Chapter 3 日本のファッションと繊維の循環の先端事例~地域編〜

この記事は日欧産業協力センターに提出した英語版レポートを筆者の独断で日本語訳したものをご紹介しています。メインはこちら

3.1 日本のサーキュラーファッションの可能性

近年、既存のビジネスシステムが環境や社会に与える悪影響への認識が高まり、ブランドや小売業者がサプライチェーン内で個別に、または協業して問題に取り組み始めています。しかし、多くの場合は、生産技術の効率化や素材の環境負荷の低減に重点が置かれており、衣服の利用における耐久性や循環の回数やリサイクル割合などのシステムの根本的な問題に直接取り組む企業はまだ少ないと言えます。


サーキュラーファッションにおける戦略は4つです。1つは、循環ループを閉める(1st Closed the Loop)、2つ目は循環ループを減速させる(2nd Slowing down the Loops)、3つ目は使う資源を縮小させる(3rd Less Resources Use)、4つ目は循環によって再生させる(4th Regenerative Life Model)ことです。この戦略を実行するにあたり、調達、製品設計、製造、販売、アフターサービス、2次流通、回収・再資源化などサプライチェーンそれぞれの立場で新しいスキルを身につける必要があります。そのためには多大な投資と時間がかかると共に、移行コストを考慮する必要があります。新しい人材の採用や研修、新規サービス立ち上げに投資することは短期的にはコストでしかなく、そこに体力と長期的ビジョンをもって対処することが必要です。循環型ビジネスモデルの導入は、既存のリニア型社会で確立されたビジネス構造持つ大企業よりも、創業間もない企業や社内新規事業など、小さく失敗し続けられイノベーションを生み出す機会のある環境の方が、容易であるといえます。

加えて、各企業が個別にシステムチェンジやビジネスモデルを変換するのは困難です。上記4つの戦略を包括的に実行することは、単独企業ではできません。この変革にはエコシステムを構築することが必要であり同業者、サプライヤー、顧客だけでなく、自治体、研究機関などとも継続的に横断的な協力関係を築くことが成功の鍵です。これは、循環型ビジネスモデルをスケールアップする上で最も重要な前提条件です。 

ここで日本なりのサーキュラーファッションの可能性として提案するのが、地方の繊維産業のサーキュラーリティを中心としたエコシステムの形成です。下記3つの観点で可能性のある地域、企業をご紹介します。

 1.地方の新しい経済圏としてのサーキュラーデザイン

 2.動植物の自然の営みから循環を作り出すサーキュラーデザイン

 3.オープンな繋がりから自律と新しい経済圏構築を促すサーキュラーデザイン

 

一つ目にはサーキュラーリティのエコシステムとして成立させようと町全体が動き始めている例、二つ目は昔ながらの繊維技術や歴史を紐解き、戦略四つを包括して本質的なサーキュラーリティを作り出している企業の例です。三つ目はそういった地域や企業を生み出すための仕組みの例を挙げました。

PICTURE 31: The Circular Fashion Strategy

3.2 新しい地域経済圏の形成 サーキュラーエコシステムのデザイン

サーキュラーリティの原則を考える際に、物質循環のサービスやプロダクトを作り出すよりもまず廃棄を出さないそして、地球の再生を考えるための全体のシステムデザインが必要です。EUのサーキュラーエコノミーで成功している企業に共通する点は、システムデザインの中で生産・流通のための新しいネットワークを再構築していることです。

例えば、有名なオランダの企業マッドジーンズはジーンズの月額制リースモデルを提供していますが、生産・修理・再流通の拠点を近隣国であるスペインとチュニジアに構えています。テキスタイルのサーキュラーリティを考える際に、重要な戦略の一つが“Slowing down the loop“という、製品の修理・メンテナンスを行うことでループの中の流れを延長させるものがあり、それを手の届く地域圏内で行えるよう設計をしています。それにより、返却・修理はEU圏内であれば送料無料とするなど、地域に根付かせるシステムであるとともに、ユーザーフレンドリーであり地域活性も兼ねるインターフェースを作り出しています。

また、フィンランドの世界最大級パルプメーカーのメッツァファイバー社(Metsä Fibre)は、木材から出る屑や樹皮からさまざまなバイオマテリアルを作っています。バイオ資源だからといって使い切るリニアモデルにするのではなく、それを再利用可能にする、リサイクルができるような設計がされているとともに、材料にできないものはエネルギーへ利用されており、151%のエネルギー自給率を実現しています。つまり、化石燃料を使わないだけではなく、地域にエネルギーを供給しているプラスの役割を担っています。資源を使う場合は、自分達だけでなく近隣や他業界への展開を考えて、余すところなく使い切るための、全体システムが作られています。

3.2.1 福岡県・八女市 衣食住の地域の生活圏をつなぐ新しい経済圏構築 

※このチャプターは別リンクにてご紹介

Column なぜウェルビーイングな人を増やすことが循環型社会への道につながるのか?
VOGUE等を手がけるフリーランスのファッションエディターの方へのインタビューからサーキュラーリティとウェルビーイングのつながりを紐解きます。 
**********************************最近、SDGs、エシカル、サステナブルと謳う製品は増えてきました。メディアに携わるものとしてもキャッチーなキーワードとしてよく使います。ただ、言葉が一人歩きしていることは否めません。そういうキーワードを体感としてそれってどういうことなのか?と真剣に考えて選択している人はごく一部です。
難しいのは、地球にも人権にもよいものは値段が高いのです。消費者として考えると、デザイン性が同じものだとして、同じ白Tシャツなら、いくら耐久性があろうが、天然素材でつくられていようが、安いユニクロの製品を選んでしまいます。エシカル、サステナブルのリテラシーがあったとしても、選べないのです。
つまり、総合的なアプローチが必要です。そこには単純な環境に良い悪い、の二者択一ではないということに気づく必要があります。そもそも、本当に私にはそれが必要なのだろうか。なぜ必要なのか、ものをそんなに持たなくても良いのではないか。私にとってこの商品なのだろうか。と、単純にものを選択し、購入するに至るまでのプロセスでひたすら自分に向き合い続け、問い続ける精神性が求められています。それを経ると、むやみやたらに消費しなくなります。必要なところに必要なことだけお金を使う人が増えていき、よい循環が生まれます。
本当にものを大切にする、自分を大切にできているとはどういうことなのか?それは、頭で考えるだけではわかりません。個人的に自分の内側に踏み込んで身体、体感をもって知るものなのです。そのステップを踏める人がどれだけいるのかにかかっています。
私の場合は、子育てを始めて一人では立ち行かなくなったことがきっかけです。ひたすら自分と向き合った結果、一人で頑張るのをやめました。早々に弱さを認め、一緒に育てようとコミュニティをつくると、そこに集まるメンバーは同じように向き合ってきた人ばかりで、自然発生的に助け合いが生まれました。そして、精神的なつながりや安心感を感じることで余白ができ、自然と、地球のことまで視野を広げて考えられるようになりました。
**********************************
いくら循環システムをつくりあげたところで、それを選択するのが人間である限り、人のウェルビーイングが循環システムには欠かせないものだとわかります。人々の選択が多様で自律的である、そしてその人の人生を本質的に満たしているかを自己認知することが循環の必須条件になるのです。

3.2.2 福井県・福井市、鯖江市 20km圏内の繊維関連企業のサプライチェーン統合

MADE BYは福井の繊維関連企業のネットワークを活用し、20km圏内でのコンパクトなエリアで完結するものづくりを目指す取り組みです。2022年12月時点で縫製、織繊維、プリント、染色業など6社が参加し、産地ツアーやデザイナーとのマッチングなどを行っています。福井は古くから続く絹織物の歴史を持ち、独自技術を高めた繊維関連企業が集積しており、グローバルに通用する高品質な日本技術を持っています。以前は分業され、工場ごとに独立していましたが、コロナ禍のマスク不足をきっかけに、6社が協力して20km圏内でのマスク製造、供給に成功しました。現在は、デザイナーとのマッチングでプレコンシューマー廃棄物のアップサイクル製品づくりの機会創出や、工場見学ツアーが主ですが、今後、福井の地域圏内に完結した一連の生産・販売・修繕を実現させ、高品質で環境負荷の少ないサーキュラーファッションによる新しい経済圏の構築がされることを期待しています。 

PICTURE 34:MADEBY tour visit


3.3 動植物の自然の営みから循環を作り出す サーキュラーデザイン

2.1で繊維の文化と歴史に触れましたが、繊維工業が発達する前の江戸時代の循環システムはものを大切にするだけではなく、その地域の行事やお祭りに沿って衣服を地域と繋がりを感じさせるものとしてサーキュラリティを形成していました。その昔ながらの繊維の使い方を元にしながらも新しいアイディアや現代のニーズに寄り添い、日本の市場に受け入れられている事例をご紹介します。

3.3.1 岩手一関市 生命の営みをブランディングして循環を生み出す 京屋染物店

※このチャプターは別リンクにてご紹介

3.3.2 沖縄 フルーツの非過食部分を活用したサーキュラーのグローバル展開Food Reborn

大量に廃棄されるパイナップルの葉やバナナの茎など非可食部分から天然繊維を抽出する技術とそれを使って生産農家に還元する仕組み、天然繊維事業「ファーマーズ・テキスタイル」を展開するベンチャーです。古くから技術のある”葉から繊維を抽出する”機械に着目、改良し、2022年に高い生産効率を確保し品質向上させて、小型装置の開発に成功しました。これにより繊維資源を収集して製造するための輸送にかかる費用やCO2排出量を削減するだけでなく、農園の近くに機械を配置することでコスト削減を可能としました。これはサステナブル繊維の開発で課題となる、本来食べられるものを樹脂に使うことや、製造する段階で排出されるCO2量が多いことへの解決となっています。ビジネスモデルの特徴は、現地の農家に機械を無償で貸し出し、繊維重量に応じて支払いをするサブスク型であることです。これは農家所得向上と環境負荷の少ない繊維製造の両立を目指すRegenerativeな取り組みです。本事業は沖縄に限らず、より繊維を必要とする、東アジアへのビジネス展開を進めています。2022年10月には台湾の紡績企業215社を束ねる台湾紡績協会(TTTA)と連携を発表し、2022年11月には、パイナップルの生産量世界第4位のインドネシアの農業組織INDUK KUDとフードリボンと天然繊維循環国際協会(NICO)の3者でMOUを締結しています。今後は、各国政府機関主導のもとプロジェクトが推進されます。また、ファーマーズテキスタイルに加えて、繊維抽出過程で出た残渣を活用して、ストローやカトラリーなどの生分解性製品をつくる事業や、それらを回収し土壌改良剤として活用した野菜をカフェで販売する事業「株式会社 土と野菜」を行っており、まさにサーキュラーな取り組みだといえます。機械のトレーサビリティのシステム開発も進めていきます。

 

3.4 オープンな繋がりから自律と新しい経済圏構築を促すサーキュラーデザイン

ここまでの事例を見ていくと、テキスタイルを中心とした地域に新しい経済圏のあるサーキュラーエコシステムをデザインするためには、アイデンティティをもった地方の繊維企業が増えることが必要だと考えられます。

Simon Sinekは、人や組織が成功するために必要なことは、単に「what(何をするか)」や「how(どうするか)」ではなく、自分たちの行動や活動に対する根本的な目的や信念である「why(なぜするのか)」を理解することが重要だと説いています。地方にある繊維産業は往々にしてアパレルの下請けに留まることが多く、技術力を磨くものの、自分達のWHY(哲学)を明確にして、そしてWHYとHOW、WHATに一貫性をもって技術を活かして思いや地域に根付く製品を生み出すことこそがサーキュラーファッションの前提になるのです。

そういったWHYは一人では生み出せません。地域で実践する人たちとつながり学んでいくのです。そういった地域同士をつなぐマッチングを推進する取り組みを下記に紹介します。

 
PICTURE 36: The Golden Circle by Simon Sinek

3.4.1 地域横断の自律分散型ネットワーキングシステムの構築 テキスタイル産地ネットワーク

テキスタイル産地ネットワークとは、ものづくり産地の課題に向き合う全国の実践者が集まり、新しい未来の「ものづくり」の可能性を共有するコミュニティです。これまでに東京、福岡、愛知、京都、沖縄、八王子などで開催され、主な参加者はそれに加えて、岩手、埼玉、富山、福井、岡山などの各地で繊維工業を営み課題に向き合ってきた実践者たちです。既存の同業種や同地域など組合の枠組みでは実現されない、業種や地域を超えた交流により、一つの地域や企業では考えつかない課題への新たな糸口を見つける機会や共創の機会を探っています。この取り組みにより、岩手の京屋染物店SAPPAKAMAという日本の作業着と愛知の伝統工芸「名古屋黒紋付染」がコラボレーションが生まれました。。地域同士のつながりで商品の共同開発などが実現しています。今後は課題の解決やグローバルネットワークに広げていく予定です。こういった自律分散型組織のコミュニティからの地域ごとのサーキュラーデザインの発生を期待します。[1]

3.4.2 京都市:職人の自律性を高めたエドノミーの実践

DESIGN WEEK KYOTO[1]は、京都のモノづくりの現場をオープンにし、国内外からの訪問者との交流を通じて新しいアイデアやプロダクトを生み出すことを目的としています。代表の北林さんは、循環型社会とエコノミーの提唱者であり、地域の自然や風土に根ざしたモノやコトをグローバルに伝え、持続可能な社会を実現することを目指しています。彼らは地場産業の販路開拓やビジネスコーディネーション、文化交流イベント、コミュニティ活動、ツアーやセミナーなどを実施しており、消費者には伝統工芸に親しんでもらい、担い手同士には交流を促進して新たな創造の糸口を作り出すことを目指しています。また、伝統工芸の担い手には、ブランディングやマーケティング、PRなどの教育や支援を提供し、職人の自律性を高める取り組みも行っています。これは、伝統工芸の6次産業化や、リペアやリユースなどの新しいビジネスの可能性を拓くサーキュラーな取り組みにつながると考えます。

*エドノミー
Edonomyとは、Edo(江戸)+Economy(経済)の造語。江戸期においては、モノを無駄にしないリサイクル・リユース(循環型経済)が行われていました。江戸期の人々の知恵や工夫を学び、自然のメカニズムのもと、最新技術を融合させていくことが地球規模の危機を回避するひとつの手段であるという考え方や取り組みをさします。

3.4.3 職人を愛して伴走し教育するデザイナー集団 株式会社スマイルズ パスザバトンマーケット

※このチャプターは別リンクにてご紹介

Chapter3の後半テクノロジー編は別リンクにてご紹介


[1] https://designweek-kyoto.com/


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