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ドストエフスキーと医学(2)

地域医療ジャーナル 2022年2月号 vol.8(2)
記者:shimohara-yasuko
元医学図書館司書


ドストエフスキーとてんかん


1) W.ペンフィールド『脳と心の正体』

わたしは27歳で医学図書館員になりました。このときから「医学と文学の接点」の模索が始まりました。ほどなく、一冊の本と出会いました。医学専門書に挟まれて棚の奥に押しやられていた小さな白い表紙の一般書です。ドストエフスキーの合鍵がその本にピタリとはまりました。

脳と心の正体 ワイルダー・ペンフィールド 著 塚田裕三・山河宏 訳 法政大学出版局 1987
原題:Wilder Penfield. 1975. The Mystery of the Mind. Princeton university Press.

ワイルダー・ペンフィールド博士(1891-1978)は、てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、30年にわたって人間の脳の働きを臨床医学の立場から研究して、驚くべき新知見を次々に発表した脳科学者としていっそう有名です。てんかんの患者さんの手術中に、露出した脳に電気刺激をあたえて、反応した体の部分を詳細に記録し、感覚や運動の体性地図(ペンフィールドのホモンクルス)の存在を明らかにしました。これらの豊富な観察と知識に基づいて、最も重要で、究極の謎とされる「心の本体は何か」という問題についても、一元論にそって説明しようと長年にわたって探求を続けました。

『脳と心の正体』は、晩年(83歳)に著した、自らの「脳と心の真理を求めつづけた巡礼の旅」の物語です。次のように述べています。



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