ホームベーカリー
ピー。ピー。ピー。
音に反応してるのではない。
匂いだ。
焼きたてのパンの匂いに、反応しているのだ。
ホームベーカリーで食パンを焼いた。
スタートボタンから1時間もすれば、お家の中は、あの、天国みたいなパンの匂いでいっぱいになる。
カパ。ポンッ。
焼きたて。
ここから、世界にはわたしと焼きたての食パン、しかいなくなる。
ふわふわで熱々の大きな四角形を、ばらばらにしてぎゅぎゆっと口の中におしこむ作業に、無我夢中になる。言葉通り、我を無くし夢の中の世界へと入り込むのだ。
もふっ。んぎゅ、ぎゅ。ぱく。もぐもぐ。もぐ。ごく。
ん。
気がつくと、あんなに大きかったはずの四角形がへなへなの崩れたビルみたいな形になっている。あれ、わたしいまどこにいるんだっけ。
食パンの形を認識した瞬間、これはようやく、平常の世界に戻った合図。
満腹と罪悪感が同時に押し寄せる。
あぁ…またやってしもた。
だけど、
また、おなじことを繰り返すのは決定事項。
焼きたてのパンの匂いの前で、欲望に勝とうとは、するべきではないことを、私はもうしっている。
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