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ねこでも読める医学論文 第29話「本物の治療と見せかけたニセ治療 vs ニセ治療と説明したニセ治療!」

地域医療ジャーナル 2021年2月号 vol.7(2)
記者:ph_minimal
薬剤師

はじめに

 第27話は「味覚に対するプラセボ効果(水道水の味を評価。パッケージだけ変えて比較)」に関する報告を、そして第28話は「腰痛患者に対し、痛みの増強を予期させる説明をすることで痛みが誘発される可能性がある(同様のエクササイズを実施。エクササイズに関する説明内容を変えて比較)」という論文をご紹介しました。実際に行ったことは同じなのに、結果がかわるという不思議な研究結果でしたが、今回はプラセボ効果の実態に迫る研究についてご紹介します。

第27話「2020年 忘年会! ~味覚に対するプラセボ効果~」(https://cmj.publishers.fm/article/23099/)

第28話「痛みが悪化するかもしれないと説明されると、痛みが悪化する?」
https://cmj.publishers.fm/article/23273/) 

ねこでも読める医学論文 第29話「本物の治療と見せかけたニセ治療vsニセ治療と説明したニセ治療!」

みに丸「ねえ、ボス。ぼくは最近わけがわからなくなってきているのですよ」

はかせ「あ、そう」

みに丸「ずいぶん、そっけないボスだな」

はかせ「いや、きみのことだから、またわけのわからないことを言いだすのかと」

みに丸「違いますよ。最近、ボスが不思議な研究ばっかり紹介してくるから、混乱しているんですよ。説明を変えただけで痛みが悪化したり、水のパッケージをかえただけで味がかわったり…」

はかせ「ほんと不思議だよね。高級ワインだと思い込んだままワインを飲んだら美味しく感じてしまうくらい人の感覚ってのは曖昧なのだ」

みに丸「また、その話ッ。ぼくをイジるのはそこまでにしてくれ!」

※前述の第27話参照

はかせ「きみの話は置いといて、説明を変えただけで症状が変化するっていうのは興味深いね」

みに丸「前回の研究は、痛みが悪化するかもっていうネガティブな説明で痛みが悪化するっていう研究でしたけど、ぼくは痛みが改善するよ!と説明することで痛みが改善するのかどうかが知りたいです」

はかせ「たしかに。そんなきみにうってつけの論文[1]があるぞ」

みに丸「あるんですかッ!」

はかせ「あるんだとも!」

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[1] A. Randomized Placebo-Controlled Placebo Trial to Determine the Placebo Effect Size. Pain Physician. 2017 Jul;20(5):387-396. PMID: 28727701.

対象論文はこちらからダウンロードできます。https://www.painphysicianjournal.com/current/pdf?article=NDUwNA%3D%3D&journal=106

ぜひとも論文と照らし合わせながら、ねこ薬剤師たちの論文抄読会にご参加ください。

 

~研究の背景~

はかせ「まずは研究の背景だ。388ページのイントロダクションから抜粋するぞ。痛みの治療においては、プラセボが『placebo analgesia(プラセボ鎮痛)』と呼ばれる効果を誘発することが知られている。かかとの痛みの原因としてもっともコモンな疾患として足底筋膜炎(Plantar fasciitis)がある。非外科的治療は90%が成功するが、残りの多くは手術を必要とし、合併症のリスクや、回復に時間がかかったりする。非外科的治療のなかで有望なのが、体外衝撃波治療(ESWT;extracorporeal shockwave therapy)で、プラセボ対照試験で有用性が確認されている。そこで本研究では、ニセの体外衝撃派治療を行い、本物の治療だと説明することで、プラセボ鎮痛効果を誘発できるかどうかを検討した」

みに丸「話が長いッ。混乱してきた」

はかせ「足底筋膜炎っていうかかとが痛くなる病気があって、それに有効な体外衝撃波治療っていう、手術を必要としない治療があるってこと」

みに丸「体外衝撃波ってなんです?」

はかせ「体外衝撃波っていうと、真っ先に思い浮かぶのが体外衝撃波結石破砕術(ESWL:extracorporeal shock wave lithotripsy)だよね。尿管結石に対して、体の外から衝撃波をあてて、結石を砕く方法だ。外科的処置がないのでメスをいれたりすることはない」

みに丸「メスを入れるのは怖いッ!」

はかせ「その衝撃波の装置を、かかとの痛みの治療に使うってことだと思うよ」

みに丸「結石を砕くほどの衝撃波を足の裏にあてるんですか!?怖いッ!」

はかせ「ちょっとググってみよう。どうやら同様の装置みたいだけど、低出力にして使用することで疼痛治療に応用できるそうだ」

みに丸「へぇ~、そんなものが…」

はかせ「この装置をつかって、プラセボ効果の実態に迫ったらしい。では、研究の概要をチェックしていこう」

 

※体外衝撃波治療の装置がどんなものなのかイメージできたほうがいいですよね。

衝撃波の装置の図や写真などは論文には記載されておらず、ドイツの事前登録情報(https://www.drks.de/drks_web/navigate.do?navigationId=start&messageDE=Home&messageEN=Home)でレジストリIDのDRKS00011643で検索してもヒットしませんでした。どのメーカーの装置を使用したのか不明ですが、日本で使用されている装置についてはGoogleで「体外衝撃波疼痛治療装置」で画像検索すればヒットしますので、「ああ、こういう感じの装置なのかぁ~」とご確認いただければと思います(念のため、大人の事情に配慮し、本記事に画像を掲載しておりません)。

 

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