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【事実は小説より奇なり~】

まだ50代の若さで
この世を去ってしまった
とある女性のお見送り。
ご自宅での葬儀の司会を
担当させてもらった私。
喪主を務めたのはご主人。
お子さんはおられなかったこのご夫婦。
でも。
二人には鎹なんかいらないくらい
強い強い愛情で
結ばれていたんだ…。


専業の農家さんをしているご主人は
30年前
農業研修に行った先で
この奥さんに出会ったのだそう。

いつも明るくて
笑顔だった彼女。
惹かれあった二人。

やがて二人は
共に暮らすようになったのだけれど。

なかなか結婚には
踏み切れずにいたご主人。

何故なら…

彼女が
「いつか必ず全盲になってしまう病」
だったから。

専業農家の長男であるご主人。
嫁さんが「働き手」の一人になってくれなければ
いずれ家業がたち行かなくなる。

それは避けられない現実で
好いた惚れただけでは済まされない。

彼女への思いと
家業を継ぐ責務の狭間で悩んだご主人。

悩んで悩んで悩んだ末…

ご主人は自身のお父さんに
この話を投げ掛けてみたのだそう。

「彼女は目が悪いんだ。
 いずれ完全に見えなくなる。

 なあ親父。
 彼女をこの家に迎えてもいいか?」

すると。しばらくの沈黙ののち。
お父さんはこう息子さんに言ったそう。

「おまえがしたいならすればいい。
 おまえが選ぶことだ。

 ただし。
 これは普通の結婚じゃない。

 健常者の嫁さんなら
 もし上手くいかなくなって
 お互いにイヤになりゃあ
 別れりゃいい。
 やり直しなんざ、いくらでもきく。

 でも。
 彼女を嫁にもらうってことは
 この先、何があろうと
 おまえは彼女をみてかんなん。

 目見えなくなってから
 イヤになって別れるなんて
 そりゃおまえ
 人でなしのするこっちゃ。

 おまえの覚悟があるか?だ。

 もし。
 おまえにそこまでの覚悟があるなら
 なんも言わん。

 俺も一緒に
 その病を背負ってやる。」

お父さんの言葉に
背中を押されて
覚悟を決めたご主人。

彼女との結婚に踏み切ったのだそう。

それから数年は
農業の手伝いをしながら
暮らしていた奥さん。

でもやっぱり
やってきてしまったその時。

結婚をして10年を待たず
奥さんの目は
全く見えなくなってしまったの。

もちろんそれは
奥さん自身も
ご主人もお義父さんも
覚悟していたことだった。

けれどー。

運命は
追い討ちをかけるように
まだ彼女に苦難を課したんだ。

最初の脳梗塞に襲われたのは
目が見えなくなってしまってから
間もなくのこと。

麻痺が残った。

そこから数年の間に
7回もの脳梗塞と脳出血を患い
動くことすら難しくなってしまった奥さん。

もう止めてやってくれ❗
何度もそう思ったというご主人。

でも。

トドメを刺すように
腎臓までが悲鳴をあげ
週三回の人工透析が欠かせなくなった。。。

「なんでアイツばっかり。
 ってな、俺は運命とやらを呪ったよ。

 でもな。
 アイツはさ。
 そんなんなっても
 泣き言は言わないんだよ。

 「必ず元気になるからね」って
 笑うんだ。

 だから俺も頑張れたんだと思う。」

ポツリポツリと
メチャクチャ心の強い奥さんのことを
語ってくれたご主人。

でも。
そんな奥さんが
たった一度だけ。。。

遺言めいたことを
口にしたことがあったのだそう。

「あたしね。
 墓には入りたくないの。

 入れないでね。」と。

てっきり
ご主人の家の墓に入りたくないと
言っているんだと
そう思ったご主人。

実家の墓に入りたいんか?と
聞いたのだそう。

すると。
奥さんは大きく首を横にふり
こう言ったのだそう。

「違うわよ。
 墓にはあなたがいないでしょう?

 一人はイヤなの。

 だから。
 あなたが来るまでは
 私を庭にある犬のお墓にでも
 一緒に入れておいて。

 あなたがいつか来たら
 一緒にお墓に引っ越すわ。」

と。

小さな田舎町で生きた
とある夫婦の物語。

30年の結婚生活のうち
20年という長い長い年月を
病に向き合った奥さんと
それを支え続けたご主人。

「もう楽にしてやりたいとも思うけど。

 覚悟もしていたつもりだけれど

 それでもやっぱり。

 生きていて欲しかったです。」

ご主人の最後の言葉は
世界中に散らばる
愛の言葉をかき集めても
足りないくらいの

「愛しているよ」に聞こえたんだ。

こんな夫婦がいるんだ。って
本当に驚いたんだよね。私。

私だったら…と
考えてはみたけれど。

想像の中ですら
確実に現実から逃げ出してしまうであろう
情けない結果しか見えなかったので
速攻ヤメました💧

この葬家さんはね
お世辞にも
キレイなお家ではなくて
ご主人も身なりに気を遣うタイプでは
全くなくて。


地位とか名誉とか

そんなものとは
縁のないお宅だったのだけれど。

でもね。


このご夫婦の話を聞いていて
本当に心から思ったんだよ。

ああ。
人として生まれた
一番の幸せは
「たった一人でいい。
 あなたに逢えて良かった」と
心の底から思ってもらえることだって。

そう思える人に巡り会えることだって。

私は思ったんだ。

もちろん。
お金は無いよりあった方がいいし。
地位や名誉や名声に
幸せを感じる人がいることを
否定する気はない。

ただ。

やっぱり
この絆に宿るしあわせには
勝てない気がするんだ。

そうであって欲しいと
願ってやまないんだ。

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