見出し画像

別居母親 事例2 鬱で入院中に子どもを取り上げられた

離婚・別居からの親子の引き離しは、子どもに対する虐待であり、配偶者に対するDVである。とくに、まだ幼い子どもを母親から引き離すことは、双方にとってあまりに残酷だ。

乳児期は、身近にいる特定の大人との愛着形成によって情緒的な安定が図られる。必ずしも母親でなければというわけではないが、少なくとも愛着形成の初期のプロセスは、妊娠・出産、授乳を子どもとともに体験してきた母親が担うことがしぜんである(もちろん事情によってそれが叶わない場合もあること、父親や養育者によっても愛着形成は十分に図られることは承知している)。

私は自身の出産体験から、幼い子どもは、母親とある意味、肉体的なつながりがあると感じている。まさに血肉を分けた存在なのだ。
虐待などがある場合を別として、母親と子どもの引き離しは、あってはならないことだと思う。
以下、サエコさん(仮名・36歳)のケースを紹介する。

産後鬱から精神科に入院
 サエコさん(仮名・36歳)は、大手メーカーに正社員として勤める女性だ。32歳で、1つ年下で会社員の男性と結婚し、2年半前に出産した。
「低出生体重児で生まれたことで大きなストレスがあり、鬱を発症してしまいました…」
 ただでさえハードな乳児の育児。協力し合うべき夫は、鬱にかかったサエコさんを支えてくれなかった。それどころかサエコさんを疎ましがり、休日は一人で遊びに出かけてしまう始末。一人で育児を担っていたサエコさんの精神状態は、どんどん悪化していった。
「子どもが生後半年になったある日、夫婦で大げんかをしてしまいました。夫は包丁を持ち出してきて、さすがに私には向けなかったけど、怖かった。それで、思わず家を飛び出して実家に帰ってしまったんです」
 子どもの世話を放り出して家を出てしまった。自責の念に苛まれるも、「戻らなければ」と思えば思うほど、体が動かない。
育児の手がなく困った夫は、すぐに義父母を呼び寄せたようだ。事情が考慮され、保育園にもすぐに入園できたらしい。
「実家ではほぼ寝たきり。こんなことになってしまって、私も死にたいし、お母さんがいない子にしてしまうのは可哀想だから、子どもも殺さなきゃ。そんな気持ちがぐるぐる…。追い詰められていく私を心配し、両親が病院の精神科に入院させてくれました」

3点セットをするも、夫に監護権が
 1か月半くらい入院し、気持ちが回復してくると、子どもと離れたことが苦しくなってきた。
「本当は、夫と子どもと3人で仲良く暮らしたかった。それが叶わないのであれば、夫とは離婚したいけど、子どもは私が引き取って育てたいと思うようになりました。でも、夫は拒否。弁護士に相談し、家庭裁判所に審判前の子の引き渡しの保全処分と監護者指定調停を申し立てると同時に、面会交流調停もやりました。いわゆる3点セットです」
しかし、子どもが1歳前とまだ小さい愛着形成時期に、夫側に監護の実績があるということで、子の引き渡しと監護者指定については認められなかった。
「子どもを置いて家を出てしまったこと心から後悔しています。でも、あのときはどうしようもない精神状態だったんです」

せめて面会交流したいのに
子どもが預けられている保育園のホームページに時々、子どもの写真が掲載されている。夫の両親と保育園の力を借りている子育てに、サエコさんの入り込む隙はない。
「こうなってしまった以上、せめて頻繁に面会交流し、子育てにかかわりたい。そのために実家を出て、元の家の近くに部屋を借りました。でも、夫は一切、子どもを会わせてくれません。はじめは私の精神状態が不安だから、最近はコロナが心配だからなどの理由をつけていますが、私には嫌がらせだとしか思えない。私に相当、恨みがあるのでしょうか」
 面会交流調停は遅々として進まず、その間にも子どもはどんどん成長していく。

ようやく再会が叶ったが
「先日、1年半の断絶を経て、ようやく子どもと再会しました。なんとか30分だけ会わせてもらいましたが、すでに2歳になっている子どもは私を母親として認識できませんでした」
その後、月1回2時間の面会交流が始まった。が、その頻度・時間では、親子の関係づくりはなかなかすすまない。愛着形成期に親子が引き離されていたことが、親子にとっていかに残酷か。
親子の引き離しが話題になるとき、「面会交流調停をすればいい」という声がよく聞かれる。サエコさんも、引き離されてすぐ、面会交流調停を含む3点セットをおこなった。しかし、その結果がこれだ。
1年半もの間、決着がつかず、ようやく面会交流が決まっても、親子の良好な関係がすぐに築けるとは限らない。
しかも、月1回の面会交流が今後も続く保障はない。面会交流は強制力が乏しく、夫の胸先三寸で決まる。
サエコさんは不安に苛まれながら、日々を過ごしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?