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花と朗読 制作記(7) 閉じこもりの日々

2日間、源太さんの人生と向き合いながら手紙や日記や詩と向き合う。滞在していた場所は薪ストーブだったので朝起きると薪に火をつけるところから始まる。お風呂も薪だった。日に日に要領が良くなり、火付けも上手くなり、火のありがたさを感じる。食事は毎日、冷蔵庫にある地元の野菜を料理する。近所に道の駅もあって、無農薬野菜も果物も、豆腐も新鮮で美味しい。周りには何もないけれど、静かで創作するにはちょうど良い環境だった。
当日、どこに何があるかわからなくなりそうだったので、源太さんの書いたものから花会に合いそうなものをピックアップしてパソコンに打ち込む。杉工場の近くのコンビニでコピーして台本を作る。なんとか2日でまとめ上げた。

残りの2日は河北家の花会のことを考える。杉さんから花会と花のアイディアが届く。杉さんは毎日、会場のセッティングのほかに、近所を散策しながら花を探し回っているようだった。私の方は読むものを一から考えなくてはならない。
しかし本番間近なので、著作権が発生するものはもう許可が間に合わない。河北家の方は古典的な花いけをしたいということだったので、こちらも少し落ち着いたものを読む方が良いかもしれないと思う。会のはじまりに宝満山に共に登頂した松(=玉依姫)を床の間にお茶の枝と一緒に活けることになっていたので、ここでは、玉依姫の神話を読みたいと思っていた。森先生に何か良い題材はないかと相談してみると、この山には霊験譚が少ないとのことだった。古いものは、漢文で二行の文章が残されているだけだった。さて、これをどうするのか・・・。
床の間に玉依姫にご鎮座して頂いた後は、楽しんでいただけるように花会を繰り広げられればいいので、花のイメージに合わせて青空文庫から探していった。高村光太郎の「智恵子抄」。学生の時に教科書で読んだ記憶があるのだけれど、改めて読むとなかなか波乱に満ちた詩集であった。やはり恋愛は、どうしようもない切なさと人間臭ささが露になる。結局、高村光太郎と中原中也などの詩をいくつかピックアップした。後は当日、花とお客様の様子を見ながら決めよう。メインのお花は紅葉の立華となった。そこでは能の「紅葉狩」がイメージだという。青空文庫から色々を探してみたものの、しっくりくるものがなかったのでYouTubeで観世流の「紅葉狩」の謡を聞きながら文字に起こしてみた。これを朗読してみようか。
フィナーレはリクエストしていた枯れたお茶の木を部屋の真ん中に置き、お客様と共に大量のバラの花びらを撒きながらお茶の木の<鎮魂>と<復活>を祈ることになった。杉さんより、2年前に引っこ抜いてしまったお茶の木が見つかったと連絡がある。白骨化していて神様の様になっているという。倉庫に置いてきたので見て欲しいとのことだった。倉庫にいってみると枯れたお茶の木は一番奥に安置されていた。本当に白骨化していて神々しかった。

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杉さんはこのフィナーレの出し物を「ガンジス」と名付けていたので、インドのマントラを唱えることにした。木の<復活>を願うには一体どんなマントラが良いのだろう?ネパール人のヨガの先生と私をヨガに出会わせたインド人のヨギーのもとで長いこと勉強をしていた知り合いにメールをしてみた。ネパール人の先生からは「Maha Mrityunjay Mantra」を、もう一人からはグリーンターラのマントラを薦められた。どちらも良かったので、短いグリーンターラのマントラをお客様に唱えて頂き、そこに私がシバ神のマントラである「Maha Mrityunjay Mantra」を同時に唱えることにした。死と再生のマントラである。シバ神は創造の神だから、なかなか厳しくもある。破壊の後に創造は生まれるのだ。上手くいったら、とても良い響き合いになると思った。

本番前日になって、ようやく杉工場用と河北家用の二つの台本が出来上がった。なんとか全体像が見えてきた。後はその場の躍動する空気に柔軟に乗りながら即興でセッションしていくしかない。


制作メモ

河北さんのお茶の振る舞い
柿をお出しする
お客様のお茶は裏立てして出す

*床の間にお迎えする 御霊の松

お茶の木なども一緒に活ける。

神様とその他のものが共に世界にある、という意味

*香りがする白い花 泰山木の花
「一座建立」 全員によってこの場を立ち上げましょうという意味
みんなに香ってもらってから活ける
薄くはった水に花の香りをうつしていく
裾野まで広くその純粋な香りが広がるようにという願いをこめて

純粋、女性、甘い香り

<ここで休憩>

*蝮草(まむし草)

武家の時代に変わる時、藤原氏などが経を入れて土に埋めたという壺(=花器)を使う

*吊り竹 逆さ薔薇

*松葉

*紅葉一色の立華
幽玄の世界 能の「紅葉狩」のイメージ

*茶の晒レ木(枯木)ガンジスの花
鎮魂と蘇りの儀式

どこかに、火の花と茶の花を入れる

<終了>


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