石坂浩二と柳葉敏郎の違いを考える

　考えるも何も何もかもが違うだろとしか言いようがないのですが、このようなブログを見つけて滾ってきてしまったので書く。私が書いてんのかと思ったくらい一字一句同意しかない。

『どこをとっても隙が無い完成されたおっさん/石坂浩二（73歳）』

『属性持ちすぎの純朴すぎるおっさん/柳葉敏郎（54歳）』

　石坂浩二は完成されている。何も足さない。何も引かない。ウイスキーだ。ちょっと前に例の小さいノートに「石坂さんはなんというか塩だけで食べる料理みたいだなあ」と書いたのだけれども、それもつまりそういうことでしょう。石坂浩二は石坂浩二としてそこに存在しているだけで美しい。動かしがたい美を感じる。

　この「塩だけで食べる料理みたい」というのは「『枯れ専』って言うけど、ギバちゃんには『枯れ』って全然しっくりこないけど石坂さんは『枯れ』が似合うなあ」という思いつきから出た言葉だったりする。「枯れ専」の「枯れ」は恐らく「長い経験の結果派手さが消え、かえって深い味を持つようになる。老練になる。円熟する。」(広辞苑第六版より)という意味の「枯れ」なのだろう。当然石坂さんにもこの「枯れ」がある。しかし、これが広辞苑にある「長い経験の結果」到達した境地ということなら話は簡単だったのだが、石坂浩二はそんなに簡単な男ではない。私は30代くらいの頃の石坂さんからもこれを感じてしまう。

　30代くらいの頃といえば金田一耕助。金田一さんはそれはもう髪はボサボサだし袴はくたびれてるしフケスプリンクラーなのであるが、それでも彼自身の透明感と美しさはいささかも損なわれていない。むしろ見た目が冴えなければ冴えないほどかえって美が引き出されるようにすら思える。金田一さんは決して堂々としていないどころかでかいのにちんまりしていていつも所在なげなキャラクターだが、それなのに圧倒的な存在感を持っている。石坂浩二はどこにいても石坂浩二だし、どこかに埋もれて紛れてしまうということがない。そんな凛とした「芯」を私はこの人に感じている。

　ところで石坂浩二といえばダークライである。映画で声優をやったから「といえば」が成立するのだが、それは置いておいてダークライには進化前も進化後も別フォルムもリージョンフォームも(今のところ)ない。ダークライはダークライとして単体で完成している。黒と白と赤と来てちょっぴり青で構成されたシンプルなデザインはやはり何も足さない、何も引かない美しさを持っている。そういう意味でやはり石坂浩二はダークライなのである。別にそういう理由でキャスティングしたわけじゃないだろうけど。じゃあどういう理由でキャスティングしたんだろう。永遠に気になってる。

　で、柳葉敏郎。「枯れ」が似合わないなら何なのかという話だが、「ギラギラ」とかなんじゃないかと思っている。それも差し歯の白さとか日サロで焼いた肌みたいな人工的なギラギラじゃなくて、内から沸き出てくる自然的なギラギラ。言うなれば18歳の青年の持つギラギラ。もしかしたら本当に18歳なのかもしれない。バラエティではしゃぐしはしゃぎすぎて勝手に照れるしぶりっこポーズもしてくれるしスタバでフラペチーノ飲むし。1961年1月3日生まれだから2023年時点では62歳であるなどという常識に囚われない18歳なのかもしれない。

　石坂浩二が塩だけで食べる料理なら、柳葉敏郎は素材そのものというか「+α」が真骨頂の人だと思う。決して素材だけではおいしくないという意味ではない。石坂浩二がダークライならば柳葉敏郎はイーブイである。イーブイもイーブイのまま一生を終えても問題ないくらい魅力的だが、進化してカッコいいブラッキーになってもかわいいニンフィアになってもいい。柳葉敏郎も直嘩っ早いけどは優しい下町のあんちゃんにも雲の上のエリートにも子煩悩なパパにもエキセントリックな殺人鬼にもなれる。属性はたぶんこれからも増え続けていく。無限の可能性が柳葉敏郎には秘められている。そういうところも18歳っぽい。

　イーブイとグレイシアが長い耳としっぽで四足歩行というベースは同じでまったくビジュアルが違うように、特に室井さんで顕著なのだが、肉体は柳葉敏郎なのに「柳葉敏郎」がいなくなることがある。例えば室井さんは「柳葉敏郎」のベースが持つ属性を可能な限り封印した上で成功したキャラクターである。

　素の「柳葉敏郎」とは対極にいるキャラクターにもかかわらず、室井さんは至って自然に「柳葉敏郎」の体を持ってそこに存在している。こういうキャラクターをあまりにも自然にやってのけるので、もはやどこまでが「素」の柳葉敏郎でどこからが「素」じゃないのかがわからない。というかもうこんな区別をつけること自体がナンセンスなのかもしれない。プレーン柳葉敏郎のように見えて実はこっそり「+α」を装備している状態なのではないか、今見てる「ギバちゃん」も実は「柳葉敏郎」の役柄のひとつなんじゃないか。そういう意味では確かにこの人はミステリアスである。

　このように違うところばかり見てきたが、この2人にはちゃんと共通点もある。血液型である。O型。以上です。