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レアチーズタルト


好きだったものを嫌いになったり
嫌いだったものを好きになったり
そうやってわたしは今日もころがる


憧れだった喫茶店がいつのまにか、かき乱された悪い思い出になっていた。2階の喫煙席、いつも左から3番目の席にいた。ショートケーキを食べたことも、モンブランを食べたこともあった気がする。コーヒーには決まって砂糖のついたビスケットが1枚添えられていた。こういうの、うれしいよね、と彼に笑いかけたけど、どんな反応だったかは覚えていない。わたしは、どれだけ暑い日もホットを頼んだ。

彼の頼むブルーベリーのタルトを一口もらいたかったけれど、一口ちょうだい、と声に出すことが、あの時の私には出来なかった。今だったら、と考えてみたけど、たとえ今だろうと、言える気はしない。

ほんとうにブルーベリータルトが食べたいのなら、自分で頼むべきなのだ、と片付ける。


今日は、初めましての女の子と喫茶店に行った。はじめて1階の席に座った。入り口できいたたばこ吸う?の質問に、彼女が首を横に振ったとき、なぜだかとても、安心した。なんとなく、2階には登りたくなかった。禁煙席に座った瞬間、初めてではないけど、初めてのような、不思議な感覚に陥った。

お水を一口飲んでから、入口のショーケースをふたりで見に行く。ねぇみて、洋梨のタルトおいしそう、ラズベリーショコラ可愛いね。あぁ、あの日もわざわざ階段を降りてケーキを見にきたな、ひとりで、と思い出して、そしてすぐに忘れた。


彼女は季節限定のりんごとクリームチーズのタルトに決めたが、売り切れだったのでイチゴのタルトにしていた。それとアップルティー。私はレアチーズタルトとカフェラテを頼んだ。

アップルティーにもビスケットが付いていたけど、彼女はそれについて、何も言わずにいた。

レアチーズタルトは、レモンの酸味がとてもつよかった。わたしはレモンのお菓子がとてもすきだ。いつかレモンケーキを作りたい、と目論んでいる。あぁ、彼もレモンのお菓子がすきだと言っていたな、と思ってすぐに忘れた。


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