見出し画像

野球場のトロイカ

 今、球界の推しがトロイカ体制になっている。藤原恭大と唐川侑己と大野雄大、これが私の野球トロイカである。スターリンとジノヴィエフとカーメネフの元祖トロイカより平和でいい感じだ。権力闘争とか発生しないし。

 このトロイカ、私の好みが絶妙に定まらないところを如実に反映している。「ロッテ」でくくれば大野があぶれるし、「平成生まれ」でくくっても大野があぶれる。「ピッチャー」でくくれば藤原くんがあぶれるし(中学までピッチャーやってたのはノーカウントとする)、「30代」でくくっても藤原くんがあぶれる。「関西出身」でくくれば唐川さんがあぶれるし、「左投左打」でくくっても唐川さんがあぶれる。「顔が小さい」でくくると大野があぶれるのは余計である。が、投げる腕が違うのに唐川さんも大野も右打者の方が得意なのは野球の深いところだ。


 「推し」と呼べるくらい好きな選手なら他にもギータ先生とか山川穂高さんとかもいるのだが、そういう方々とこのトロイカを構成する人たちはどういうところが違うかというと、「試合に出てる時にドキドキするかどうか」というところである。筆頭は私を酸欠にさせるのが得意な魔性の唐川さんだが、とにかく打ってアピールしないといけない藤原くんの打席もドキドキするし、大野は推しチームではないのでちょっとはマシだが大野の白星は死ぬほど欲しいのでちょっとドキドキする。大野に関しては先週3勝目を挙げた時数字を覚えるのが苦手すぎて適当に「5勝」とか言ってしまい、このままだと私が間違ったままになってしまうので早くあと2勝してほしい。今気づいたけど今のところ大野より唐川さん(4勝)の方が勝ち星多いんだな。


 このトロイカが全員いい成績を収めていてくれれば私の毎日はウルトラハッピーベースボールライフになり球場はお花畑のようになりいやぁプロ野球って本当にいいもんですねと水野晴郎みたいなことを言ってニコニコしながら暮らせることであろう。しかし現実の、少なくとも今週のトロイカはどうか。藤原くんは2軍にいる。唐川さんは登録抹消である。首が痛いらしい。あの美しい首筋が。いや美しさは関係ない。


 ということであっという間にただひとり1軍に戻ってきた大野雄大がトロイカ最後の希望になってしまった。3人もいるから大丈夫だろうと思っていたのに全然大丈夫じゃなかった。私のウルトラハッピーベースボールライフ、脆弱すぎる。こうなったら大野さまになんとしてもがんばっていただくしかない。もう充分がんばってるけど。大野にはつい「なんでもいいからとにかくがんばれ」と言ってしまう。雑。「とにかくがんばる」のが似合う人だと思っている。


 ここ最近のフライデー大野からチューズデー大野に転職したので、この日が出社日にあたる私は試合の最初のあたりを見られず、帰ってテレビをつけたら2点取られていた。また2点。2点取られるのが得意なのだろうか。3点よりいいが。


 しかしながら、2点は取られてもその2点で我慢できるのが最近の大野のいいところでありえらいところでありグレートなところである。結局大野は2失点を守り抜いて(失点を守り抜くというのも変だが)8回まで投げた。えらすぎる。偉人だ。8回2失点は十分好投なのだが大野自身も含め味方に3点取っていただけなかったため大野はこのグレートな成績で負け投手になった。グレートなのに負ける、ちょっとよくわからないがこれが野球なので仕方ない。


 先ほど「大野も含め」と言ったが、セ・リーグはピッチャーが自分自身を援護することも実はできる。しかしご存知の通り今シーズンの大野は17打席立ってノーヒットである。そして大野に関しては「まあ打てなくてもまあ……」みたいな感じがある。解説の森さんは「先頭だし本当は出塁したいところだけどそう簡単にはいかない」みたいなことを言っていたし、正直私も思っていた。大野雄大は大野雄大であって藤浪くんとかではない。大野はエースとしていろいろ背負いすぎなのだ。2失点とか。今日は1打席目でフォアボールを選ぶという偉業を成し遂げて出塁率を.050に上げたし、なんか飲んであわててベンチ前に出てくるバッター大野はかわいいし、というかヘルメットをかぶると急に少年のようになってしまう大野はいつでもかわいいし、サカナクションの「新宝島」は名曲だし、そこを楽しんでやろうという心構えでいた。


 そうしたらなんと、なんと、大野はヒットを放った。それも首位打者のようなうまい流し打ちを。しかも次のレフトフライでタッチアップまでした。すごい。タッチアップしただけで歓声が上がるというのは大野を甘やかしすぎではないかと思うが、仕方がない。大野は愛されエースなのだ。これが見られただけでももうこの試合は100点である。負けてるけど。勝ってたら120点だった。幸せに暮らすコツは加点法で生きることだ。


 まあ120点じゃなかったのは事実だし、唐川さんはそもそもいないし、ついでに私は外に出たら個人的にものすごくすれ違いたくないものと5回くらいすれ違った。もう今日はいかん……いかん日だ……と思っていたら、藤原くんは2軍の試合で1安打1打点1四球1盗塁してファンが選ぶMVPになっていた。


 藤原くんにとっていい日だったなら(成績を残すのはいい日とかじゃなくて当然のことだと考えていそうではあるが)、それはそれでいいのかもしれない。トロイカ、誰か1人でも成績がよかったならだいたいOKということにしたい。1人より2人、2人より3人いればOKな日になる確率が上がる。三人寄れば文殊の知恵である(?)。


 とにかく野球トロイカ、ぜひともそれぞれがんばっていい調子でいっていただきたい。響け若人の歌、高鳴れバイヤンである。もう「若人」と言えるのが藤原くんしかいないんじゃないかという気もするが、そんなことはどうでもいい。走れトロイカ。走らなきゃいけないのも藤原くんしかいないんじゃないか? いや、それもどうでもいい。がんばれトロイカ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?