほど器用ではないことを自分たちが一番分かっているから。悔しいね。

メイドという存在が大好きだし、メイドである自分と、メイドである自分を好きでいてくれた人たちへ中途半端な姿を見せたくないという部分もある。ただ、メイドのわたしも、メイドじゃないわたしも、好きでいてほしい!なんて贅沢も我儘も言わないから、自分自身でくらいは好きでいてあげたいな、なんて思っている。




お給仕が好き。誰かのためにご飯やお菓子を作ること、それを食べているのを見ることが好き。いろんな話を聞かせてくれるのが好き。私の話を聞いてくれている時の表情を見るのが好き。推しを見ている時の顔を観察するのが好き。チェキを大事にお財布に入れたりケースに入れてくれてるのを見るのが好き。おかえりなさいといってらっしゃいをするのが好き。たくさんの好きをくれたあなたが好き。


いつだって、前のお店を卒業したときの、このブログの気持ちはずっと変わらないと思う。ただ、このときから一年。変わったものがひとつだけ。

たまに意地悪を言って困らせたり、自分に自信が持てなくて不安になったり、納得のいかないことに対してまっすぐ感情が出すぎちゃったり、そんなかわいくないところばかりのわたしだけど、そんなわたしをまっすぐに好きでいてくれる、あなたのことが好き。

まだまだ呪いは解けないけれど、だれかの二番目三番目でもいいとどこか自分を諦めていたわたしに、期待してくれることが、わたしにとって頑張る意味になる。わたしと、わたしの頑張るすべてを温かい気持ちで見ていてくれる人のこと、一人ひとり大事に想っているよ。

画面越しで見守ってくれている人のことも、ちゃんと覚えてる。出会ったときのこと、ずっと忘れないし今でも昨日のことみたいに思い出せる。いつかまた会える日が来るといいな。




新しいお店と、新しいわたし。だけど、どちらかといえば全く新しいわけではなくて、アニメの二期みたいな感じだと思っている。絶対に素敵な場所にしてみせるから、遠くでも近くでもいい。見ていてほしい。
ちなみに、ここまでしんみりさせておいてなんですが、メイドであるわたしもなくすつもりはないので、安心してほしいな。すこし長めの修行。おいしいかしこいかわいいを備えたメイドになって、戻るまで待っていてね。




それでは。
喫茶おとめ堂という存在を見つけてくれたあなたに、わたしというメイドを見つけてくれたあなたに、またね、を。




また会える日まで。
どうか、健やかにお過ごしください。

何度もありがとうを。
これからも、よろしくね。



2021.05.16 おもち

special thanks
ゆきちゃん、ことち、えこちゃん、さめちゃん、ちひろちゃん魔女っ娘さん、他お手伝いしてくださった各位、いつも支えてくてくれるみんな
そして、あいちゃん


これは私のおやつ代