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病鍼連携の実践―がん性疼痛への導入のシナリオ

地域医療ジャーナル 2022年3月号 vol.8(3)
記者:bycomet
医師/編集長

2021年6月号から連載が開始している「鍼灸と地域医療」
鍼灸の実践について、特に医療との連携の側面から詳しく知ることができ、とても参考になります。

一連の記事はこちら。


2つの障壁

さて、いざ医療現場で鍼灸を活用してみようと考えてみると、2つの高い障壁がありそうです。


保険診療の制約

保険診療との線引きや費用に関することは、障壁のひとつでしょう。
この点については、こちらの記事で解説されていました。

また、はり・きゅう療養費は適用に条件があります。
①患者さんがお悩みの症状について、はり・きゅう療養費の適用を希望されていること
②お医者さんの診察を受け、対象疾患であると診断されていること。
③その病気について、お医者さんからお薬やリハビリなどの治療(保険給付ですね)を受けていないこと。です。

対象となる疾患は大きく7つあり、
①神経痛、②リウマチ、③五十肩、④頚腕症候群、⑤腰痛症、⑥頚椎捻挫後遺症、⑦その他(変形性膝関節症など)
です。

健康保険で療養の診断書を発行することはしばしばありますから、医師にとっては周知のことと思います。
障壁はむしろ、治療中の原疾患は保険適用できない、という制約のほうにあると思われます。痛みに対する保険診療をしている場合、痛みに対する鍼治療を並行することができないというルールです。

もちろん、自由診療ではその限りではありませんが、治療費が高額となってしまいます。

したがって、この制約がある限り、医療と並行した鍼治療の導入は難しいというのが現状でしょう。


治療効果

さらに、治療効果と害について情報が十分ではないことも、障壁のひとつです。
この点については、こちらの記事の解説がありました。

この記事のなかで引用されていた、図3 Evidence Map of Acupuncture(鍼治療の証拠地図)が参考になります。

頭痛や偏頭痛、慢性疼痛に対して鍼治療が有効であるとの研究が一定数ありそうです。変形性関節症、疼痛一般、がん性疼痛に対しては、潜在的に効果が示唆される程度の研究もあるようです。

特に対照群の設定が難しいため、鍼治療の治療効果を評価するには限界もあるでしょう。しかし、痛みに対する効果については、ある程度評価がなされていると考えられます。


導入のシナリオ

こうした障壁があるなかで、地域医療現場で鍼治療を導入するとしたら、どのような対象が想定されるでしょうか?

たとえば、在宅医療において。

  1. (治療中の原疾患に関連しない)頭痛・慢性疼痛のある患者

  2. 患者の家族で(治療中の原疾患に関連しない)頭痛・慢性疼痛のある人

  3. 従来の治療で痛みがコントロールされないがん性疼痛の患者(自由診療)

このような対象者がイメージされます。
上記1. 2. は一般的な適用であり、対象になりうるでしょう。

今回は、3.について取り上げてみたいと思います。


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