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ボクと大学受験と祝電と

#春から東大 というハッシュタグをTwitterでみて、国公立大学の合格発表があったんだなということに気づきました。もうそういう時期なんですね。

この #春から東大 というハッシュタグを見て自分の大学受験のことが思い出されてしまいました。

ボクが高校3年の時の成績はひどく模試の合否判定は軒並み合格なんて望むこともできないくらいでした。
「いっそ大学受験をしないで浪人をした方が入学試験料を払わないで済むから親孝行になるのではなかろうか」
と内心思っていました。

そんな状況のまま大学受験を迎えます。
私立を幾つか受け、国公立は東大を受験しました。
本当に奇跡でも起きなければ合格できない状況だったので、噂に聞いていた受験をしなかったのに手違いで合格したというような間違いが自分に起きて入学出来ればなんて起こりもしないことを願ったりもしていました。

私立の合格発表が終わり、後は国公立の発表を残すのみとなった時のことです。
同じ高校の3年で結構な人数が集まって食事をした時のことです。何人かボクと同じように私立を全部落ちてしまった友達がいて、一緒に
「来年1年頑張ろうね!」
といって慰め合うくらいにもう国公立で合格というのは難しい状況でした。

そして、東大合格発表の日が来ました。
ボクは友人と待ち合わせをして東大に向かいます。
東大の構内に入って合格発表が張り出されている場所に歩きます。
多くの人が掲示板の前に立ち、あちこちで喜びの声が上がっているのが聞こえます。
このような時になると、自分の一次試験の成績から言えば受かる事の方が難しいのですが、そんなことはもうこの場では頭にありません。ただ奇跡でも起きて合格していてほしいということが頭の中を占めています。
掲示板がだんだん近づいてきます。胸の鼓動も激しくなります。
当時の合格発表は受験番号と合格者の氏名がカタカナで書かれて張り出されていました。また、確か受験番号がアイウエオ順になっていたので、番号を探しながら名前も見ていきます。

そして、自分の番号が近づいてきたときに

ワタナベヤスヒコ

という名前と自分の受験番号の一つ前の番号が書かれ、次に書かれているのは自分から随分と離れている番号でした。

ワタナベヤスヒコ
ワタナベヤスヒロ

を比べると『コ』と『ロ』の左の縦棒がないだけなので見間違いかもしれないと思い、何度も見ましたが、何度見ても自分の名前ではありません。番号の末尾も5と6だったので、そちらも合わせて見間違いではないのかと思いましたが、やはり自分のものではありません。

「あぁ落ちた…」

分かってはいましたが、現実を突きつけられるとこんなに堪えるのかと思うくらいのものでした。本当にその場で周りの音がないような状況だったと思います。

一緒に行った二人の友達は合格。
ここで一人で帰ればよかったのですが、何となくタイミングを失ってしまって友人たちが入学に関する書類を受け取るのを付き合い、一緒に帰ることに。
その間で同じ学校で合格した友達たちが合流し10人くらいの集団に。その中で落ちたのボク一人だけ。もう居るだけで針の筵なんですが、抜け出すこともできず。
ようやく乗り換える駅で別れて一人になることが出来ました。

家に帰って母親に落ちたことと帰りのことを話すと
「あんたはどこまでお人好しなんだか…」
と呆れられてしまいました。

もうすべて受けた大学は落ちてしまいました。
分かってはいましたが現実になるとやはりショックです。
1年浪人して本当に大学に合格できるのか、どうなのか不安が心の中を巡っていました。

夜の9時ごろです家の前にバイクが止まる音がしました。
そして家のチャイムが鳴ります。
「祝電でーす!」
という声が聞こえました。

こんな日に我が家に祝電なんて何があったんだろうと思ってボクも玄関に向かいます。母親がその祝電を受け取り読みました。
そしてニヤリと笑って
「読んでごらん」
といって祝電をボクに渡します。

祝電には

ワタナベヤスヒロ様
東大合格おめでとう。春に君の入部を心より待ってます。
東京大学○○部

と書かれてます。
そうです、ボクに来た合格祝いの祝電でした。

後日友達に確認したところ、ウチの高校で合格した人のところにはこの祝電が来ていたようです。2年上の先輩がこの部に在籍していたので多分その関係で来たのだと思いますが、不合格した日に、そして全ての大学に不合格が確定した日に何もこんな祝電が来なくてもいいじゃないかと…。
そして、自分でもしなかった名前の読み間違いで祝電送ってくるなよ…と。

どこかにこの怒りをぶつけたかったけど、ぶつけられない。
本当にこんなにやりきれない気持ちだったのはこの時が一番だったような気がします。
送った人はこんなことが起きているとは全く知らないんだろうけど、こんな事が他の人に起きていないことを祈ってます。
だって、あまりにも残酷だから。

ちなみに次の年も東大は受けましたがこちらも見事に落ちました。
が、祝電は来ませんでした。
余談ですが、他の大学に合格したのでボクの浪人生活は1年で終わりました。

このハッシュタグで思い出した、そんな30年ほど前のボクの想い出でした。


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