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新時代の酒文学かも?:『酒に溺れた人魚姫、海の仲間を食い散らかす』(酒村ゆっけ、 著)

地域医療ジャーナル 2022年6月号 vol.8(6)
記者:shinnoyuki
管理栄養士 / 修士(人間生活科学)


 最近はYouTubeで「Vlog」と呼ばれるような動画を見るようになりました。video blog,video logの略称であり,簡単にいうとブログの動画版らしいです。中でも,美味しそうな食べ物だったり飲み物だったりを,ただひたすら食べたり飲んだりしている動画好んで見ています。この場合,「飯テロ動画」とも「酒テロ動画」ともいいます。馴染みがない人は,何が面白いのだろう,と思われるかもしれませんが,そのような動画を見ていると,あたかも自分も食べたり飲んだりしているかのような気分になってきますので,そんなにたくさんの量を食べられない自分にとってはありがたい限りです。

 そういった類いの動画を配信しているYouTuberには様々な方がいます。ただひたすらご飯を作って食べる人,テレビ番組の企画ような体裁にして飲食店で大食いする人など。一方,独特の世界観で自身の飲酒風景(+食事風景)を配信する方がいます。それが今回紹介する小説『酒に溺れた人魚姫、海の仲間を食い散らかす』を執筆された「酒村ゆっけ、」さんです(Youtubeチャンネルはこちら)。ナレーションと字幕で表現される言葉遣いや言い回しが特徴的で,ただ焼き肉を食べている動画だったとしても全く飽きません。

 職業は「ネオ無職」を自称されており,YouTubeを主戦場としながら,各種媒体でエッセイを執筆されたり,歌手としても楽曲をリリースされるなど,多方面で活躍されています。そんな筆者の,一冊目の小説が本書です。

この物語は、私が酒に陶酔しているとき,瞼の裏に浮かんだ映像を書き起こしたものだ。(p.3)

 筆者は,当初ノスタルジックな物語を書こうとしたそうですが,普段はYouTubeで発信しているような食レポに近い文章を書くことが多く,なかなか思ったような文章にはならなかったそうです。一方で,お酒を飲みながら妄想する癖があり,それを描写するようにして本書のような形に落ち着いたそう。全部で10の物語が含まれる短編小説集となっています。

 以下では,本書に含まれる物語のうちの三つについて,あらすじと感想文を書いてみたいと思います。その後,全体的な印象や感想について紹介できればと思います。


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