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小松菜はむずかしい

庭にしょっちゅうまくわりに、小松菜を収穫することがすくない。芽がでないわけではない。大根ほどではないけれど発芽率のいい野菜だ。播種時期も幅ひろく、真夏と真冬をのぞけばいつでもまける。実際、施設園芸ではほぼ周年の収穫がおこなわれている。スーパーの野菜売り場からきえることがないのは、もちろん産地が一箇所ではないからでもあるのだけれど、「いつでもまける野菜」だからというのがおおきい。
私は若いころにごく短期間だけハウスでの農作業を手伝ったことがある。そのときにまいたのが小松菜だった。なぜ小松菜なのか。ハウスの主によれば、年7回の収穫が可能だからだった。巨大なビニルハウスは、農協との契約のもとにある。リース代金を支払えばリース明けに自分のものになるという話で(後日契約書を見せてもらったがそういう条項はひとつもなく、単なる口約束なのか田舎の慣行なのか誤解なのかよくわからなかったけれど)、2年間、毎月かなりのまとまった金を用意しなければならない。そのためには回転のはやい菜っ葉でかせぐしかない、という理屈らしかった。
ハウス栽培といっても、初夏にむかうこの時期は保温のためではない。どちらかといえば雨よけだ。野菜には水が必要なのになぜ雨よけ、とおもうかもしれないが、生育をそろえ、害虫や病気をさけるには、天水にたよるのではなく、朝晩の定期的な潅水をきっちりとやるほうがいい。起伏のないようにていねいに畝たてして、潅水ホースをひきまわす。うすくたねをまいて潅水すれば4、5日できれいに出芽する。1週間目ぐらいからまびきをくりかえしていき、15センチ間隔ぐらいにそろえていく。時期によって成長のスピードはちがうけれど、潅水をかかさなければ数週間のうちに出荷できるおおきさにそだつから収穫になる。ほんとうのプロなら畝のはしからぜんぶ収穫できるのだけれど、私が手伝ったときは生育がそこまでそろわず、生育のいいものをえらびながらコンテナにあつめていった。菜っ葉のたばねは、これもプロならものすごい手ぎわできちんと規格どおりのたばをつくるのだけれど、素人なのでいちいちスケールで確認しながら、ずいぶんと時間がかかった。そうやって効率のわるいことをやっているから、2回目の播種までの回転もわるく、ついに3度めの播種はなかった。ハウスの主がリタイアしたからだ。「リース料金を払うためにバイトをいれなければいけなくなった」というのがその理由で、本末転倒かもしれないがそれが現実だとおもいしらされた一件だった。

庭先に小松菜をまいてみると、たしかに発芽までは順調にいく。まびきをして、まびき菜は味噌汁にいれる。そのあたりまではいいのだけれど、そこからうまくそだたない。日あたりの問題か水やりがたりないのか肥料をやらないのがいけないのか気温がひくいのかその複合なのかすべてなのかわからないが、なかなかおおきくならない。そのうちに、雑草がはびこってくる。虫がつく。ようやくそだってくるころには葉がかたくなる。あるいはみすぼらしく、食欲をそそらない。
まったく食べないということはない。味噌汁や雑炊の具にちょっととってきたりはする。けれど、おひたしや炒めものにするほどの量はめったに収穫できない。それでもこりずに、また小松菜のたねをまく。そういえば母もほとんど小松菜を菜っ葉としては食べないのに、小松菜のたねをまく、だがその話は、べつの機会にあらためてかくことにしよう。

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写真は、珍しく収穫できた小松菜と鯵フライ。

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