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新型コロナウイルス感染症の薬物治療から考察するエビデンスと薬剤の使用動向

地域医療ジャーナル 2021年7月号 vol.7(7)
記者:syuichiao
薬剤師


 世界中で感染が拡大した新型コロナウイルス感染症ですが、ワクチン(特にmRNAワクチン)の接種率が高い国や地域では、その流行が鈍化しているようです。とはいえ、世界的に見ればその猛威は未だ継続中であり、この感染症によって亡くなる方も少なくありません。米国では、新型コロナウイルス感染症が2020年の主要死因ランキングで第3位に入り【1】、その超過死亡も世界で最多の45万8千人と推計されています【2】。

  このような状況の中で、様々な薬剤が治療薬候補として挙げられ、また実際の臨床で用いられてきました。感染拡大から1年以上を経て、薬物治療に関する知見も集積しつつあります。2021年3月19日に更新された新型コロナウイルス感染症に対する薬物治療の効果を検討したシステマティクレビュー【3】の結果を簡単に要約します。

❖ステロイドとインターロイキン-6阻害剤(トシリズマブ等)は、重症の新型コロナウイルス感染症患者に対して重要な利益が期待できるかもしれない。
❖アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル-リトナビル、およびインターフェロンに重要な利益は期待できない
❖レムデシビル、イベルメクチン、その他の薬剤が新型コロナウイルス感染症患者に対して重要な利益をもたらすかどうかは不明

  ある特定の疾病に関する薬物治療のエビデンスが、短期間で大量に集積された事例は人類の歴史を振り返ってもそう多くはないように思います。そのような中、前回の記事でも指摘したように、先行研究の結果や有力な臨床仮説が、後続の研究報告によって、短期間のうちに覆された事例も散見されます。

  2020年の間に、新型コロナウイルス感染症に対する様々な臨床仮説が検証され、次々と知見が生み出されては更新され続けてきました。こうした学術的知見の「フロー」は、実際の臨床現場にどのような影響を与え、治療方針をどう変化させたのでしょうか。この記事では新型コロナウイルス感染症に対する治療薬のエビデンスが、薬剤の使用状況にどのような影響を及ぼしたのかについてまとめます。

【参考文献】
【1】JAMA. 2021 May 11;325(18):1829-1830. PMID: 33787821
【2】BMJ. 2021 May 19;373:n1137. PMID: 34011491
【3】BMJ. 2020 Jul 30;370:m2980. PMID: 32732190


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