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日本初演!ケーパー:ファゴット・カルテット協奏曲 ファゴット・カルテット・ザ・ナッツ デビューアルバム!<MYCL-00029 ライナーノート>


2022年2月27日愛知県芸術劇場コンサートホール                      ケーパー:ファゴットと管弦楽のための協奏曲「Fakturen」日本初演

Fakturen ーハーモニーの四元素ー                   ファゴット・カルテット・ザ・ナッツ デビュー!                                  

木幡一誠

 名古屋フィルハーモニー交響楽団と愛知室内オーケストラに在籍する奏者によって結成されたファゴット四重奏団「ザ・ナッツ」。このアルバムの冒頭を飾るケーパーの協奏曲は、愛知室内オーケストラが“コンチェルタンテ・シリーズ第2回”と銘打って開いた演奏会(2022年2月)で、彼らが日本初演を果たした際に収録されたものである。そこに続くプログラムは、生まれた時代も地域も音楽的傾向もバラエティに富み、この編成から得られるサウンドと表現力の可能性を存分に堪能させてくれる。
「ハーモニーの四元素」というアルバムのサブタイトルはメンバーの発案によるものという。それを意匠としてあしらったジャケットも大いに目を惹くが、これはメンバーの友人にあたるファゴット奏者で、貼り絵画家としても活躍する田邊武士氏に依頼してできあがったイラストだ。
《古代ギリシャの時代から唱えられていた、この世は「火・地・風・水」という4元素で構成されているという考え方を踏まえて、その4つのエレメントと古代ギリシャ神話に登場する4人の芸術の女神を掛け合わせ、その神達を宇宙の中心に置くようにしました。前方中心の、座禅を組みコントラファゴットに手を添えている神から時計まわりに『始源(Arche)』→『実践(Melete)』→『魅惑(Thelxinone)』→『歌唱(Aoide))』が位置しており、それぞれの神が4つのエレメントの『地(土)』『火』『水』『空気(風)』に呼応しています》
「ザ・ナッツ」からは以上のコメントが寄せられた。気宇壮大な発想だが、しかしそれが決して空回りなどしていない。音源に接してみれば「なるほど!」と首のひとつもタテに振りたくなるだろう。カルテットの各人がそれぞれの役割を元素よろしく果たし、演奏の場で化学反応を起こしながらお互いの個性と音楽性を融合させることによって、これだけの調和と機能美を備えたアンサンブルが可能なのだ。そんな自負の念まで、1枚のアルバムには刻み込まれている。

「Fakturen -ハーモニーの四元素-」(MYCL-00029)   イラスト:田邊武士

曲目解説 木幡一誠

ケーパー:ファゴット・カルテットと管弦楽のための協奏曲「Fakturen」

カール-ハインツ・ケーパー(1927-2011)
ファゴット・カルテットと管弦楽のための協奏曲“Fakturen”
1:アダージョ--ピウ・アンダンテ--アレグロ—アダージョ
2:レント、テンポ・センプレ・ルバート
3:テンポ・ディ・マルチャ
 ケーパーはドイツのハノーファー音楽大学に学んだ作曲家で、管楽作品に好んで筆を染めた人物。ホルンと室内オーケストラのための「ポップコーン協奏曲」(1972)などが代表作として知られている。当アルバムの作品以外でも、3本のファゴットとオーケストラ、あるいは3本のホルンとオーケストラのための協奏曲をはじめとして(さらには様々な室内楽曲でも)、同じ楽器を複数用いた作品が多いのも目をひく。
 1968年に作曲された《Fakturen》 は、4本のファゴット(ファゴット3+コントラファゴット)と管弦楽のための協奏曲。2管編成のオーケストラ(ハープとチェレスタまで加わる)から引き出す色彩感や響きの遠近感を巧みに生かしながら、独奏陣をバランスよく取り囲む筆致まで含めて聴くべきものが多く、良く練れた楽想にせよ音楽的内容にせよ耳を惹きつける十分。編成の特殊性ゆえ実演の機会には恵まれにくいかもしれないが、当アルバムが認知度を高めるのに貢献することを期待したいものだ。
 そのタイトルは“楽曲の構成法”を意味する“Faktur”の複数形だが、以下に記すような形式面での趣向を象徴する言葉と推察しておきたい。3つの楽章すべてが“e-f#”の音型で始まり、それぞれ異なる形で敷衍されながら主要主題を形成していく手法も見逃せず、ひとつの素材から派生した要素で作品を構成する(そして統一感と多様性まで与える)試みとして見事な成果をあげている。
 第1楽章の序奏はコントラファゴットの独奏で開始され、そこに他のファゴットが加わりながら吹き継がれるテーマが、“アレグロ”の主部に入っても核をなす構成素材として曲の展開を担う。ティンパニのリズム音型なども効果的にあしらったスピーディかつ律動的な流れの中に、テーマから派生した要素を次々と繰り出す筆致は緊密にして対比感も豊かだ。独奏ファゴット・パートの和声的な色合も印象的な推移句から流れこむ“アダージョ”は、序奏部の“ピウ・アンダンテ”に先立つ小節の音楽を鏡像形で(オーケストラ・パートを含めて音符を逆行しながら)たどるものとなっており、つまり完全に対称形をなす序奏とコーダが主部を取り囲むというのが第1楽章のフォルムである。
 第2楽章は第1ファゴットのモノローグに第2ファゴットが唱和する形で始まり、その一連の流れから導かれたテーマがまずピッコロによって歌われる。曲はこのテーマに基づく変奏曲としてとらえられるが、テーマ自体の姿はほぼ原型を保ちながら、周辺の音響現象に多彩な変化を施すことで感情面の色合や空気感を刻々と変化させる過程に主眼が置かれている。終結部に先立つフルートのソロは、導入部の終わりで第1ファゴットが奏でたパッセージに呼応しており、やはり対称性の備わる形で楽章が閉じられる。
 第3楽章の構成的な妙味は、“行進曲風に”と銘打たれた音楽が4分の3拍子で書かれている点に集約できよう。性格的にもリズム書法の上でもコントラストのきいた2つの主題を交替させながら曲は進み、コントラファゴットが先導して始まるカデンツァを経た“プレスト”のコーダでは、弦楽器が第1楽章の主要主題を回帰させ、円環をなすがごとく作品を終結へ誘う。

※MYCL-00029 CDブックレットにて掲載

2022年2月27日愛知室内オーケストラ コンチェルタンテ・シリーズ 第2回
村上寿昭(指揮)愛知室内オーケストラ
左からシャシコフ・ゲオルギ、野村和代、三好彩、田作幸介

収録曲&録音

ファゴット・カルテット・ザ・ナッツ
   (シャシコフ・ゲオルギ 田作幸介 三好彩 野村和代)
村上寿昭(指揮)※ 愛知室内オーケストラ※

ケーパー:ファゴット・カルテットと管弦楽のための協奏曲「Fakturen」※
ポワモルティエ:協奏曲 ト長調 作品15ー3
スティーヴンソン:ディヴェルティメント
ドンデイヌ:気晴らしのために
團伊玖磨:ソナタ
キーティング:ダンスホール組曲
グレテン:バスーン・パーティ
アンダーソン:ファゴット吹きの休日

2022年2月27日 愛知県芸術劇場コンサートホールにてライヴ・レコーディング ※
2022年4月1ー3日 岐阜、クララザール(じゅうろく音楽堂)にて収録
<DXD352.8kHz レコーディング>

2023年12月22日リリース MClassicsレーベル
品番:MYCL-00029 通常CD盤

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Staff

Producer: Mamoru Yamashita
Director, Balance Engineer & Editor: Keiji Ono
Illustration: Takeshi Tanabe
Artwork Design: Shoko Okada
Supported by Kishokai Medical Corporation

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