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【2022 新譜発表記念】 私的ムーンライダーズアルバム大賞【22部門】

彼らの20枚くらいあるオリジナルフルアルバムから、全て私見で表彰しました。
新譜は果たしてこれらのどれかを塗り替えてくれるだろうか!と勝手に期待しています。勝手過ぎる。

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サウンド・編曲部門 大賞

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『Don’t Trust Over Thirty』(1986)

メンバーそれぞれの得意技を封印した結果産み落とされた異形の一作。このアルバムを最後にバンドは5年の休止期間に入る、まさに"静けさの前の嵐"。
メンバー全員と多数のゲストによる濃密なコーラスで彩られたビョーキな音の応酬は、結果として「ボクハナク」を逆説的にライヴ化けさせることに。
▶次点 : 『マニア・マニエラ』(1982)

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詞作部門 大賞

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『最後の晩餐』(1991)

90年代以降の"人間について語る"ムーンライダーズの原点にして頂点。私小説と時事のサンプリングが混在しつつ、バブル崩壊が始まった時代の空気でパッケージングされている。「who’s gonna die first?」「犬の帰宅」「はい!はい!はい!はい!」などの鋭い歌詞の数々は時代を越えて現在の社会をも冷笑している。
▶次点 : 『Amateur Academy』(1984)

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演奏部門 大賞

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『Moon Over the Rosebud』(2006)

生音を押し出したサウンドデザインになっていて、使用されている楽器のバラエティもさることながら、デビュー30年目の円熟した演奏を率直に味わうことができる。円熟したのは慶一の声もそうで、倍音に一番脂が乗っていた時期で耳あたりが心地よい。
「WEATHERMAN」「ワンピースを、Pay Dayに」「11月の晴れた午後には」といった作品では、狂った音の洪水の中で6人のメンバーが代わる代わる技巧を披露していくような熱い展開が楽しめる。
▶次点 :『Camera Egal Stylo』(1980)

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メロディ部門 大賞

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『Bizarre Music For You』(1996)

20周年記念を口実に、オープニングからポップなメロディが延々と続く異色のお祭り騒ぎ。
特に「君に青空をあげよう」と「スプーン一杯のクリスマス」の旋律のあざとさは、このバンドの常軌を逸している。歌詞の凄まじい甘さと調和して極上の胃もたれを起こす前者に対し、後者は歌詞の凄まじい苦さでメロディの甘さが際立っている。
★同時受賞「お祭り騒ぎ部門 大賞」
▶次点 :『青空百景』(1982)

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コンセプト部門 大賞

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『Amateur Academy』(1984)

機械と肉体、都会と森、劣情と愛、といった二項対立を複雑に内在させつつも、曲名の字面とサウンド、そして「幸せなんて人それぞれ」というフレーズでビシッとまとめ上げた、1曲たりとも無駄が無い快作。
▶次点 : 『Moon Over the Rosebud』(2006)

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曲順部門 大賞

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『Tokyo7』(2009)

序盤はハイテンションで、中盤になるにつれメロウに。そして「むすんでひらいて手を打とう」の不穏なラストコードを合図に始まる終盤では、"おしまい"を予感させる寂寥感あふれる楽曲が連なる。まるで『Abbey Road』のB面を想起させる流れであるが、最後に「6つの来し方行く末」で季節が巡るように、このバンドは解散せずまだまだ続いていく。
次点 : 『ムーンライダーズの夜』(1995)

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ジャケット部門 大賞

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『青空百景』(1982)

砂丘・風呂のタイル・狂気を感じるメンバー全員の笑顔、そしてそれらを覆う青空、というシュルレアリスムすら想起させる奇っ怪な表象が、一聴するとポップな収録曲が共通して孕んでいる異形感をしっかり体現している。
▶次点 : 『Don’t Trust Over Thirty』(1986)
▶特別賞 : 『The Worst of Moonriders』(1986)

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装丁・歌詞カード部門 大賞

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『Dire Morons TRIBUNE』(2001)

新聞記事がモチーフの歌詞カード。新聞というメディアは多様な思想やインシデントがパッチワークのようにつぎはぎになったものであるが、今作の詞は、ソシアルなものからプライベートなもの、ナンセンスなものまで、その書き口のバラバラさがまさに新聞記事の様相を呈している。
歌詞カード裏では、その新聞がボロボロになっている。前述のような個性豊かな人間社会を問答無用で破壊してしまうテロ行為への怨念が、表ジャケットでぽっかり口を開ける不気味なイラストから感じられる。
▶次点 : 『P.W. Babies Paperback』(2005)
▶特別賞 : 『マニア・マニエラ』(カセットブック版, 1984)

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先進性部門 大賞

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『マニア・マニエラ』(1982)

尖りに尖ったサウンドは言うまでも無い。
社会・共産主義をモチーフにしたアルバムなのに「売りようが無いから」という極めて資本主義的な理由でレコード会社からつっぱねられ、それがキッカケで封印されてしまうという、その身の上ごと徹底的にラディカルなアルバム。
▶次点 :『Nouvelles Vagues』(1978)

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一般受け部門 大賞

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『月面讃歌』(1998)

当時のディレクターも「全曲シングルカットOK」と豪語。
慶一の独裁体制で奥田民生まで巻き込み全力で売りにかかった大問題作。
▶次点 : 『Tokyo7』(2009)
▶特別賞 : 鈴木慶一とムーンライダーズ『火の玉ボーイ』(1976)

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個人部門 岡田徹よく頑張ったで賞

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『マニア・マニエラ』(1982)

他のメンバーがさじを投げていく中、新型シーケンサーMC-4の扱いを真っ先に会得。アルバムの特徴的なサウンドづくりに大きな貢献を果たす。
彼の手によるインパクト抜群のナンバー「Kのトランク」はアルバム冒頭に配され、多くの新参リスナーを魅了か拒絶のどちらかに導いた。
▶次点 : 『A.O.R.』(1992)
▶ソロアルバム部門 : 『海辺の名人』(1991)

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個人部門 かしぶち哲郎よく頑張ったで賞

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『MODERN MUSIC』(1979)

レコーディングが行き詰まる中、奇曲「バック・シート」をバンドに提案、アルバム全体のイメージを一手に形成した。
そして、最終的にアルバムには自作が3曲も採用されることになる。
▶次点 : 『Istanbul Mambo』(1977)
▶特別賞 : 『綿の国星 イメージアルバム』(1980)
▶ソロアルバム部門 : 『リラのホテル』(1983)

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個人部門 武川雅寛よく頑張ったで賞

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『ムーンライダーズの夜』(1995)

ハイジャック事件のことを抜きにしても、演奏面での活躍ぶりは特筆すべきで、コーラス、バイオリン、トランペット、マンドリンは勿論、ピアノ、ハーモニカ、胡弓、口笛まで担当。歌唱も素晴らしく「帰還」と「最後の木の実」とで全く違った味を見せる。
▶次点 :『Camera Egal Stylo』(1980)
▶ソロアルバム部門 : 『くじらのハート』(1996)

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個人部門 鈴木慶一よく頑張ったで賞

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『Animal Index』(1985)

精神的に過酷なレコーディング作業による鬱症状を、詞という形で傑作「夢が見れる機械が欲しい」に昇華させる超ファインプレー。
動物をテーマにしたアルバムとのことだが、そのオープニングとエンディングに配された慶一作の2曲では、「生死」と「進化」という、動物を動物たらしめている大きな”指標”( = index)2つで、個人作業の塊であるアルバムをしっかりまとめ上げている。曲自体も出色の出来。
▶次点 : 『Moon Over the Rosebud』(2006)
▶ソロアルバム部門 : 『ヘイト船長回顧録』(2011)

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個人部門 白井良明よく頑張ったで賞

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『最後の晩餐』(1991)

「ギター × ハウス」というアルバムのサウンド面を全面的に牽引し、「who’s gonna die first?」「Come Sta, Tokyo?」「ガラスの虹」とキャッチーな曲を量産。再起動したバンドのアクセルを一気に踏み込んだ。
▶次点 :『Bizarre Music For You』(1996)
▶ソロアルバム部門 : 『カオスで行こう!』(1992)

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個人部門 鈴木博文よく頑張ったで賞

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『Don’t Trust Over Thirty』(1986)

彼が書いたタイトル曲の歌詞は松本隆も絶賛しバンドを代表するアンセムに。他にも「ボクハナク」と「何だ?このユーウツは‼」(後半部分)の作詞・作曲もこなし、とにかく充実したクリエイティビティ。
▶次点 : 『Camera Egal Stylo』(1980)
▶ソロアルバム部門 : 『三文楽士』(1993)
▶ソロアルバム部門次点 : 『凹凸』(2008)

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個人部門 夏秋文尚よく頑張ったで賞

該当アルバム無し

現時点では『Tokyo7』(ドラムスで数曲と「パラダイスあたりの信号で」のコーラス)と、『Ciao!』(「折れた矢」でジャンクの看板を叩いている)のみの参加にとどまっている。
新譜に大いに期待!

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メンバーの個性がよく出てる部門 大賞

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『ムーンライダーズの夜』(1995)

「まぼろしの街角」から「夜のBoutique」までの6曲が、各々のメンバーのアピールタイムみたいになっていて、強烈な個性のオンパレードで楽しい。それでいて他メンバーによる干渉も多く、決してソロ作品の集合体にはなっていないのも高評価。6人が「夜」という自由度の高いテーマをそれぞれどう解釈し、いかに歌詞や編曲に落とし込んだのかが注目のしどころ。
▶次点 : 『P.W. Babies Paperback』(2005)
▶特別賞 :『Six musicians on their way to the last exit』(2000)

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一体感部門 大賞

『Ciao!』(2011)

「3.11」「無期限活動停止」という重すぎる2つのイベントに押しつぶされ1つの団子になった彼ら。アルバムを通して歌詞にその2つが徹底的に反映されているが故、6人全員が作詞しているにも関わらず確固な一体感がある。メンバー1朗らかな作風の良明が提供した2曲の重さにそれが如実に表れている。
また、同様に6人全員がボーカルをとっているのだが、全編を通して分厚い音声処理がかけられている上に、1曲の中で何度も歌い手が入れ替わる曲が多いため、声の聴き分けがしづらい。いや、これぞ一体感だ!。 
同様のことが白黒でゴチャゴチャしたジャケットにも表れている。
▶次点 : 類例無し

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エネルギッシュ部門 大賞

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『Istanbul Mambo』(1977)

白井良明の加入によってフュージョンバンドになりかけていた当時の彼らは、まさに"ナイス・タフ・ガイズ"。歌詞も艶のあるものが散見され、トルコに行ったりロシアに行ったりチャイニーズ・シアターを目指したり、とにかくエネルギッシュ!
なお、『Camera Egal Stylo』に関しては演奏の熱量だけ聴くとダントツで元気なんだが、全体を通して歌詞があまりにも不健康すぎるので選外となった。
▶次点 : 『MODERN MUSIC』(1979)
▶特別賞 : 『dis-covered』(1999)

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夜寝る前に聴きたい部門 大賞

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『Nouvelles Vagues』(1978)

編曲・歌詞共に全体的に大人しめのトーンで、最後には「トラベシア」の暖かい陽の光を浴びながら心地よく夢の世界に旅立てる。
ただし「ジャブ・アップ・ファミリー」だけは飛ばして聴かないと別の意味で"トリップ"するような悪夢を見ることになるだろう。
▶次点 : 『Moon Over the Rosebud』(2006)
▶選外 : 『ムーンライダーズの夜』(1995)
▶特別賞 : はちみつぱい『センチメンタル通り』(1973)

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恋人の前で聴けない部門 大賞

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『Camera Egal Stylo』(1980)

B面に「水の中のナイフ」「ロリータ・ヤ・ヤ」「狂ったバカンス」「欲望」という官能ソング4連発が配されている上、ボーカルも「ダンス!ダンス!ダンス! マワレマァワァレェェェ↑ ナァイ!ナァイ!ナァイ!ナァイ! パァォッ! ゥオッペェレイタァァァァ↑」といった感じなので非常に危険。
▶次点 : 『A.O.R.』(1992)  他ノミネート多数

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セールス部門 大賞

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該当アルバム無し

今聴こえる音が彼らを腹一杯にすることは決して無い。
▶特別賞 : 武川雅寛『とにかくここがパラダイス』(1982)
▶未知数 : 『It's the Moooonriders』(2022)

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おしまい!

↑アルバムジャケット20枚を円と四角形で描いてみたやつ


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