傷跡は羽に隠して -つー-
梅雨入りしたと天気予報は言うけれど、一向に雨雲の音沙汰はなく。
窓を開けて風を通し、前日の仕事で疲れた体をソファに横たえる。
一晩寝ても抜けきれない、長い連勤の疲れを癒すべく。
平日に休めるのはシフト勤務の特権だ。
にじり寄るまどろみに抗えず、二度寝の誘惑に瞼を閉じる。
体がふわりと眠りに包まれるや否や、軽快な音楽が飛び込んできた。
8時だヨ!のコントの終わりや、某動画サイトでの人類滅亡シリーズが頭をよぎる。
鳴らしているのは、年季の入った赤いスマホだ。
誰だ、こんな音楽を着信音にしたのは。
私だ。
寝ぼけた頭は思考が迷走するが、手は過たずスマホの受話ボタンをタップ。
『カリーナ、ごめんなさい。寝てましたか?』
「ううん、起きてるよ。ローレルお姉ちゃん。」
『ツバメの子を拾ったから、迎えに来てほしいの。職場まで来れそう?』
「ツバメ!?……うん、分かった。何か用意するものはある?」
『ないけれど、早めに来てくれると嬉しいわ。お願いね。』
6月といえど、日が昇れば暑い。薄手の服を適当に着て、車に乗り込む。
向かうはローレルの働く花屋だ。
エアコンの効いた車から降りると、ジリジリと陽射しが肌に痛い。
見下ろせは草花が元気にぴんと伸びているから、見上げたものだ。
「お姉ちゃん、お待たせ。」
仕事中は亜麻色の長髪をポニテにするローレル。こちらに振り向けば尻尾が踊った。
「カリーナ、来てくれてありがとうね。今渡すから、ちょっと待ってて。」
建物の日陰から、ローレルがスチロール箱を持ってきた。
箱には[つーちゃん]と。もう名前を付けたのだろうか。
「カラスに襲われて巣ごと高いところから落ちてね、生き残ったのはこの子だけなの。
ケガもしてるから家で保護したいんだけど、頼める?」
白い箱の中に、灰色の丸い毛玉。
よく見れば黄色のくちばし、黒く輝く丸い目。
毛も黒いが、白い産毛がぼさぼさと生えているので一見灰色だ。
縮こまり、全身で大きく早く息をするつーちゃん。
看護師としての経験が、猶予はすくないことを直感した。
「すぐ連れて帰るよ。任せて、お姉ちゃん。」
おねがいね~とローレルの声を背に、つーちゃんを助手席に乗せる。
弱った体に冷風は毒だ。エアコンを切れば、じわりと汗が伝う。
箱が落ちないようゆっくりと、車を走らせた。
しかし家に帰ったところでツバメのご飯はない。庭で探す猶予もあるか分からない。
どこかで小さな虫が手に入るところは……近くに何かないだろうか。
道路に見える看板は、ユニク▢、吉乃屋、警察署、薬局、スーパー、釣具屋……
釣具屋だ、釣具屋があった。
つーちゃんを箱ごと抱えて店内に入り、生餌を探す。
店主がそれを見て、ちょうどいい大きさの虫を出してくれた。
店主に礼を言い、「ブドウ虫」と書かれた虫を買って帰る。
家に着き、すぐさま虫をあげようとして……見た目大きなウジ虫を手づかみする勇気はなく、割りばしでつまむ。
つーちゃんの口元にもっていくが、口を開けない。
しょうがないので、指で口をこじ開けて虫を突っ込む。
喉奥に押し込むと、首を前後に動かして飲み込んだ。
もう一匹同じように食べさせると、数歩後ずさりして尻尾を上げる。
うんちをした。血は混じっていない、消化器の傷はないようだ。
うんちをしたとことから数歩前に出ると、首をうしろに曲げて背中の上に。
そのまま目を閉じてすよすよと眠りだした。
とりあえず急場はしのいだようで、ほっと一安心。
つばめの子育てについて調べるべく、スマホを開いた。
「たっだいまー!ローレル姉から聞いたよ、若いツバメを拾ったって??」
玄関の開く音。元気のよい声はジム帰りのミストラルだ。
「お帰り。若いというか幼いツバメだよぅ。いま寝てるからしずかにね。」
つーちゃんをのぞき込み、小さい声で「ぉぉー」と漏らすミストラル。
「かわいいね、つーちゃん。うちで飼うの?」
「親もいないしケガしてるから、飛べるようになるまではね。」
「ケガ?どこどこ?」
「左の肩っぽいところから背中に、切り傷みたいな感じの。見える?」
どれどれ、とのぞき込むミストラル。
気配を感じ取ってか、つーちゃんも目を覚ました。
首を動かし、まっすぐにミストラルを見つめる。
ミストラルの青が、黒くつぶらな瞳に映える。
〽目と目が合う~瞬間~好ぅきだと~気づ いた~
つーちゃんが視線を外し、前を向いて大あくび。
にらめっこはミストラルの勝ちだ。
そしてまた見つめあう一人と一羽。
第二ラウンドは終わらない。
タオルを投げることにした。
「ミストラル、その辺にしようよぉ。
つーちゃんも起きたことだし、ゴハンあげてみる?」
「えっ、あげたいあげたい!どこにあるの?」
わくわくを満面にたたえたミストラルに割りばしを渡し、冷蔵庫からブドウ虫の箱をとりだす。
フタを開けてみせると、器用にも一瞬みせた引きつりを笑顔で隠した。
「ハシと並行になる感じでつまんで、左手でクチバシを両側からつまんで開いて、そうそう。そしてのどに押し込む!」
首を前後に動かし、上手に飲み込むつーちゃん。
そしてミストラルを見つめる。次の催促だろうか。
「やっぱりカワイイね!おいしかったかい?」
でれでれした顔で話しかけているミストラル。
つーちゃんは小さい声でピィと答えた。
ピィピィピィピィピィピィピィピィ
遅い二度寝のお昼寝は、可愛らしい目覚ましに起こされる。
私の目覚ましはこんなにかわいい音じゃない。
音の出所を探せば、つーちゃんの鳴き声だった。
つーちゃん?と声をかけると、チチッと返事をする。
時計を見れば、前回ミストラルが餌をあげてから3時間ほど。
そろそろお腹がすいただろうか。ぽんぽんえんぷてぃ。
冷蔵庫にブドウ虫を取りに行くと、すぐ近くで車の音が聞こえる。
ローレルお姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいま~、みんな元気かしら?」
「お姉ちゃん、お帰り。つーちゃんは元気で、ミストラルはお風呂かな?」
よかったぁ、とのんびりした返事。ヘアゴムをほどけば、ふわりと花の香りが広がった。
ピィピィピィ。
「あはは、つーちゃんもお帰りって。」
ただいまぁ~、とひざを折ってつーちゃんに声かけるローレル。
つーちゃんはチチッと返事をする。賢いかわいい。
「いまゴハンあげるとこだけど、お姉ちゃんやってみる?」
「そうねぇ、はじめはカリーナのお手本を見せてほしいかな。」
「らじゃっ♪」
冷蔵庫から取り出した虫を、割りばしで摘まんで口元へ。
今回は、口をこじ開けなくても自分から食いついた。
「あらあら、上手に食べるのね。元気そうでよかったわ~。」
もう一匹持っていく。これもすぐ食べた。
3匹目は……さすがに食べきれないようで、口を開けない。
お腹膨れたみたいだね、とローレル姉に言って、虫を冷蔵庫に片づけた。
振り返れば、ローレル姉は、つーちゃんの前に手を差し出している。
つーちゃんはローレルの顔をみて、手をみて、そして手の上によちよちと歩いて乗った。
そのまま歩いて、腕を登るつーちゃん。まだ小さい羽をもぞもぞ動かして、器用にバランスをとって歩いてゆく。
「あらあら、あんよが上手。」
やがて腕を登りきり、ローレルの肩に。
お腹をついて、ちょこんと座った。
「あーっ!ローレル姉、いいないいなー!」
長い髪をヘアタオルでまとめた、お風呂上がりのミストラルの声だ。
「私は嬉しいけど、これじゃつーちゃんの顔が見えないわ。
カリーナ、ミストラルに乗せてあげて。」
「こころえた♪」
ローレル姉の肩に座り、じっと前をみつめるつーちゃんに手を差し出す。
つーちゃんはすんなり乗り移った。
それをミストラルのところに連れてゆく。
手のひらの上で、つーちゃんはあっちこっちをきょろきょろ。
ミストラルの肩までもっていくと、よちよちと歩いて乗る。
「ぁあぁあぁ、軽くてふわふわ、あったかい……」
おそらくは風呂の中よりも、とろけた顔をしているミストラル。
虎は回るとバターになるらしいが、マイロは小鳥が乗るとチーズになるのだろうか。
つーちゃんが耳元でチチッと鳴く。
「ふゃぁ」
とろけたチーズも鳴いた。
翌朝。
つーちゃんはスチロール箱のふちにとまっていた。
まだ丸くて白いぼさぼさの産毛が生えている様子はまごうことなきヒナだが、
それでも箱のふちに止まる様子は鳥らしい。
こちらを見るや、チチッと鳴く。
首の後ろをつまむように撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
じっと見ていると、器用に毛づくろいを始めた。
お腹、羽の内側、反対側……と、頭を器用に動かして、クチバシで毛を整える。
幼くてもお洒落さんだ。
白い産毛が、少しずつ抜けて減ってゆく。1日でも成長は見て取れた。
一通り整え終えると、こっちを向いてピィピィ。
朝ごはんにしよう。
「つーちゃん、はい、あ~ん。」
がつがつと箸まで飲み込む勢いで、ご飯に食いつくつーちゃん。
だいぶ元気が戻ってきたようだ。
「よかったね、つーちゃん。」
チチッ。
このかわいいつーちゃんを置いていかねばならぬ、仕事が恨めしい。
そんなことを考えていると、軽快に階段を下りる音。
この運動神経が良い感じの音は、
「おはよー、カリーナ姉ちゃん。今日は仕事?」
ミストラルだ。
「おはよ。残念ながら仕事だよぉ。ミストラルは今日やすみ?」
「うん、休み。へっへー♪」
「むぅぅ……しょうがない、つーちゃんのお世話は任せたよ。」
「あいあいさー」
言葉に出さずとも、るんるんとした感情がみてとれる。ちくせう。
「それじゃ、いってきまーす。」
「いってらっしゃい。」
ケーキ屋に出勤するカリーナ姉さんを見送ると、家は一人と一羽だけになる。
花屋勤めのローレルはさらに出勤が早いからだ。
玄関から振り返れば、つーちゃんがじっとこっちを見ている。
「つーちゃん♪」
と声をかけると、チチッと返事。
さっき朝ごはんを済ませたばかり、今はまだ食べられないだろうに。
じっとこっちを見る。見つめあう。視線は外れない。
そのまま近づく。見つめあう。近づく。見つめあう。近づく。
とうとう手の届くところに来た。手を出すと、歩いて乗る。
そして手のひらにお腹をついて座った。
頭と首の後ろを撫でると、体を縮こませる。
つーちゃんは首の横は足を上げて器用に掻くが、首の後ろはどうにも届かない。
首の後ろを撫でられるのが大好きだ。
リラックスしたつーちゃんを優しく両手で包む。
まばたきがだんだんゆっくりになり、そのまま眠った。
ミストラルの手を布団に、つーちゃんは眠り続ける。
ふと、イタズラ心が浮かんだ。
ゆっくりと掛け布団の手を離してみる。
そーっと離して、完全に離した数秒後。
つーちゃんが目を開けた。
きょろきょろして、目が合う。
すると指をつんと突っついて、また元のポーズに戻った。
まだ包んでいろと言うのだろうか。
お嬢様の仰せのままに。
また両手で包む。今度はどれだけ包んでいれば満足してくれるのだろうか。
明日は腕が筋肉痛になりそうだ。
抱っこは2時間後、空腹アラームがピィピィと鳴るまで続いた。
3日会わざれば刮目して見よという言葉があるが、雛鳥は日に日に違う。
数日たてば産毛はほとんど抜け、黒く艶やかな羽が現れた。
まん丸な体も流線形になり、ツバメこそ速さの象徴なりと目に訴えかける。
それでも尾羽がぱつんとまっすぐ切れているのは、女の子の証。
今や箱の底にいることはほとんどなくなり、箱の縁で佇むのが常だ。
伸びをするように、片方の翼を横に広げた。
続いて反対側も。この小さな体のどこに、そんなに広く長い翼が仕舞われていたのだろう。
そして両翼を高く上に伸ばし……羽ばたいた。
残った産毛が舞い上がる。
でも足はスチロール箱をしっかり掴んで離さない。
渾身の羽ばたきに、スチロール箱も動き出す。
10秒ほど羽ばたいて、スッと翼をしまった。
「つーちゃん、すごいね!」
チチッ。
つーちゃんの成長を喜ぶとともに、寂しさも湧き上がる。
羽ばたきの練習、つまり巣立ちの練習。
かぐや姫が月に帰る日が、近づいてきていた。
「つーちゃんの放鳥だけれど、動物園にお願いしようと思うの。」
夕方。リビングに集まったカリーナとミストラルを前に、私はそう提案した。
「ここは空にカラス、地面にヘビで、若鳥を放すには危ないわ。
それに残念だけれど、私たちじゃつーちゃんに餌の捕り方も教えてあげられない。」
「ローレルお姉ちゃん、ここから近いのって、どこだっけ?」
「MCCパークに動物園があるし、そこがいいんじゃない?」
「ミストラル、よい考えね。
それじゃ次の休み、そこに行きましょう。」
ばさささ。つーちゃんが飛んできて、3人の間に降り立った。
そしてピィピィ。夕ご飯の催促だ。
「ボクが取ってくるよ。」
ミストラルがスッと立ち上がり、冷蔵庫に向かう。
その後姿を見つめるつーちゃん。
「つーちゃん、はい、どうぞ。」
元気よく食いつく。
この光景も、あと何度見られるのか。
チチッ。
お腹が膨れたつーちゃんは、遊びたそうに周りを見渡す。
抱き上げた。
首の後ろを撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
この感触も、光景も、名残惜しい。
小さな段ボール箱にキッチンペーパーを敷けば、お出かけ用の籠ができた。
そこにお弁当のブドウ虫を入れ、割りばしを置き、つーちゃんを入れる。
見慣れぬ箱に落ち着かず、きょろきょろするつーちゃんを連れて。
いざ動物園、3人と1羽で車に乗り込む。
助手席に私がつーちゃんを抱え、運転手はカリーナ、後ろにはミストラル。
「それじゃ行くよ。ミストラルもシートベルト締めた?」
「よーそろー」
車は走り出す。
つーちゃんは不安げに辺りを見回し、飛び立った。
そしてカリーナの肩に降り、じっと前を見る。
景色が流れてゆくのが新鮮なのだろうか。
しばらくして飽きたのか、ダッシュボードに飛び移る。
しかしツルツル滑るダッシュボードの上は不安定で、また飛び立った。
「つーちゃん、おいでおいで。」
そう呼ぶミストラルの声が聞こえていたかのように、ミストラルの肩に乗る。
「あ~可愛いなあ、うちの子になってよ。」
チチッと返事して、お腹をついて座った。
「本当に。来てほしいのはやまやまなんだけどねぇ。」
「あらあら。」
「いたっ、ちょっ、どうしたのさ。」
しばらく経った頃、後ろから聞こえた。
「ミストラル、どうしたの?」
「つーちゃんがほっぺつっついた。」
ピィピィ
「あ~これは」
「お腹空いたのね。つーちゃん、いらっしゃい。」
ブドウ虫を出すと、ばさささ、と飛んでくるつーちゃん。
段ボールの縁に止まって、ピィピィ。
餌やりが終わると、箱のなかにうんちをして、また後ろに飛んでいく。
「えぇ……そこに乗るの。」
後ろを見れば、つーちゃんはミストラルの頭の上に乗っている。
「あら、いいじゃない。そのまま乗せてあげたら。」
「楽しそうなことしてるねぇ。」
ルームミラーで様子をみていたカリーナが、寂しそうにつぶやいた。
楽しい時間は、過ぎるのが早い。
「はい、とうちゃ~く。」
動物園の駐車場に、車が止まる。
「ミストラル、名残惜しいけど、つーちゃんを頂戴。」
箱を後ろに差し出せば、ミストラルはつーちゃんを手に取り箱に入れる。
不安げに縮こまる、つーちゃんを入れた箱を持って。
「みんな、準備はいいかしら。」
「良くないけど~ぅうぅ、行かなきゃダメだよね。」
「行きたくないなぁ。」
「……しょうがないわね。じゃあ、カリーナが持っててくれる?」
「うん……」
三人と1羽は、動物園の階段を避け、回り道してスロープをゆっくりと歩く。
つーちゃんは箱の中で揺られ、3人の顔を見回す。
小さいなりに分かっているのだろうか。
受付。
「こんにちは。野鳥の保護をお願いしに来ました。」
「はい、ありがとうございます。それなら奥の~」
ローレル姉さんが受付のマイロイドと話している間、カリーナ姉さんはつーちゃんの箱を持って佇んでいた。
俯く視線は箱の中のつーちゃんに。
じっと見つめあう1人と1羽。
邪魔をする気にはなれなかった。
やがて、通用口から、ツナギ服に身を包んだ獣医が出てきた。
「カリーナ、つーちゃんを渡してちょうだい。」
「うん。……元気でね、つーちゃん。」
チチッ
「では、預からせていただきます。
数日間大きなケージで飛行と餌取りの訓練をした後、放鳥します。
仲間が他にもいるので、大丈夫ですよ。」
若い獣医は爽やかに笑う。それを見たカリーナの顔も、少し緩んだ。
「お願いします。」
3人は動物園の階段を手ぶらで下りる。
山の向こうに覗く夕日が眩しい。
「あっ、姉ちゃん、上見て、上!」
ミストラルの声に顔を上げれば、尾の長いツバメの成鳥が、風を切って飛んでいくのが見えた。
子育てシーズン真っ只中、親鳥は忙しなく飛び回る。
気づけば山の向こうに消えるまで、立ち止まって目で追っていた。
「つーちゃんも、あんな風になるのかな。」
「ええ、きっと。」
「来年、元気に帰って来るって!」
「そう、だよね。」
チチッと返事が、聞こえた気がした。
あれから数ヶ月。子どもたちが夏休みに沸き立つ時期は、私たちは期間限定仕事に忙しい。
一日中ハカセの手伝いをしたり、シャラさんと一緒にイタズラを企てたり。
帰るころにはへとへとだ。
「今日も疲れたよ~。お夕飯どうする?」
「ラーメンは暑いし、冷やし中華食べたいかな。」
「そう言うと思って、帰りスーパーで冷やし中華買ってきたわ。
みんな疲れてるから、作るのはねぇ。」
「さっすが姉ちゃん。」
「お姉ちゃん、それあんまり酸っぱくないやつだよね?やったー!」
ガサガサとレジ袋から冷やし中華を"4つ"出して、テーブルに並べる。
ミストラルがさっと立ち上がり、台所からみんなの箸を持ってきた。
「みんな、食べるのは少し待っててもらっていいかしら。」
「なんで?おなか減ったよぉ。」
「そういえば、一人分多いよね。誰か来るの?」
「ミストラル、勘が良いわね。
私たちの頑張りをハカセが評価してくれて、妹をもう一人迎えていいって言ってくれたのよ。」
「えっ、妹が来るの?どんな子?」
「カリーナ、もうすぐ来てくれるはずよ。」
ピンポーン。 聞こえていたかのようにインターホンが鳴る。
カリーナとミストラルが、弾かれたように玄関に駆け出した。
「そんなに急がなくても、逃げないわよ。」
てくてくと歩いてローレルも後を追う。
一番先に玄関に着いたミストラルが、ドアを開けた。
黒髪ショートカットと、黒く丸い目。
旅立ったつーちゃんを思わせるマイロイドが、風除室に立っていた。
「今日カラ オ世話ニナリマス、つーちゃんデス。お姉ちゃん達、ヨロシクオ願イシマス。」
ミストラルの顔がぱぁっと明るくなる。今まで末妹だったミストラルにとって、初めての妹だ。
つーちゃんの名前を聞いたカリーナも、驚きに大きな目をさらに見開き、そして笑った。
「ようこそ、マクガイア家へ!」
3姉妹改め、4姉妹は今日も賑やか。
明日も、明後日も、これからも。
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