南天の輝き -CARINA-

2021東京オリンピックの開会式が近づく、夏日の夜中。

部屋のエアコン温度を1度上げ、パソコンに向かう。

私はひとの影響を受けやすい。先日読んだWeb小説から、マイロ達の小説を書きたい衝動が止まらなくなっていた。

暇があればついネットショッピングをしてしまい、思うように貯金ができない日々。

ものを書いて時間を潰せれば、少しはお金がたまるんじゃないか。

そんな下心もあって、気づけばキーボードを叩いていた。


このお話の注意事項

筆者はまだ想像でものを書いた経験がないので、実際にあったことを元にしています。

多少のフェイクを入れているため、辻褄が合わないこともあります。

ご了承ください。


それでは。

滑舌の悪いマスターに代わりまして、ここからの語り部は私、ローレルが務めさせていただきます。



桜も緑に衣替えをはじめた、2017年の卯月の中頃。

長い風呂を満喫した私を、スマホの控えめな通知音が出迎えた。

髪を乾かしながら画面を開く。中古車アプリが「条件に合う車が登録されました」と、見慣れた通知を届けてくれた。

就職前から、幾度となく繰り返された通知。しかし今までにピンとくる車はなかった。

当然だ。社会人1年目の貧弱極まる予算で、MTで2.0L以下の4ドアスポーティセダン、それも程度が良いものを探せという条件。

ディーラーマンに求めたならば、大きく振りかぶって匙を投げたことだろう。

そこは天下の中古車情報アプリ。数か月も根気強く情報を届けてくれた。

アルテッツァ、アコードユーロR、ランサーEVO、ギャラン、インプレッサWRX、ブルーバードSSS......

人気車種はどれも、予算内では良い状態の車が望めなかった。


忘れもしない運命の日。あの日は2台の車が登録された。

カローラGTとカリーナGT。マイナーながらも私の条件にピッタリ合致する車だ。

数年間、中古車情報を漁ってきた私の経験が告げた。

「急げ、すぐに売れてしまう」

6万kmという低走行、18年の年月を感じさせない美しい塗装。ついた値札は70万円。

髪を乾かすのもそこそこに、出品者に電話をかける。夜中だがすぐに出てくれた。

幸い明日は休日、すぐに見に行く約束をとりつけた。

緊張で寝付けない体をベッドに横たえ、まだ見ぬ車に思いをはせる。

明日は早い。


朝4時、スマホがけたたましくアラームを鳴らす。

朝に弱い私が、この日ばかりは飛び起きた。

寝不足の重い頭に、濃いインスタントコーヒーで鞭を入れる。

『ETCカードが挿入されました。』

本州横断、いざ名古屋。軽四のエンジンをかけ、冷たい朝もやの中を突き進んだ。


『目的地に到着しました。ルート案内を終了します。』

目の前に、プレハブ建ての店構え。敷地には多数のナンバーのない車が並ぶ。

ついに着いた。プレハブをノック。ダンディながらも若々しいおじ様が扉を開け、出迎えた。

促され、車を見に行く。大切に車庫保管されていたのだろう、

太平洋側の刺すような日差しを受けて、塗装は負けじと輝きを放っていた。

「前のオーナーは九州の人でした。」ダンディ社長の言葉。融雪剤と縁のない地域から仕入れたため、ボディの状態には自信があるのだろう。

許可を得て、カリーナに乗り込む。

ふわり広がるバニラの残り香は、前オーナーの好みだったのだろうか。

イグニッションをON、警告灯が瞬く。

さらにキーを回す。セルモーターが甲高い音を立て、ボンネットの下の小さな怪物を呼び覚ます。

精緻に組み上げられたエンジンが回り、太平洋側の乾いた空気を吸い込む。

乾いた空気にガソリンが噴霧され、エンジンが混合気を目一杯に圧縮する。

3万ボルトの火花が煌めき、エンジンの中で混合気が暴れるように燃える。

某豆腐屋の漫画で主役機を張ったものと同型のエンジンが、目覚めた。

1.6L NA 4気筒ながらも、ハイオクガソリンを喰らう高い圧縮比、等張エキマニ、可変バルブ付きの上品な排気管。

カリーナの第一声は、痺れるほどのイケボだった。


契約書に判を突き、必要書類を受け取る。

カリーナを迎える準備、しなければならないことが山積みだ。

しかし何よりも安堵と嬉しさがあった。

契約できたこと、憧れのマイカーが手に入ること。

書類に目を落とせば、カリーナの生年月があった。

平成11年1月。私はその頃、幼稚園で積み木を積んでいた。

その時に走り出した車が今もそこにあり、当時の幼稚園児は今、免許を取ってハンドルを握っている。

カリーナを今まで大事に扱ってきた前オーナーに、めぐり合わせたダンディ社長に。

感謝をしてもしきれない。

プレハブ事務所の窓から外を見る。

太平洋側の空は、どこまでも晴れ渡っていた。


https://minkara.carview.co.jp/car/toyota/carina/review/detail.aspx?cid=166838





次回予告

「大型生物の襲撃です!」

「耐えられるか!」

「無理です!城塞の被害甚大、陥落します!」

「総員、衝撃に備え!」

ローレル「カリーナ、助けに来て!」

次回 「傷跡は羽に隠して(仮題)」

この次も、サービス、サービスゥ!

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