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やましたくんはしゃべらない

作 山下賢二
絵 中田 いくみ
発行所 株式会社岩崎書店

やましたくんは小学校の六年間、断固として会話をしなかった。
文字通り、彼の意志でしゃべらなかった。
彼にとって学校生活は、修行のようなものだったのか、または刺激的な忍耐ゲームだったのか。
あるいは、ただ他人と会話をしないと決めただけのなんでもない学校生活だったのだろうか。

彼にはなんとしてでも人前ではしゃべらないという強い意志があるので、参観日に作文の発表をしなくてはならないときには、あらかじめテープに録音した作文の朗読をラジカセで流したり、合唱の発表のときには口パクで参加したりなど、あくまでもその場の空気を滞らせまいとする彼なりの努力?が見られる。
もし、私が子どもの頃、クラスにこんな男の子がいたらどんな反応をしただろうと考えてしまう。
積極的にコミュニケーションをしかけて彼の声を出そうとするのか。
それとも、彼はかまってほしいから人と違うことをしているんだと傍観しているのか。
または、子どもながらに彼のトラウマがしゃべれなくさせているのだと勝手に決めつけて憐れむのか。
この絵本を読んでいると彼への関心より、そんな彼に対して自分がとるであろう態度の方が気になってくる。
そして、彼の個性を受容した学校の先生の気持ちも知りたくなってくる。
はたして、私はしゃべらない人にどんなコミュニケーションをとるのだろうか。

自分のことさえ完全に理解できないのに、他人を100%理解することはできない。私はこのことを忘れがちだ。





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