斜線堂有紀『詐欺師は天使の顔をして』を読んだ感想日記

徹夜明けに斜線堂有紀作品を読む習性があることに定評があるんだ、私は。

『詐欺師は天使の顔をして』読みました!

読み終わってヘロヘロの体と頭で廊下のドアを開けたら、GWの腐敗臭がした。
なぜださっきまで死体が一瞬で清掃される世界にいたのに!
私の世界では生ゴミがね〜腐ってるんですね〜。しゃーなし。


異世界移動型特殊設定ミステリ……。
特殊設定ミステリ大好きなんですよね。
世界の定義こそが伏線として立ち上がる無駄のなさ……。
この世界との常識のズレだな?と思ったところが伏線として立ち上がって殴りかかるわりに、倫理のほうが理解できなくなる酩酊感……。
好き!!

あと「子規冴昼」という存在は"真実"を告げる探偵ではなくて、"詐欺師"だったので、私はそう、そういうのが大好き!
"真実"のすべては明かさず形を整えて収めるところへ収めていくという手法が!大好き!
それはそうとしてお前たちの観測者には"真実"を語ってくれるので、世界の観測者やっててよかったと思った。
 
冒頭でグラン・バカンス(フォロワーが勧めてくれたから読んでてよかった!)読んでましたね。
なんか、おー!となる、ああいうやつ。





【以下、謎解きのネタバレが散逸します】










こういうのって何行、改行したらいいんです?

あれか?

同ページ下部に設けた「▼」に飛ばすリンクをつくる古の作法を……?

古代の呪文忘れたからなーんもできんですが。

それはそうとして、呉塚要、「子規冴昼」を自分に吸収してるというか、自分を吸収させてるというか……みたいな自他境界あやふやムーブしててこれがヒグマの執着か、って感じで怖くて最高でしたね。

あとギャンブル部も上智大学だとしたらなんて業が深いんだあの大学。

 














どちらも煙草が核心的な小道具として効く世界でしたね〜!
なんだろう、やはり煙草って動きとして映えるしミステリ的に良いものだなと思いますね。
煙草の火を"素手"で握りつぶす総務部長土屋めちゃくちゃ好き。
そういう細かい描写が響く瞬間が大好きなんですよね。


キャリアを持つ世界ではキャリアは自由自在だけど、犯人の目はそれに追いつけませんでしたよね。
ビルに登らないと鍵も探せないくらいに。
便利な概念に肉体がついていけない感じ、たまんねえな……。

キャリア、すごく便利だけど熱も感じないんじゃ大切な人間と手を繋ぐような感覚は得られないんだろうなあ……。
それは生えてるほうの手だけに許されたことなんだろうな……。

死んでも死なない世界でいっこだけ引っかかったのは、ヘルベチカの死体にホテルの人が驚いて卒倒したこと。
交通事故グロ画像でも周囲の人は冷静だったのに、グチャグチャのヘルベチカ死体1つごときで卒倒させるほどの衝撃が与えられるんだろうか……という。
いや突如ごみ捨て場にグチャグチャ死体が生えたら驚くけど……。
ここ伏線かな?と思ったので、違ったーー!となってしまった。

逆に巧妙だな〜と思ったのは、
・死んだ人間が体内に入って作用するものを摂取するには『供えて』もらう必要がある。
・死んでもアルコールで酔っ払うことができるし、『供えて』もらえたら煙草の味も楽しめる。逆に『供えて』もらっていない煙草は火をつけることはできても味はしない。
・武田兼吾は8年極地開発をしていたことから少なくとも逮捕前には死んでいる(生身なら極地開発に志願せずに普通の刑期でいいですからね)。
・武田兼吾は麻薬の使用と売買の前科がある。

を組み上げると、
「武田健吾は服役後も麻薬を使用していた可能性が高く(本職でもないのに2度目の犯罪にして、ただ売買だけで満足するとは思えない)、武田兼吾に犯罪と知っているのに麻薬を『供えて』いた、つまり共犯関係にある人物がいる」
ということになるやつです。

共犯関係がちゃんと推定できるようにばらまかれてるんだなあ〜!!となり最高。

共犯関係に共犯関係と共犯関係が重なった地獄の三重奏!!

ミミと要はヴァンデラを追いかける自分たちのことをオルフェウスかイザナギに喩えていたけど、ミミの推定通り"あの世"ならばそこでミミがヘルベチカにやったことはヨモツヘグイなんだな……と考えるとエモいですね。
オルフェウス・イザナギ立ち位置が反転してハデス的な存在になる邪悪と愛。


呉塚要も子規冴昼も互いに互いを冥界に追い落とせなかったけど、一生追いかけっこしていてほしいですね。
執念深いヒグマの寿命が尽きるか、高揮発性人間が先行した世界のルールにすり潰されるかの地獄ゲームをしていてほしい。
時間が経てば経つほどに元居た世界の人間たちは「子規冴昼」を忘れていくわけですが、執念深いヒグマならなんとかできるかもしれないし、揮発性高い人間が世界に固定される未来だってあるかもしれない。

それはそうとして、どの世界でも通用する「金」とかいう金属最強すぎないですか?
逆オイルショックにも負けなかったし(ていうか相場上がったらしいし)。
揮発性の高い男を追いかける役割の男が信頼してるものが不動の相場を誇るのエモさの欠片がある。
ふわふわしたものを追いかけるには金属で殴れ。
貴金属こそ最強。


大丈夫か?
大丈夫じゃない。
寝ます。