午後


午後。ステンレスマグに入れたパインジュースを飲みながら、ノートパソコンに向かって文章を書いた。少し前から私の脳の端の方に居着いているくだらない小説の案を文字に起こしていった。下手なタイピングが脳の速度に追いつかず、中途半端なところでノートパソコンを閉じた。この作業の目的は小説を書くことじゃない。不慣れなタイピングを習得することだ。学生の時分から慣れ親しんでいるスマートフォンならば目を閉じてでも文字を打てるが、パソコンのタイピングとなるとそうはいかない。だがパソコンの基本的な操作くらい覚えておくべきだろう。この先どんな職に就くかもわからない。そう思い立ち時たまノートパソコンを開くのだが、結局一時間も経たないうちにそれはテーブルの上でただの銀色の板になってしまう。こうやって見ると、まるでまな板みたいね。なんて考えて、慣れ親しんだスマートフォンに持ち替えて文章を書く。文章を書くことは好きだ。読むのは、そこそこ好きだ。最近は一日一頁でもいいから本を読むというのを習慣化しようと心がけているが、読むと書きたくなるというのは私の厄介な性質で、やはり読んでいる時間より書いたり、書くために脳をぐるぐる動かしている時間の方が余程長い。これで一つでも書き上げた作品があるのならまだしも、私の書く物語は大抵、中編程度の長さになったところでぷっつり先が無くなってしまう。飽き性も大概にしないと、いつまで経っても何も書き終わらぬうちに時間ばかり食ってしまう。とはいえ私は文筆家ではないのだし、趣味とも言えないこの遊びに終わりなど設ける必要もないのだが。
午後、陽射しは窓を越えて私の目を突き刺す。氷が溶けないことが利点のはずのステンレスマグの中身は、少し薄くなっている。(令和二年九月四日)