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不登校とゲーセン

 中1の冬。友達の一人が僕の反転アンチになって、クラスメイトに僕を無視するよう仕向けた。それが悲しくて3日くらい自室のドアが開かないよう細工をして引きこもって泣いてた。それ以前に、部活で先輩達から週6でボロクソにいじめられていたし、世界というものそれ自体への不信感が確信に変わって、自室の外が危険な場所としか思えなくなってしまった。
流石に3日も引きこもっていると衰弱してきて、物を口にする気分でなくともお腹が空いてくる。父親がドアを破って入ってきて、抹茶とカロリーメイトを持ってきたので食べた。温かい抹茶を口にすると、自分の中の何かが緩んで号泣した。


 その後、3日も風呂に入っていないので父に温泉に連れて行かれた。そこで、知らない人とすれ違う度に身体がビクッと痙攣を起こしてすごく怖かった。心身が共に他人を拒絶していると感じた。
 その後に父が気を利かせてゲーセンに連れて行ってくれた。騒音と筐体の光が脳味噌の恐怖を知覚する部分を麻痺させるのか、そこでは他人が気にならなかった。二人でメダルゲームをして帰り、帰りの車内で「気を遣われてるなあ」と感じて、どこか惨めな気持ちになった。


 翌朝、目が覚めると全身が金縛りになっていて指一本動かせない。2分くらいかけて全力で抵抗して、ようやく身体が言うことを聞くようになる。これが毎朝続くようになった。初めのうちは霊障か何かかと思ってすごく怖かったけど、毎日のように起こると次第に慣れてきて、幽霊が出てくる気配もないので「ストレス反応なんだな」と理解した。けれども、全身の神経が僕の意思を無視する時間が毎朝あるというのはかなりしんどかった。


 ある日、担任教師が家に来た。僕のいない学校ではいじめの犯人探しが行われてどうこうなってるらしい。「◯◯が君を無視するようみんなに仕向けたって話が出てるんだけど本当?」と尋ねられた。僕は被害者なのだから正直にそう答えればいいはずなのに、世界そのものを信じられなかったのでひたすら口を噤んでいた。僕が何を言ったところで状況は悪化するだけだろうとしか思えなかった。


 学校に通わず、ゲーセンに通うようになった。店内の騒音と筐体のやかましい光、パチスロの派手な演出、全てが嫌なことから意識を逸らされてくれた。平日の昼間にガキが一人でパチスロ打ってたら店員が注意しに来そうなものだけど、何も言わずそこに居させてくれたのが嬉しかった。店員は何もしやしないけど、無視したりボールをぶつけられたりすることはない場所が自室の他にもあるということが、少しだけ世界への不信感を和らげてくれたように思う。


 そんなゲーセンという居場所があったからこそ、「半年経ったし、流石にそろそろ学校に行こう」と父に言われたタイミングで学校に復帰できたのだと思う。担任や厄介生徒担当カウンセラーみたいな人たちから何を言われたところで「危険な場所に僕を行かせようとする敵」としか思えなかったけれど、ゲーセンという居場所が1つできたことが逃げる場所があるという安心感を育んでくれた。だから学校に復帰できた。
今でもそのゲーセンには度々足を運んで、隅っこにあるベンチでぼーっとすることがある。パチスロやメダルゲームへの興味が失せた今となっては、用のないうるさいだけの場所なはずなのに、どこか落ち着く。

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