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エッセイ『巴裡 小川軒のレイズン・ウィッチ』

 レイズン・ウィッチというお菓子をはじめて食べたとき、ちょっと苦手だな、と感じたのは、今思えば、自分がまだ子供だったからかもしれない。そのときは洋酒の香りがきつく感じられて、本来ならばおいしく感じるはずのふくよかなレーズンさえもなんだか苦手に感じてしまい、それ以降、レイズン・ウィッチは自分のなかで特に関心のない、遠いところにあるお菓子になってしまった。

 なので長らく自分から率先してレイズン・ウィッチに手を伸ばすことはなかったのだけれど、大人になったある日、誰かのお土産か何かで、巴裡 小川軒の元祖レイズン・ウィッチをいただいたのだ。でも正直なところそんなに嬉しくなくて、でもせっかくだから一つくらい食べてみようかな、くらいのノリで食べてみたのだ。すると、あれ、おいしい。レイズン・ウィッチってこんなにおいしいお菓子なんだっけ、と、そのとき記憶のなかでとどまっていた印象ががらりと上書きされたのである。

 サクッとした、上質なバターとバニラを使った厚めのクッキーにサンドされているのは、お店特製の濃厚なクリームとたっぷりの肉厚レーズン。食べると口のなかに芳醇な洋酒の香りが広がり、甘さも控えめでとてもおいしい!

 味の好みって変わるんだなあと思った。それとも自分も大人になって、多少は舌が肥えてくれたところもあるのだろうか。あるいはかつても、この元祖レイズン・ウィッチを食べていたならば、最初に抱いた印象も違っていたのかも(?)。

 巴裡 小川軒のモットーは、「材料八割、腕二割」だという。それはいかに良い腕をもってしても、食べ物の良し悪しの八割は材料の良し悪しで決まるため、材料の選定は極めて重要である、との意味合いだという。レイズン・ウィッチもだから、安心で、厳選された材料を使用している。こだわりをもって丁寧に作られた自信作だということは、食べれば分かるこのおいしさが何よりもの証拠なのかもしれない。

 今ではこの巴裡 小川軒のレイズン・ウィッチはすっかり自分の好きなお菓子のひとつになった。購入してすぐ、クッキーがまだサクサクッとしているときに食べるのもおいしいし、日にちを少しおいて、しっとりしてきた頃合いに食べるのもまたおいしい。けれど鮮度の良い状態を提供するために賞味期限は五日間と短めなので、食べるタイミングには気を配る必要がある。でもそれはあくまで自分の口福のための、愉しい気配り、なのである。

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巴裡 小川軒のレイズン・ウィッチから想像した
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