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#詩論
藪から棒に文学論 おかしみ9
「おかしみの美学は、日本にもあり、フランスにもある。普遍的だって、言いたいんだね」
「いかにも。普遍的なのだから、古典にだってあるさ、部分的には、ね」
「ほう。たとえば?」
「かの有名な三夕の歌さ」
「コホン、コホン、コホン、ってヤツかい」
「そりゃ、三回咳をしただけだろう‥ 藤原定家のさ。」
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ
「これも、持ち上げて落としているのかい」
「そうと
藪から棒に文学論 おかしみ8
「そういや、最初の僕の質問を覚えているかい」
「覚えていないとも」
「そう威張るなよ。例の『月下の一群』の詩だよ」
「マックス・ジャコブの詩で、堀口大学の訳したヤツだね」
ナポリの女乞食
ナポリに住んでゐた時のこと、私の住居(すまひ)の入口に一人の女乞食がゐた、毎日私は外出の馬車に乘る前に、かの女に小錢を投げてやつた。
或る日、かつて一度も感謝の言葉を耳にしないのを不思議に思つて、私は女
藪から棒に文学論 おかしみ論7
「西脇の詩を一つ、紹介しようかしらん。『旅人かえらず』の26番目だ」
昔法師の書いた本に
桂の樹をほめていた
その樹がみたさに
むさし野をめぐり歩いたが
一本もなかつた
だが学校の便所のわきに
その貧しき一本がまがつていた
そのおかしさの淋しき
「これがその、お菓子の美学かい」
「『おかしみ』の美学だね。いつから君は昭和的ユーモアをふりまくようになったんだい」
「ダジャレって言おうか。君との付
藪から棒に文学論 おかしみ論6
「もちあげて、落とす。チョコをもらったと思って浮かれていたら、もらっていないとわかった。そこにおかしみがあるって言うんだね」
「そうさ。西脇のいう『根本的な偉大なつまらなさ』だね」
「なんで『根本的』なんだい」
「そりゃ、人生、そんなことは実にしょっちゅうあるかさら」
「それが『偉大』なのかい」
「そうさ。人生の本質だからね。それを記録すれば、文学となって世間をにぎわすからね。果てはノーベル文学賞
藪から棒に文学論 おかしみ論1
塾講師と詩人が話している。どうやら詩論のようだ。
「君は詩を書いていると言っていたね」
「まあ、そうだ。いまはマルセルとブーバーについて書いているよ」
「マサルとバーブー‥ 誰だい」
「何を言っているのやら。どちらも実存主義者さ。いまじゃ、枯れ尾花みないたものかな。わび・さびだね」
「君こそ、何を言っているのやら‥ そういえば、わび・さびといえば、関係しているのかわからないが、先日堀口大学の『月
藪から棒に文学論 おかしみ論2
「ま、失敬なのはお互い様さ‥ 閑話休題。僕が君に聞きたかったのはだね、ある詩のよさがサッパリわからないんだ。マックス・ジャコブの『ナポリの女乞食』だ。これはどこがおもしろいんだい」
ナポリの女乞食
ナポリに住んでゐた時のこと、私の住居(すまひ)の入口に一人の女乞食がゐた、毎日私は外出の馬車に乘る前に、かの女に小錢を投げてやつた。 或る日、かつて一度も感謝の言葉
藪から棒に文学論 おかしみ論3
「おかしみは人間存在の根源さ。対象なり自分なりを持ち上げて、それから落とす。そこに生じる感情がおかしみ、さ。寂しさにちょっとした滑稽味をまぶしたものさ。」
「持ち上げて落とす、のかい」
「そうだね。それが自分の人生に深いかかわりを持つんだったら、おかしみじゃすまない。深刻な喪失感を抱くだろうね」
「喪失感、かい」
「そうさ。でも、自分の人生にさほど影響を及ぼさないような、実に些細なことだったら、さ
藪から棒に文学論 おかしみ論4
「つまり、せっかくチョコをもらったと思ったら、それが間違いだった、それをどう思うのか、ってかい」
「いかにも」
「そりゃ、残念無念だね」
「感度が鈍いねえ」
「君の好感度が低いよりマシさ」
「君は残念に思うんだろうけど、彼女に特にゾッコンだったってわけでもないんだぜ」
「う~ん、だとしたら、ちょっとときめいたけど、結局何かの手違いでがっかりはするね。あと、ちょっとクスッとしちゃうかも、ね」
「クス
藪から棒に文学論 おかしみ論5
「よくわかったような、わからないような」
「つまり、よくわからなかったんだね」
「まあね。チョコがもらえたと思ったら、もらえてなかった、それに気づいて勘違いしてた自分がちょっと滑稽に思った。それがおかしみってったって、ねえ」
「西脇順三郎はこんなことを言ってるよ」
人間の存在の現実それ自身はつまらない。この根本的な偉大なつまらなさを感ずることが詩的動機である。詩とはこのつまらない現実を一種独特の