図1

優れた起業家の意思決定の理論

「エフェクチュエーション」という言葉をご存知ですか。

「エフェクチュエーション」とはバージニア大学ダーデン経営大学院のSaras Sarasvathy教授が提唱している理論で、成功した企業の創業者を研究して導き出した、優れた起業家の意思決定の理論です。それ以前は、起業家の特徴は、生まれ持った資質や運などで語られていたのですが、共通の理論や思考プロセスを体系化したことで、注目されました。
(参考図書:邦訳「エフェクチュエーション」碩学舎、サラス・サラスバシー 著)

図2

コーゼション
未来は予測できるかぎりコントロールできる

Sarasvathy教授は、エフェクチュエーションの反意語として、「コーゼション」を挙げています。 「コーゼション」とは、目的からスタートし、目的を達成するには何をすればいいかを考え、特定の結果を生み出すための手段を選択するという意思決定プロセスのことを差します。STPマーケティングなどの教科書的なアプローチがコーゼションにあたるので、イメージしやすのではないでしょうか。その前提には、未来は不確定なものだが、できるだけ予測して進めていく「未来は予測できるかぎりコントロールできる」という考えがあります。

エフェクチュエーション
未来はコントロールできる限り予測する必要はない

一方、エフェクチュエーションは、特定の手段からスタートして、それらの手段を使って何ができるかを問い、可能な限りの結果をデザインしていくというアプローチです。その前提には未来は不確定なものだから、自ら影響を与え変えていくものであり「未来はコントロールできる限り予測する必要はない」という考えがあります。

図3

比喩として、エフェクチュエーションは手持ちの生地を自由に組み合わせながら全体像を作り上げていくパッチワークキルトのようなもの、コーゼションは全体像が見えていてピースを埋めていくジグソーパズルのようなものに喩えられます。一般的に、企業のライフサイクルにおいて0→1フェーズではエフェクチュエーションが、1→10ではコーゼションが有効だと言われています。

図4

エフェクチュエーションを実践していくために「手段からスタートして結果をデザインする」「未来はコントロールできる限り予測する必要はない」といわれても具体的にどう行動すればよいのかイメージしにくいですが、Sarasvathy教授はそのためのテクニックを5つの原則として具体化しています。

図5

原則1 手中の鳥

自分が持っている既存の資源からできることを考えるアプローチです。自分が今持っている資源「自分は誰か、何を知っているのか、誰を知っているのか」からスタートして、いまできる結果を考えます。
(コーゼションでは目的や特定の結果からスタートして手段を選択する)

原則2 許容可能な損失

いくらまでなら損してもよいかコミットするという考え方です。これは失敗を恐れるという意味ではなく、リスクの小さいうちに失敗することで損失を抑えながら前進していくフェイルファーストの考え方に通じます。
(コーゼションではいくら儲かるのかに焦点を合わせる)

原則3 クレイジーキルト

クレイジーキルトとはいろんな形の布を縫い合わせて作り上げた1枚の布です。はじめから「顧客」「競合」とステークホルダーをを切り分けるのではなく、キルトを縫い合わせるように周囲にいる関係者と共創しながら提供してくれる価値を考えます。
(コーゼションでは顧客や競合を自分と切り分けて分析の対象とする)

原則4 レモネード

アメリカには「すっぱいレモンをつかまされたらレモネードを作れ」という格言があります。不確実性や予期せぬ出来事に対して発想を転換し、リソースと捉えることができないか、失敗を梯子として活用する考え方です。
(コーゼションでは不確実性を避け、克服し、適応する)

原則5 飛行中のパイロット

パイロットには、常に数値を確認し、状況に応じて臨機応変に迅速に対応する能力が求められます。つまり原則5は、当初の予測に頼らず常に状況監視とコントロールを怠らないマインドセットを持つことです。そうすることで予想外の機会を捉えることにつながり、最悪の自体を克服するための鍵にもなります。
(コーゼションでは技術年表や社会経済学的なトレンドのみを活用する)

図6

ここまで、エフェクチュエーションとコーゼションを対比させて見てきましたが、どちらが優れているということではありません。ただ、往々にして「コーゼションの考え方が正しい」と思っている方が多いと思いますので、エフェクチュエーションという考え方を身に着けることで考え方の幅を広げることができると思います。場面に応じて双方のアプローチを組み合わせながら活用していきましょう。

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