「攻略!ABCニュース英語」解説

私が翻訳・ナレーションで約16年間携わってきたNHK BS1「攻略!ABCニュース英語(旧ABCニュースシャワー)」が2021年3月27日をもって終了します。以前に全文訳を公開してほしいというご要望を受けたことがあるので、感謝の気持ちを込めまして、私が最近担当した回の解説をここで行いたいと思います。

放送された番組は、以下のリンクから5月末まで視聴可能です。
http://www6.nhk.or.jp/kokusaihoudou/abcns/index.html


キーワード「sign into law(法案に署名する)」


3月13日(土)放送の「攻略!ABCニュース英語」では、アメリカで200兆円規模の経済対策法案が成立したニュースを取り上げました。キーワードは「sign into law(法案に署名する)」。正確に訳すと、法案に署名して法律として成立させることです。

全文訳&解説


(David Muir)
We watched President Biden today sign his historic relief bill into law,
  
私たちは今日、バイデン大統領が歴史的な経済対策法案に署名し法律として成立させた瞬間を目撃した。

(ABCではバイデン大統領が署名する様子を中継したようでした。そのためwatchedという言い回しになっているとも考えられます。あるいはhistoricと掛けて、“歴史的瞬間を目撃した”という意味でwatchedを使ったのかもしれません)

(David Muir)
one of the largest relief efforts since the Great Depression,

この経済対策は大恐慌後では最大級だ。

(David Muir)
signing it into law in fact this afternoon saying it will help rebuild “the backbone of the country.”

署名は今日の午後に行われ、大統領は“米国の土台”を再建する法律だと述べた。

(backboneはOxford Dictionaryによると"the chief support of a system or organization(システムや組織を支えるもの)”とあり、根幹などとも訳されます。ここでは国を支えている大切な部分を指しています)
 
(Reporter)
Tonight, President Biden signing one of the largest economic rescue packages in our nation's history,

バイデン大統領が米史上最大級の経済対策法案に署名した。

(Tonightと言っていますが、実際に署名したのは午後1時半ごろのようです。ここでは署名した時間を示しているというより、大統領が署名して迎えた今夜、のような意味だと考えられます)
 
(Reporter)
rushing much-needed relief to millions of Americans with a stroke of a pen.

多くの米国人が必要としている支援を急いだ形だ。

(早急に支援を届けるために署名は予定より1日早く行われたことを、rushingで表現したと考えられます。with a stroke of a penはサイン1つでと訳されることもあり、この法案を共和党から1票も賛成票を得られずに民主党が数の力で可決し民主党大統領が署名して成立させたことを強調して表現した可能性があります。ほかにもCambridge Dictionaryではat a stroke of a penの意味として”If something is done at the stroke of a pen, it is done quickly and easily by someone(素早く簡単に何かを行うこと)”とも説明されているので、署名を急いだ様子を表現した可能性もあります。または、単に署名したことを表現しているに過ぎないかもしれません。解釈が難しいところです) 

(Joe Biden)
This historic legislation is about rebuilding the backbone of this country.

この歴史的な法律の目的は、米国の土台を立て直すことです。

(ここでのaboutは最も大切な部分や目的を指すニュアンスがあります。A is about Bというと、BはAの一番重要なところ、あるいはAの目的はBだとなります)

(Reporter)
The $1.9 trillion law will give most Americans $1,400 checks, extend unemployment benefits through early September at $300 a week, provide funding for vaccinations and testing, help for small businesses and billions of dollars in housing assistance.

この予算1兆9,000億ドルの経済対策により、大半の人に1人当たり1,400ドルが支給され、週300ドルの失業手当を9月上旬まで延長するほか、ワクチンや検査への投資や小規模事業者の支援、そして住宅支援が実施される。

(週300ドルは通常の失業手当に上乗せして支給されている額です)


ウラ話


元のニュースの中では、バイデン大統領の発言で「give a fighting chance」という表現が出てきました(発言の抜粋:this historic legislation is about giving people in this nation a fighting chance.)。このfighting chanceは英英辞典で以下のように説明されています。

- If you have a fighting chance of doing or achieving something, it is possible that you will do or achieve it, but only if you make a great effort or are very lucky. (Collins)
- a chance that may be realized by a struggle (Merriam-Webster)
- a small chance of being successful if a great effort is made (Oxford Dictionary)
- a small but real possibility that something can be done, a small but real possibility of success (Cambridge Dictionary)

これらの説明を読む限り、Cambridgeだけは少し前向きで「小さいながら成功する現実味のある可能性」のような説明ですが、多くの辞書によると、かなり努力すれば成功する可能性、一縷の望みといった意味に思えます。

しかし、バイデン大統領が「この法案は国を支える人々に一縷の望みを与えるものだ」と、なんだかいいのか悪いのか分からない表現をするとは思えないので、“勝機”や“挽回する機会”といった意味で使ったと考えられます。

アメリカのメディアでもfighting chanceをダブルクオーテーションでくくって報じている記事がみられたため、本来は少しマイナスな印象を受ける表現を完全なプラスの意味としてイレギュラーな形で使ったのかもしれません。

面白い表現だったのでキーワードの候補には上がりましたが、本来の意味とは少し違う使い方をしている可能性が高かったため、候補から外れました。

バイデン大統領のスピーチ全文
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/03/11/remarks-by-president-biden-at-signing-of-the-american-rescue-plan/

元のニュース映像
https://abcnews.go.com/WNT/video/biden-signs-19-trillion-covid-relief-bill-76397985
(自動トランスクリプトは信頼性が高いことも多いのですが、この回に限っては間違いがパラパラみられるため注意が必要です)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。また、本当に長い間ご視聴いただき、ありがとうございました。動画は公式サイトにて5月末まで公開されている予定ですので、それまでぜひ使い倒してください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?