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エンダイブはひたすら苦い

エンダイブを初めてたべたのは中学生のころだったとおもう。あのころ、私の母親は、家庭菜園をはじめて3年めか4年めぐらいだった。畑がいちばんおもしろくかんじるころだ。そのころですでに100種類ちかい作物をそだてていたのではなかっただろうか。タキイ種苗のカタログをみては、いろいろなたねを仕いれていた。そのなかに、サラダ用の野菜であるエンダイブもあったのだろう。
はじめてたべたときには、「これはなにかのまちがいだ」とおもった。とても人間のたべるものではないとおもったのだ。おそらく、なにか手順をまちがえて、たべてはならないものが食卓にでてきたのだろう。だが、それがこの野菜の正体だった。とにかく苦い。ひたすらに、にがい。
おおきなくくりでいったら、レタスと同様にキク科の植物だ。レタスだって、そこそこに苦い。エンダイブの苦さも同じようなものだといえば、いえなくもない。ただ、強烈さが桁ちがいにちがう。苦いといえば早春の蕗の薹も苦いのだが、あれもキク科の植物だ。そして、エンダイブは蕗の薹よりもさらに苦い。初見では「これはたべられる植物ではないな」とおもうのも無理はないことだ。
ただ、唐辛子の辛味やゴーヤの苦味と同様、なれてくると苦味のむこうにかすかな味わいがうかんでくるようになる。長い年月かかって、どうにか私もエンダイブをたべられるようになった。

エンダイブは、実際にはチコリとおなじ植物である。数年前、友人にチコリをもらって、それを知った。チコリの苦味はたいしたことはない。軟白してあって、口あたりもいい。そのときにもらったチコリもたいへんおいしくいただいた。エンダイブは、苦いだけでなく、口あたりが暴力的だ。苦いからといってあまりかまずにのみこもうとすると、のどにひっかかって、えづいてしまうほどだ。そこまで歓迎したい野菜ではないけれど、それでもいまでもよくたべる。母親の畑にいくらでもはえるからだ。
おそらく母も、数十年に畑にたねをおろして以来、エンダイブをまいたことはないのだとおもう。毎年、畑のあちこちから雑草のようにはえてくる。そのままだったり株を移植したりしては、食用にする。初夏にはうす紫色のちいさな花をさかせる。そして蒲公英状のたねをおとす。そうやって何十年もつながってきている。
レタスだって、おなじようにこぼれだねからはえることはある。サラダ菜もそうだ。けれど、何代もほうっておいてつづくほどの生命力はない。エンダイブはやたらとつよい。レタスだったらまちがいなくくさってしまうような雨のなかでも平気でいる。

今年は、母の畑から何株かもらってきて自宅のプランタにうえてみた。おもった以上に元気にそだっている。おもしろいのは、母の畑のエンダイブにはかならずナメクジがついているのに、こっちのプランタではナメクジがついていないことだ。理由はわからない。畑の性格は、親子の性格ほどにもちがう。さて、このエンダイブ、私の畑にも根づくだろうか。

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