創作のかけら:「残念ながら、心変わりに必要なのは、そういうことじゃ、ない」
「…ねえ、話の途中なんだけど、ちょっといい?」
「何?」
「せっかく海に来てるのに、なんでさっきから
私たちずっと海に背を向けてしゃべってんのかなって」
一瞬の沈黙があって
2人で同時に吹き出して、げらげら笑って。
「おかしいよね、ほんとだね、あぁ、涙出てきた。ね、喋り過ぎて、喉、渇かない?缶コーヒーでも買ってくるよ、待ってて」
私は回れ右して、海に向かって座り直して、一人で黄昏れるつもりだったのに何だか変なことになっちゃったなと思いつつ、きらきらひかる波をぼんやりと眺めていた。
「お待たせ。ブラックとカフェオレ、どっちがいい?」
「ブラックもらっていいかな」
「そんな気がした。乾杯しよ」
隣に並んで、こん、と缶を鳴らして
2人揃って一気にゴクゴク飲み干してしまい、
顔を見合わせ、ふふっと笑った。
一呼吸おいて
彼が突然、肩を寄せて私をじっと見つめた。
「綺麗な目だね」
「…そう?」
「それは、彼氏の指輪?」
「うん」
「ちょっと見せて」
言われるがままに左手を差し出したら
彼はすかさず指輪をすっと薬指から抜いて
海に投げようとした。
「えっ、ちょっと…!」
驚いて怒り気味に言うと
悪戯っぽく笑って
「投げてないよ」
と握った手を広げ、指輪を見せて私の左手を取り、元通り薬指にはめた。
「ねえ、この出会いも何かの縁だよ。また会おうよ。来年、同じ日にここで」
「…それは無理。私、来ないよ」
「わかんないよ。来るかもよ」
💍
美しい海辺と邂逅、揺さぶり
しかし、心はびくとも動かなかった
翌年
寝ぼけてうっかり出てしまった電話を
切るのに難儀した
甘くないね
行き詰まった関係に終止符を打つタイミングをずっと探っていたから
きっと隙が出来たのだという自覚はあるけれど
この束縛を解く術は
そういうことじゃないのよ
やっぱり君じゃなきゃ
さっぱり駄目みたい
🟦
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