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パンを焼く その4 - 手ぬきこそが継続のコツ

フライパンでパンを焼くようになってから、しばらくつづけるうちに、だんだんと手をぬくようになっていった。断続的ではあったけれど、そうやって焼きつづけるなかで、いまのスタイルができあがった。
まずひとつめのおおきな変化は、フライパンではなく、オーブントースターをつかうようになったことだ。パンはオーブンでなければ焼けないというおもいこみは、最初は鍋で、つぎにフライパンでパンを焼くようになって、私のなかからきえていた。それでも、オーブントースターでやけるとはおもっていなかった。オーブントースターは、なまえに「オーブン」とあっても、オーブンではない。高温を維持する窯ではなく、電熱で上下からあぶる、どちらかといえばグリル調理器に分類されるものだ。けれど、やってみたらどうにかなった。もちろん、気をつけるポイントはある。

もうひとつのおおきな変化は、生地をこねるのをやめたことだ。パンづくりといえば生地をこねることだ。そのぐらいに、重要な工程だ。だが、それをすっぱりとやめてしまった。
そのかわり、生地をポリ袋にいれて密封し、冷蔵庫でねかせる。こうすることで、生地をこねるのとおなじような効果がうまれる。具体的に見ていこう。

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ボウルに粉をとるのは、以前とかわらない。ただ、1回にまぜる粉の量をぐっとふやしている。具体的には400〜500gぐらいだろう。目分量で適当に入れているが、1kgの小麦粉のふくろの半分くらいつかう。あとでかく理由から半分よりすこしすくないぐらいのほうがいい。そこに塩1さじとドライイーストをほんのすこしいれる。ドライイーストはかなりへらす。そこに水を適当に入れて箸でかきまぜるのも、以前からやっている方法だ。ちがうのはここからだ。箸でかきまぜてだいたいまとまったら、かるく手でまとめるだけ。つよくこねたりはしない(すこしぐらいこねても、もちろんかまわない)。そして、小麦粉のはいっていたポリ袋にいれる。ちなみに、私はポリ袋に1kgはいった中力粉をつかっているので、その袋をそのままつかっている。紙袋いりの粉をかっている場合は、ポリ袋は別途用意することになる。

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これを空気が入らないように密閉して、口をきつくしばる。私は輪ゴムを2本束ねてしばっている。

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1kgの粉を半分ずつ(すこしだけへらしているけれど)、2つの袋にいれて口をしばる。かならず1kgつくるわけではなく、半分ずつのときもある。どっちにしても1kgあたり袋は2つ以上いるので、おなじ袋を2回ずつつかいまわす計算になる。写真をみればわかるように、口をきつくしばるためには、粉の量をおおくしすぎないことが重要だ。はいるだけならもっとはいるのだけれど、無理にいれると、このあと、悲惨なことになる。
この袋を冷蔵庫にいれて、ねかせる。2、3日はねかせておいてつかう。つぎの写真は、3日ねかせたものだ。

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ぱんぱんにふくらんでいるのがわかるだろう。これ以上ふくらむとどうなるか。袋がやぶけてしまい、冷蔵庫のなかにあふれてしまう。だから、このおおきさの袋だったら500g以上の生地をいれてはいけない。
このふくらむ力で、生地をこねるのとおなじことになる。小麦粉の生地をこねるのは、小麦粉の成分のグルテンをからませ、ねばりけをたかめるためなのだそうだ。グルテンは、圧力をかけると分子どうしがからまりあっていくらしい。発酵で膨張する生地をポリ袋にとじこめることで、この圧力がえられる。だから、こねる必要がなくなる。パンとおなじようにグルテンのねばりを利用するうどんでは、こねた生地をしばらくねかせるという。おなじような効果があるのかもしれない。
この方法は、だいぶまえにWeb上の記事でみたものだ。だから、もっとくわしくしりたければ、それをさがしたほうがいいかもしれない。ただ、そこにかいてあったままではない。こまかいところがいろいろちがっているとおもう。
発酵の状況はドライイーストの量とかその他の要因(よくわかっていない)によってかなりちがう。ときには冷蔵庫にいれた翌日ぐらいからつかえることもある。おそくとも3日後ぐらいにはだいじょうぶだ。1週間後ぐらいまでは安定している。そこをすぎるとすこしずつ、ダレてくる。ときには雑菌の繁殖のせいか、味がかわってくる。それでも2週間をすぎてすっぱくなったようなパンも、それなりにおいしい(サワードウといえば、きこえがいいかもしれない)。1食分ではなく400gぐらいの小麦粉を一気に生地にしてしまうのも、こんなふうに長期にわたって保管できるからだ。焼くパンのおおきさにもよるけれど5〜10個ぶんぐらいになるから、毎日のようにたべるだけ焼いてちょうどいい。

さて、焼くのはオーブントースターなのだけれど、ポイントはうすくひきのばすことだ。インドの半発酵パンにナンがあるけれど、あのイメージでのばせばいい。

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トースターは基本的には食パンをトーストするためのものだ。だったら食パンぐらいの厚さのものなら火がとおるはずだとおもいついたのが、オーブントースターをつかいはじめたきっかけだ。実際にはもうちょっとぶあつくしても火がとおらないことはない。ただ、オーブントースターは網のうえに生地をのせることになる。この生地がおもすぎると、どんどんくいこんでいってしまい、下手をすると電熱線の上に生地がおちてしまうことになる。うすくひろげるのには、それをふせぐ意味もある。
加熱時間は、トースターの性能によってもちがうのだろうけれど、だいたい10分程度だろうか。7、8分も焼けば火はとおるようだ。あとは好みだろう。私はすこしながめに焼いたほうがおいしいとおもう。オーブントースターだから、1回に1食分ぐらいしか焼けない。それでかまわない。なぜなら、焼くときの手間はなにほどもないからだ。こねる手間はもともとないし、あらゆる意味で手ぬきのパンが、毎日たべられる。これはつづけられる。

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こういうパンを焼くようになって、食費はぐっとさがった。結局はそういう話かい、ということなのだけれど、ここが肝心なところだ。なぜなら、私の自炊への動機のだいいちは、「安くあげたい」だからだ。もちろん、味はどうでもいいとまではいわない。もしも味がどうでもよかったら、若いころのように発酵させずにホットケーキもどきのものを焼けばいいだろう。また、体のことはどうでもいいというわけでもない。人はパンのみにて生きるにあらずというのは、なにも精神的な話だけではない。副食類もきちんととらなければ栄養のバランスが崩れる。ただそのときに、現代の経済社会では、副食にまわす資金が必要になる。主食のコストをおさえることは、そちらにまわすリソースを確保することでもある。

もっとみみっちい話をするなら、食うための費用は、食品の値段だけできまるものではない。たとえば、上記のようなパンの運用をするためには、冷蔵庫とオーブントースターという設備が必要で、そのための電気代もかかる。さらに現代では、手間ひまかけることも経済的な評価の対象になる。そこまでふくめて、さらにかんがえをふかめていけたらとおもう。

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