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雪夜の新潟へ 上野駅


上野発の列車に乗ったのはその日が初めてのことだった。


社会人2年目のある冬の日、金曜日終業後からの2泊3日新潟旅行を思い立った私は、予約サイトで新幹線のチケットを買おうとしていた。
自宅からの移動を考えれば東京駅から乗車する方が合理的なのだが、あえて私は上野からのチケットを選んだ。

旅の始まりといえば何となく上野駅という感覚があったのは、有名な歌謡曲のせいかも知れないし、いつか読んだ推理小説のせいかも知れない。だがいずれにせよ、東京駅とは趣を異にする上野駅に対して、何か憧れのような、郷愁のような思いを抱いていた。


旅の当日、会社を出た私は一度帰宅した後上野駅へと向かった。
そして上野駅に着き、ああ、ここからの乗車にして正解だったと心底思った。

上野駅はあちこちがなんだか雑然としていて、そしてとても旅情に満ち溢れていたのだ。年季の入った鉄柱やレンガ壁、異様に低い位置にある梁、そして見慣れない名前の特急が並ぶ電光掲示板。東京駅は忙しなく、理路整然としていて明るく、そして少しばかり冷たい印象だった。だが上野駅は全てが不器用で、時計の針はカッチカッチとゆっくり進み、どこか愛らしかった。

かつては1日に数十本もの夜行列車がここから出発し、そして到着していたという。戦後から高度経済成長期、バブル期、平成の時代まで、途方も無い数の人々が悲喜交交抱きながら上京し、この駅へと降り立ったのだろうかと想像した。
そんな人々が踏みしめた床も、電車を待つ人々が寄りかかったであろうホームの柱も、旅情を掻き立ててくれていた。


駅で幕の内弁当と、いつもは飲まないワインを買った私は改札をくぐり、地下にある新幹線のホームへ辿り着くと、白とピンクの2階建ての新幹線へと乗り込んだ。

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