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No Troika, No Baseball Life.

 「No pain, no gain.」という言葉が割と嫌いではない。


 「痛みなくして得るものなし」は「やりたくないことはやめよう! 頑張らなきゃダメなんてクソくらえ」という風潮の中では毛嫌いされがちなフレーズなのかもしれない。もちろん痛みはない方がいいに決まっている。すべてがトントン拍子にうまくいって成果を得られるならそっちがいい。しかし、それでも私は何かを犠牲にしなければ何かを得られない時も確実にあると思っている。痛みをもって学んだことが強烈に体に刻み込まれたり、悔しさがエネルギーになったりもする。


 そういえば、同じような意味の言葉で「No rain, no rainbow」というのもある。こちらの方が語感は綺麗だろうか。そしてより説得力もある。例えば私みたいな雨が好きな人間からすると「何かを犠牲にせねばならん」的な強さは目減りしてしまうが。


 で、なぜいきなりこういうことを言い出したのかというとそれは土曜日にあの唐川侑己さんがいよいよ帰ってくるという今年度最高のニュース(ちなみに今年度最悪のニュースは唐川さんが離脱したこと。つまり最高と最悪を総なめ。おめでとうございます。何もめでたくないが)が飛び込んできた代わりに大野雄大とロッテが負けたため、唐川さんを得るのと引き換えに大野とロッテの負けを甘んじて受け入れなければならないのだと考えないとやってられないからである。しかも両方偶然0-1。No Marines&Ohno loses, no Karakawa. これはもう完全にpainでrainなのだが、やはり幕張のプリンスともなると払わなければならない犠牲がそれなりになるものなのだろうか。幕張の平民だったら大野とロッテの引き分けぐらいで済んだかもしれない。


 まあ、長いこと何の音沙汰もなかった唐川さんが帰ってきて、藤原くん(一足先におかえりなさい)がグラスラを打ち大野がノーノーしてロッテは爆爆爆連勝するとかそんな都合のいいことは起こらない。世の中はそんなに甘くない。そういえば「世の中そんなに甘くないぞ」という言葉も嫌われがちだが、どっちかというと甘いと思って甘くなかった時のショックより甘くないと思ってうまくいった時の喜びを味わいたいため「甘くない」ということにしている。


 しかしなぜかそんなに簡単にできるほど世の中は甘くないのに大野にはすぐノーノーを要求してしまう。なんなのだろうか。一回できたからもう一回ぐらいできるだろと思っているのだろうか。最高で3回やった人も何人かいるにはいるけれども。もう一回やったらまたぴょんぴょんしてほしい。いや、次はクールなスカしバージョンでもいい。それを見て今度こそスカせてよかったね大野! って言いたい。


 などということを考えているうちに大野は阪神打線にちょこちょこ打たれて1点取られていた。まったくノーノーではない。が、7回1失点なので好投である。が、この失点のせいで負け投手である。もうお分かりだろうが、あの「大野は悪くない」の再来である。先に1点取られたらもう負けのような、毎回サヨナラのシチュエーションで投げてるみたいな例のあれ。最近はうまく打線と噛み合ってきてるしあの報われない大野にムズムズしながらもキュンとしていたのが懐かしいと呑気に思っていたらこれ。懐かしいけどもう一度見たいとは言ってないんだよ。私にとって「大野は悪くない」はもう思い出に変わってたんだよ。今後はハッピーベースボールプレーヤー大野しかお送りしてほしくなかったんだよ。伝わってなかったのかもしれないけど。好きだけど。悪くない大野も。健気なエースって感じだったけど。


 いくら愚痴っても記録は記録でどうしようもないので、それ以外の大野いいぞポイントを列挙することとする。まず甲子園×大野。今シーズン初めてらしい。やっぱり甲子園には他のどこにもない特別な雰囲気がある。今年は交流戦で唐川さんも甲子園のマウンドに経ったし、藤原くんは高校時代もプロ時代も甲子園でホームランを打ったし、実は柳葉敏郎も「アゲイン」という映画で本物の甲子園のマウンドに立っている。さらにサザンも甲子園でライブをしたことがある(1996年「ザ・ガールズ万座ビーチ」)。つまり私の推しは全員甲子園に集まってくる。


 本当はローテ通り金曜日先発予定だったのが台風のせいで試合中止になり、スライドでサタデー大野となったため太陽光のもとで大野を見ることができた。やっぱり青空が似合う。あとズボンがちょっと短かった。なんだろうあれ。イメチェン? いつもだけど投げた後ぴたっと止まるのも好き。1回裏のピッチャーゴロがいい。帽子を脱いで髪をかき上げる仕草が好き。大野のようなタイプがあれをやるとグッとくる。


 ここまで録画したものを見ながら書いていたのだが、パテレに頼れないセ・リーグの人間であるところの大野の試合は毎回録画している。最初の頃は勝った試合だけ残すつもりだったけれど、負けた試合も消すに消せない。「これは負けたけどでもこことあそこの大野のあれが良かったんだよなー!」というものばかりだ。そこで気づいてしまった。私は負けた大野も勝った大野も援護されない大野もピンチを切り抜けて吠える大野も味方のファインプレーにガッツポーズする大野も4番にホームランを打たれて崩れ落ちる大野も全部好きなのである。マウンドに上がってくれさえすればもう「自分で操作できない部分」(by大野)の勝ち負けなんて些細なことだ。いや些細ではないが、唐川さんの夏季休暇を経た今では元気に投げてくれるだけでありがたいという心境に達してしまった。そういえば大野も今振り返ってみるとほんのちょっとの間だが抹消されていたことがあったし、藤原くんもちょっとだけいなかった。スリーカードが全然揃わなかった。


 できれば誰も怪我もコンディション不良もなく常に元気に野球していてほしいけれど、そういう時があるからこそグラウンドにいてくれることのありがたみを感じられるのかもしれない。やっぱりNo rain, no rainbow、雨の後には虹が出る。






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