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最高かよと思った話

結婚して14年になる。

26歳から40歳になるまで、家事の分担については何度も何度も話し合ってきた。料理、洗濯、掃除、ゴミ出し、お風呂・トイレ掃除、生活用品の補充、その他あれこれ。

今日は、その中の料理についての話。

結論からいうと、結婚して10年は私が料理を担当して、出産を機に完全に夫と交代した(現在4年目)。

夫はもともと料理が好きで、一人暮らしをしていた学生時代も友達によく料理をふるまっていたらしい。当時自炊をする男子学生はまだ少なかったのか、男友達が食材を買って「これで作って」と持ってきて皆でワイワイ食べることも少なくなかったという。

一方私も18歳から京都や東京で一人暮らしを続けていたので、日々の食事を自主的に準備しなくてはいけない生活ではあった。ある意味料理を好きになるチャンスに溢れた生活とも言える。が、あまり好きになれなかった。

基本的なことは覚えたし、一応ひととおり作れるようにはなった。スーパーに行けばクックドゥもあるし、たいていなんとかなる。そのおかげでそこそこ美味しい。作るって楽しいなあと思ったこともある。

でも、どうしても好きにはなれない。

私にとって料理は、楽しさよりもタスクの多さと胃袋(命)に関わる責任の大きさ、そして面倒くささの方が大きな割合を占めていた。

逆に好きな家事はというと、洗濯機を回すこと、布団を干すこと、掃除、とくにあらゆるフィルターを掃除すること。マイナスをゼロに戻すのが好きだった。日を浴びる布団を眺めると幸せを感じたし、掃除機や洗濯機のフィルター掃除には情熱を注いでいる。今も。

そんな私たちだったにもかかわらず、結婚した当初は「私が料理をする」という雰囲気が当然のようにあった。
夫に求められたとかではなく、時代の空気として今よりもずっと「料理は妻が作るもの」という意識が強かったからだと思う。何より私自身が一番そう思い込んでいた。

なんとか10年やってはきたものの、出産して日々の生活がてんてこまいになったとき「もう料理を手放したい」とはっきり思った。

「料理は女がするもの/できなければいけないもの」という思い込みから解放されたかったのも大きいし(どうしても手放せずにいた)、

苦手なりに10年挑戦したことと、10年やって合わなかった、好きになれなかったのだからもういいだろうという、諦めと納得の交じった清々しい境地でもあった(会社勤めにも同じことが言える)。

話し合いの末、満を持して夫が料理担当になった。2020年だった。
実現したのは、コロナ禍を経て夫の在宅勤務が増えたことが大きい。そうじゃなかったら難しかったと思う。

離乳食期は常に一緒に悩んで考えてくれたし、子がだいたい大人と同じものを食べられるようになった今では日々あれこれ作ってくれる。釣りに行った日は釣ってきた魚を捌いてふるまってくれることもある。ありがたい。

料理の苦労をわかっているからこその感謝も大きい。
食材を選んで、保存して、メニューを考えて、賞味期限内に切って調理して、盛り付けて。その全てを楽しんで担当してくれていることに感謝しかない。ありがとうありがとう。

そしてとにかく全部が美味しい。
前回のnoteにならうなら、エネルギーがこもっているといえばいいだろうか。夫の作るご飯は、食べたら元気が湧いてくる。今では「ちょっと余ったから作った」といえばおにぎり1個だってほしくて満腹でも手が伸びてしまうようになった。

すっかり馴染んだこの生活。「また10年したら交代か?」「いやいやいろいろあって到達した今の感じがしっくりくるわー」そんな話をしていたある夜。

ふと「今はこうして毎日夫のご飯が食べられるけど、この先もし私が病院や施設に入ったら、もう夫のご飯を食べられないんだな」と私がこぼした。

自分の方が持病が多いことを思うと、いつか本当にそうなる気がして、病室で一人猫背で窓を見る自分の姿がけっこうリアルに浮かんできた。

そうしたらすかさず夫が言った。


「その時は弁当を作って届けてやるよ」。


まじか。猫背で病室の窓を見ていた私が、途端にいきいきとし始める。

焼き鮭、しゅうまい、奈良漬、私の好物とごましおごはん。病室で好物を一気にかき込む。むせる。お茶を飲む。「おかわり」「ないよ。また明日持ってくるわ」。窓から光がさす。最高かよ。愛かよ。

私たちはまじでしゃれにならないケンカを何度もやってきて、もうダメかと思ったことも一度や二度じゃない。この先もそういう時期はやってくるかもしれない。

でもこの夜聞いた言葉だけで全部ふっとぶくらい嬉しかった。最高かよ。ありがとう。



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