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パエリアではない、なにか

母のパントリーから回収したものの中に、パエリアをつくるための調味料があった。私のレパートリーにパエリアはない。母のふだんのレパートリーにもないが、母はもともといろいろと目新しいことに手を出すのが好きなので、スーパーで見かけて買ったのだろう。だが、よる年波とともに、日常に冒険はすくなくなった。スーパーの売り場で「ちょっとやってみよう」とおもっても、いざ台所にたつとそれが行動にうつらない。だから10年ほどまえに買ったこのパエリアの素も、その後、つかわれることなくパントリーにおきざりにされていたのだろう。


いま私は母の家と自宅のあいだを往復してくらしているのだけれど、母の家に1泊か2泊して、自宅にもどって3泊か4泊するパターンがおおい。自宅にもどるとそこからの数日分の飯をまとめてたいてしまうのだけれど、この日、家にもどったのが半端な時刻だったこともあり、また、滞在日数が短かったこともあって、結局、飯はたかなかった。それでも1食はつくらねばならない。こういうときに、西アジア風の雑炊っぽいものをつくることがある。西アジア風というのはかってにおもっているだけで、ビリヤニとかピラフとかいうのともちょっとちがう。というか、そういうものの正体を私はあんまり知らない。ともかくも私がよくつくるのは、まず玄米を炒めてから、いろんな具といっしょに煮こんで、スパイス系の味をつけるものだ。なぜ玄米を炒めるかといえば、調理時間を短縮するためだ。なぜスパイス系の味にするかといえば、そうしたほうがごまかしがきくからだ。だから、この日も、そういった雑炊っぽいものをつくろうとおもった。そして、このパエリアの素をおもいだした。

まず、玄米を炒める。むかしなつかしいポン菓子の香りがするまで、じっくりと炒める。種皮がわれてくると、もうそのままでも食べられるようになる。具材として、パエリアの素には鶏肉、シーフード、パプリカがかいてある。このうち、台所にあったのは鶏肉だけだ。ほかはあるものにしよう。玉ねぎはある。それから、庭からほりだした馬鈴薯がある。ビー玉よりも小さいのばかりザルいっぱいあるから、これもいれよう。

炒めた玄米はいったんとりだし、フライパンで玉ねぎを炒める。

じゅうぶんに炒められたら、米をもどし、鶏肉、人参、馬鈴薯をいれて、水をくわえる。パエリアの素もいれる。そして、煮こむ。

調味料メーカーの開発者がおもいえがいた味ではないのかもしれないが、それはそれでおいしい料理ができあがった。いそがしいなか、スプーンでかきこんだ。

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