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【失敗/組織事故】① ヒューマンエラーとそのフレームワークを理解する

こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!

マガジン『能ある鳩はMBA②  ビジネススキルで豆鉄砲』での、ビジネススキルにまつわる情報の紹介です。


前回の記事はこちらです。↓↓↓


今回からは、

「組織がなぜ失敗するのか」

「なぜ事故は起こるのか」

といった観点の記事を続けてまいります。


組織論や人間心理に興味がある方はぜひご覧ください!


なお、全て無料で読めますが、

「良い記事だったなあ」

と思っていただけるようでしたら、記事代をいただけると励みになります!


ヒューマンファクター/ヒューマンエラー

今回は、

・ヒューマンファクター
・ヒューマンエラー

という2つの概念を中心に説明してまいります。


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さて、「ヒューマンファクター」とは、

人間に備わっている生来のさまざまな癖

のことを指します。


ひねりの無いそのまんまの説明ですみません……。


行動経済学風に言えば、「システム1」と置き換えることもできるでしょう。


一方、「ヒューマンエラー」とは、

ヒューマンファクター(≒システム1)が、
作業内容や作業環境に適応できなかった結果、
発生するエラー

と言えます。


このままだとわかりにくいので嚙み砕いて言うと、

「人間はミスをする生きものだ」
「だから、ときにミスをしてしまう」

ぐらいのニュアンスです。


01_05_ノーマル


さて、残念ながらヒューマンエラーによりミスが生まれることがあります。


深夜の長距離バスの運転士を例にとってみましょう。

真夜中の高速道路を走る深夜バス……


夜の三時にハンドルを握っていると、

ドライバーは眠気に襲われることもあるはずです。


どうにか高速道路では無事故だったものの、

パーキングエリアに入ったところでつい油断し、

車体を壁にこすらせてしまったとします。


このとき、バス会社はどのような反応を見せるべきでしょうか。


「うとうとしながら運転するとは、けしからん!」

と個人を罰する態度をとるべきか。


しかしそうなると、別の人間が同じようなミスをしたときも結局、

「本人が悪い!」

という追及に終わる組織文化となってしまい、

本人のみならず社員全体が委縮してしまいます。


ドライバーたちのモチベーションは下がり

最悪の場合は組織から逃げ出してしまうこともあるでしょう。


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このように原因を個人に矮小化してしまう考え方を、

「責任追及型」

といいます。


一方、

「なぜ、運転士は眠たくなってしまったのだろうか」

「途中までは我慢できたのに、なぜパーキングエリアでこすったのか」

と広い視点で原因を探ろうとする考え方を、

「原因究明型」

といいます。


あなたの上司や組織風土は、

「責任追及型」でしょうか、

「原因究明型」でしょうか。


01_02_ノーマル・バスト


以上の事例から、賢明なる読者のみなさまには、

「人はミスを犯す生きものだ」

「だからこそ、ヒューマンエラーは結果であって原因ではない」

という考えの重要性が、おわかりいただけたかと思います。


個人の責任を追及せず、

原因を究明しようとする組織風土ならば、

社員もミスを隠さず、陳謝して報告できるようになるわけです。


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できることなら、ラインハルト様のような上司のもとで働きたいものですね。


フレームワーク① M-SHELLモデル

さて、ここではヒューマンファクターを理解するためのフレームワークをご紹介しましょう。


◆M-SHELLモデル

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wikipedia「ヒューマンファクター」より

(2021年6月21日閲覧)

M-SHELLとは図のように、

「Liveware:当事者」が「SHEL」という4つの要因に取り囲まれており、

その周縁をさらにManagement(組織、管理体制、風土など)がぐるぐる回っている状態です。


当人へ影響を及ぼす4つのSHELがあり、

それら全体にManagementが影響を与えている、

という構造ですね。


M-SHELLは、

「事故の問題を個人に帰することはできない」

と訴えるフレームワークです。


ちなみにこのM-SHELLモデルは、

1994年に東京電力ヒューマンファクター研究室が開発しています


フレームワーク② PSF

2つ目にご紹介するのは、PSF(Performance Shaping Factor)です。


これは、

①個人そのものに備わる「内的要因」 
②個人を取り囲む「外的要因」

の、2つに注目するフレームワークです。


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中西晶『高信頼性組織の条件―不測の事態を防ぐマネジメント』
を参照して作成



ここでも、

個人の情報だけでなく、

個人を取り巻く外的要因にも注目していますね。


スイスチーズモデル

ここまで、

ヒューマンエラーは、原因ではなく結果である
ヒューマンファクターには、さまざまな要素が絡み合っている

という考えを見てきました。


さて、実際に事故が起きたとき、

「個人が注意散漫なのが悪い!」

と、ヒューマンエラーを事故の原因にしないためにも、

組織は、安全に対する「防護」措置を取っていく必要があります。


機械の強度を上げたり、

システムを刷新したり、

といったさまざまな「防護」措置があるわけです。


しかし、どんな防護であっても、「穴」が空くことはあります。


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不幸にも、バックアップとなる数々の「防護」に空いた「穴」が、

一直線につながったとき、

事故が起きてしまう。


この考え方を「スイスチーズモデル」と呼びます。


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wikipedia「スイスチーズモデル」より

(2021年6月21日閲覧)


どうでもいいですが、

「スイスチーズをいくつも並べて一本の穴を通すモデル」

などという”もののたとえ”を、よくもまあ思いついたものだと尊敬します。


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「スイスチーズモデル」とは、要するに、

最後の原因となったのは、ヒューマンエラーを起こした個人だが、
その背後にはさまざまな防護の穴が隠れている

という考え方なわけですね。


防護のパラドックス

最後に、「防護のパラドックス」を見ていきましょう。


ここまで見てきたように、

「安全を目指したさまざまな手立て」のことを「防護」と呼ぶわけですが、

「ある防護が別の危険を読んでしまう」ことを、

「防護のパラドックス」と呼びます。


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たとえば、「手順書の追加」を考えてみましょう。


ある事故が起きたので、再発防止のために手順書を追加したとします。


しかし、安全作業のための引締めが強くなりすぎると、

個人に許される範囲がなくなり、

「こんなルール守れるか!」

と、違反が日常化しかねません。


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すると、

これまで守られていたルールまでもが破られるようになり、

かえって危険な状態になる

というわけです。


「防護のパラドックス」を避けて安全性を担保するには、

2つのコントロール」のバランスが必要になります。

1つは「外部からのコントロール」。

規則、基準、手順」といった個人の外部で決められたルールにより、
許される行為・遂行すべき行為を制限する

というようなコントロールです。


組織の方から各個人へルールを課す、演繹的な考えですね

「フィードバック」ならぬ「フィードフォワード」と呼べるでしょう。


もう1つは「内部からのコントロール」。

訓練や経験を通じて獲得された個人の知識や原則から、
個人の行動が自然と最適化されていく

という考えです。


自由裁量の結果得られた経験から、

個人が「フィードバック」を得る……

いわば帰納的な考えです。


どちらが偉いというよりは、

この「外部」「内部」両方のバランスが安全対策に求められる、

というわけですね。


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まとめ

さて、ここまでの内容を振返りましょう。

【ヒューマンファクター】

人間に備わっている生来のさまざまな癖
【ヒューマンエラー】

ヒューマンファクター(≒システム1)が、
作業内容や作業環境に適応できなかった結果、
発生するエラー
【責任追及型/原因究明型】

「人間はミスをする生きものだ」
「だから、ときにミスをしてしまう」
というヒューマンファクター・ヒューマンエラーへの理解が無いと、
責任追及型の組織となってしまう
【M-SHELLモデル】

ヒューマンファクターを理解するためのフレームワーク①

当人へ影響を及ぼす4つのSHELがあり、
それら全体にManagementが影響を与えている
【PSF】

ヒューマンファクターを理解するためのフレームワーク②


1)個人そのものに備わる「内的要因」 
2)個人を取り囲む「外的要因」
に着目する
【スイスチーズモデル】

1つの事故の裏には、いくつもの「防護」の「穴」が重なっている、という考え
【防護のパラドックス】

防護のルールを追加することで、
防護の仕組みが複雑になり、
結果、これまで守られていたルールも破られることで、
かえって危険な状況に陥ってしまう、というパラドックス


さて、次回は、引き続き失敗や組織事故についての記事です。

「エラー」「ルール違反」と呼ばれるものがどのようなときに起きるのかを見ていきます。

お楽しみに。

to be continued...


参考記事

行動経済学の「システム1」と「システム2」の違いを理解すると、

「ヒューマンファクター」がより理解しやすくなってきます。


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